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【2020 ACL グループリーグ 第3節】上海上港vs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 いよいよACLが再開です。直前に行われたフロンターレ戦に負けこそはしたものの、一定の手応えを掴むことができました。その感覚を持ったまま、この試合に臨みたいところです。

 既に全北現代とシドニーFCとは1試合しているため、最初の相手は上海上港になります。Jリーグサポーターでなくとも、フッキの名は聞いたことがあるでしょう。オスカルやムーイもプレミアリーグで活躍していた選手たち。そういった相手と戦えることがこの大会の醍醐味だと思います。そんな相手にどう立ち向かったのでしょうか。振り返ってみます。

2.スタメン

スタメン2

■上海上港

3-5-2の布陣
・前節途中出場だったフッキ、オスカル、ムーイは揃って先発
・2戦とも多くの時間出ていたリカルド・ロペスや楊世元はベンチスタート

■横浜F・マリノス

4-2-1-3の布陣
・最前線にエリキが入る
・ボランチの一角は和田が先発
・大然が怪我から復帰

3.敵への有効打が自分の首を絞める

■上海の攻撃における狙い

上海裏抜け

【POINT】
一旦前で落ち着かせるのではなく、浅いラインの背後を狙うことが第一

 事前情報でもお伝えしましたが、上海上港は相手チームの良さを消し、弱みを突くチームです。では、そのような相手がマリノスに対してどう攻めるかというと…当たり前のように浅いラインの背後を狙ってきました。やはり誰から見てもこのハイラインは目立つんでしょうね…

ロングボール

 これは相手ゴールキーパーのパス軌跡になります。ディフェンスの背後というだけでなく、しっかりサイドバックの裏へ蹴っていることがわかります。弱点バレバレですね…

 上海の選手が裏へ抜け出す意識はかなり高い様子。というのも、フォワードだけでなく、2列目に控える中盤の選手たちもガンガン飛び出してきました。なんならウイングバックの選手も裏へ走ってましたよね。これはマリノス相手に効果的な攻撃だと言えるでしょう。しかし、その有効打が自分たちの首を絞めることにもなります。

 1つ目は、浅いラインの裏を狙うため早く攻めなければいけないこと。上海上港は外国籍選手の力を最大化するため、彼らがやりやすいゆっくりしたペースで試合を進めたいです。しかし、時間をかけるとマリノスの選手たちが布陣を整えてしまうので、帰陣を上回る速度で攻撃する必要があります。つまり、自分たちで試合のペースを上げることに。こうなると、どちらかというとマリノスの土俵ですよね。

 2つ目は、フッキに得意なプレーをさせてあげられないこと。彼の持ち味は強靭なフィジカルを活かした強引な突破と、パワー溢れるシュートです。全盛期に比べてスピードが落ちているので、裏抜けだと本領を発揮しづらい。この試合で怖い印象を受けなかったのは、この影響もあるでしょう。

フッキタッチマップ

 チームの特徴でも書きましたが、フッキが好きなのは右ハーフスペース。しかし、この試合はそこでのタッチ数が少なかったです。代わりに左低めの位置が多い結果に。得意なプレーができず、中々活躍できなかったのはタッチマップからも読み取れました。

■時間を止める男オスカル

オスカルパウサ

【POINT】
オスカルを経由すると早かったペースが遅いペースになる

 マリノスがハイプレスを仕掛けることもあり、前線に繋ぐまでタッチ数が少なくなりがちな上海。当然プレーのスピードも上がります。それは彼らが望むペースではありません。できればどこかでトーンダウンしたい。そんなことができる選手が1人だけいました。オスカルです。

 1タッチ2タッチで展開されたパスを受けた彼は、トラップすると一旦止まります。これにより時間が生まれます。ボールの位置は動かないですが、人は動けますよね。これで味方の位置を整えます。

早いペース ⇒ オスカル ⇒ 遅いペース

 時間の変換器みたいなイメージですかね。彼にボールを渡すと、時の進みが遅くなります。

 ちなみにこの止めるというプレーは『ラ・パウザ』や『パウサ』と呼ばれています。『タメを作れる選手』と言った方が馴染みがありますかね。以下の記事が参考になりますので、もしよろしければ。

4.上海の鮮やかな限定守備

■上海上港の守り方

上海守備

・前の5人は五角形を形成して中央を封鎖する
・後ろは5バックを形成して全てのレーンを塞ぐ
・サイドに出たら五角形を崩し、横パスとバックパスも切って囲い込む

 基本的には中央封鎖をしたい上海。前線の5人が五角形を形成し、後ろは5バックで横を塞ぐ。妄想絵日記で言及した守り方の1つでした。「なんか去年の山雅みたいな守り方するな」これが率直な感想です。松本山雅との違いは、サイド誘導したあとの囲い込みにあります。

 サイドバックかウイングに出ると囲い込み開始。五角形を崩し、ボールホルダーの横パスとバックパスのコースを切りにいきます。これによりマリノスの選手は前進だけでなく、退路まで断たれた状況に。不利な状況でのロストを避けるため、前方方向へ無理めなパスが増えてしまいました。

■パス方向を限定する寄せ方

限定守備

【POINT】
無作為に寄せるのではなく、連携して寄せることでパスコースを誘導する

 上海がうまいのは囲い方だけではありません。相手への寄せ方も、チームとしてしっかり設計されていました。「ボールホルダーに対して、出せるパスコースを多くて2つに絞るように寄せる」といった感じでしょうか。

・ボールホルダーから近場の選手をマークする
・フォワードはプレスバックしながらセンターバックへのコースを消す
・中盤はサイドを変えられないように横を切る

 これらを徹底して追い込み漁をかけるイメージです。上海がサイド誘導の守備ということもあり、サイドで奪われることが多かったですね。

インターセプト

 インターセプトされた位置を見ても、サイドに集中していたことがわかりますよね。特にパスがそこまで得意でない大然は、スペースがなく苦しめられていました。この試合で上海は21回インターセプト。対するマリノスは4回。パスコースを限定して方向を誘導すれば、出し所を予測するのは容易いですよね。それが数値に表れてたと言えるでしょう。

5.死角をねらえ!

マリノス攻撃

・相手の背後を取るスピード勝負
・クロスを上げるときは遠目を狙う

 全失点から見える傾向でもお話しましたが、上海は人やボールを注視するため、死角を突くと得点に繋がりやすくなります。事前にスカウティングしていたのか、この日のマリノスは裏抜けとクロスという2通りの攻め方を用意していました。

 エリキ、大然のスピードをいかした速攻で相手の背後を突く。押し込んだ場合は、水沼がディフェンスラインとキーパーの間にクロスを上げる。いずれも相手に後ろ向き守備を強いる方法になります。決勝点も仲川は相手の後ろから中央に入っていましたよね。サイド深くエグって視線を動かした高野の突破も弱点を突いたものでした。

クロス

 クロスもニアでなく、中央へのものが多かったです。浅い位置から上げるのなら、距離が長くなると相手の視線を大きく動かせる。データからも、スカウティング通りにやってたように思います。

6.数奇な巡り合わせが優位に

■オビがPKを止めるまでの過程

 この試合における勝利の立役者は間違いなくオビでしょう。流れを一変させたPKストップ。そこを少し掘り下げていきたいと思います。

①キーパーは一切見ないで自分が蹴りたい方向に蹴る
②キーパーの動きを見て逆を突く方へ蹴る

 PKは大きく分けて2つの蹴り方があると思います。前者はキッカーの中で自己完結していますが、後者はキーパーとの駆け引きが生まれます。この試合で蹴ったオスカルは、キーパーを見ながら派でした。

 このタイプの場合、助走に緩急をつける人が多いです。オスカルも例に漏れず、時折止まるかのような助走をとっていました。しかし、いくらボールに近付いてもオビは微動だにしない。こうなると、蹴る直前に方向を決めることになります。0ステップだと球威やコースが甘くなりやすいですよね。(そもそもこの蹴り方の場合は、逆を突くので不要だというのもありますが…)そこにオビの異常な反射神経が加わるとどうなるか。それは結果の通りです。

 ちなみに、フッキはキーパーを見ないでドカンと蹴るタイプです。しかもPKの第一キッカー。もし彼が交代してなかったら確実に蹴っていたでしょう。このPKは別の結果になっていたかもしれません。なんという巡り合わせ。

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 もうちょっと話を戻しましょう。直前に行ったフロンターレ戦。もしこの試合で高丘が退場していなかったら。オビは小林のPKを受けるどころか、出場すらしなかったはず。ましてや勝っていたらどうだったでしょう。浦和戦のオビとフロンターレ戦の高丘を天秤にかけた結果、ボスは後者を選んでいたかもしれません。こう考えても、色々なものが重なってる不思議な状況だったように思います

■選手を出場させる順番

ロペス入口

 フッキ交代の影響は別のところでも感じました。彼と代わって入ったリカルド・ロペス。得意としているのは左サイドでのプレーです。リー・シェンロンも交代したので、攻撃の入口になるのはロペスのところ。

 マリノスにとっては右サイドですよね。そこにいるのは誰でしょう。そう、トリコロールが誇る快足ディフェンダー、チアゴです。

上海の選手「さぁ、攻撃だ。ロングボールを前線に入れるぞ。頼むぜロペス」
ロペス「うし、任せとけ。左サイドにいるからそこによろしくな」
上海の選手「わかった。ほれ、いってこい!」
マリサポ「残念!そこはチアゴだ!!」

 もうね、安心感しかありませんでしたよ。疲れてる時間帯でも、彼なら全幅の信頼を寄せられます。これがチアゴを避ける箇所だったらもう少し怖かったかもしれません。

 ここまでの選手起用を鑑みるに、ペレイラ監督は予選6試合を通しての選手起用を考えているように思います。今回の交代もあらかじめ決まっていたものだったでしょう。しかし、フッキの投入とロペスの投入が逆だったら違った結果になっていたかもしれません。予定通りに進めた結果、想定外の結果になった試合でした。

7.スタッツ

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■パスマップ

パスマップ図

■sofascore

■ACL公式

8.おわりに

 上海上港は自分が予想していた以上に強かったです。マリノスが固かったこともありますが、これだけパスミスがあったということが厳しさを表していると思います。それでもスピードで圧倒し続けたのは、後々足に響いていましたよね。後半に怪我人が出たのは、彼ら本位のペースを大きく上回る速度が出せた証。そこは誇っていいところだと思います。

 それにしても、今季ぶっちぎりな劇的勝利でしたね。深夜なのに少し雄たけびあげて、クッションをバンバン叩いてましたよ(笑)いやぁ、あのゴールはたまらなかったですよね。マリノスサポーターで本当によかった。心の底からそう思います。

 さて、固く入って負けてしまった上海。この試合は引き分けなら最低限許せる。そういう心持ちだったはず。それを打ち砕いたということは、精神的にダメージを与えたことにもなるでしょう。次は後ろを重くせず前からガンガンいくか。それとも守備はよかったからこのままいくのか。それにより選手起用予定も狂う。「フフフフ、この3日間大いに苦しむがいいさ!」そんな気持ちになります。

 次の試合に勝てば1位突破が決まります。サクっと決めちゃいましょう。マリノスは丸々1チーム入れ替えることができます。フレッシュな選手たちを中心に、蹂躙しちゃいましょう!

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