ヤマハスタジアム1

【2019 J1 第28節】ジュビロ磐田vs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 前節ベガルタ仙台に引き分け、またしても4連勝を逃したマリノス。ただ幸いなことに、他の上位陣も足踏み。勝点差が開かなかったことは救いでした。しかし上位との差をひっくり返すには勝利が必要。次なる相手はまたもやアウェイの地でジュビロ磐田です。今季3人目の監督を迎え、フベロ監督の元、前節大分戦で初勝利を挙げて調子は上向き。互いに勝利が欲しいこの一戦の行方はどうなったでしょうか。では、いってみましょう。

2.スタメン

画像1

■ジュビロ磐田

・システムはフベロ政権になってからの4-4-2を継続
川又負傷により、藤川が先発
・怪我のためか、対策か、守谷ではなく今野が先発

■横浜F・マリノス

・出場停止が明け、喜田とティーラトンが先発に復帰
・広瀬の怪我も癒え、今節ベンチ入り
・この試合エリキがCFで、仲川が右WGに入る

3.ジュビロの攻撃の狙い

画像2

・2トップと両SHがディフェンスラインの間から裏抜けを狙う
・サイドの裏は両SBか両SHが狙うのが主
・基本的には外側でボールを回し、前線の裏抜け準備を待つ
・上原がさばき役となり、今野と縦関係になることが多い

 ジュビロの攻撃は、基本的にマリノスが敷くハイラインの裏を狙ったものでした。ディフェンスラインの間から抜け出そうとする選手は、主に2トップと両SHの4人になります。CB間から抜けることもあれば、CB-SB間から抜けることもありました。また、マリノスの弱点であるSB裏も狙われていました。ここを使うのは外に流れたSHか、オーバーラップしたSBのどちらかが多かったです。また、CFも外側に流れて抜け出すこともありました。

 この裏へのボールの出し手は、外側にU字で構える4バックと両ボランチでした。上原が前線との中継地点となり、今野はその後ろをカバー。両SBは外に開いて高い位置を取って、残った両CBも外に開く。選手間の距離を広く保つことにより、相手を左右に振りつつ、前線へロングボールを入れるタイミングを伺います。

 ただ、この裏抜け方法はいくつかの問題を抱えていました。まず、誰がどこを抜け出すか定まっていないこと。例えば、CFが中央から抜け出すこともあれば、大外まで流れてサイドから抜け出すこともありました。次に、裏に出るタイミングが決まっていないことも問題でした。まずSHが狙ったり、今度は最初にCFが狙ったりとバラバラでした。そのため、後ろで持つ選手が、どこへどのタイミングでロングボールを入れればいいのかがわからず、前線との連携があまり取れていませんでした。このように漠然と裏を狙おうと決めるのではなく、この場所にこのタイミングで、といった具合に詳細に約束事を決めていれば、より効果的に攻撃できたかもしれません。

 裏への抜け出し方も工夫の余地があったでしょう。相手ディフェンダーの目の前を通って走り出すことが多かったです。そうすると相手が危ないと認識するタイミングが早まるため、背後を取って死角から抜け出した方が効果的だったように思います。

 ただ、タイミングが整い、効果的な抜け出しを決めたこともありました。

画像3

 こちらは前半26分ごろのシーンになります。解説の戸田さんがご指摘されたところですね。

 上原がボールを受けた瞬間、外側にいた松本が内側に入りティーラトンの背後を取ります。そうすると抜け出した相手の対応にティーラトンが引っ張り出されます。しかしこちらはフェイク。本命はマテウスの後ろからスルスルっと抜け出した小川でした。飛び出すタイミングが1テンポ遅いためオフサイドにならず、かつマークにつかれないためフリーで安全にボールを受けることができます。上原はそこへロングボールをつける。しかし小川がコントロールをミスし、ティーラトンに掻っ攫われてしまいました。

 試合を通じて何度か見られたこの抜け出し。天皇杯鹿島戦、前節の仙台戦に続き、2段構えの飛び出しは効果的にマリノスゴールへ迫ることができました。しかし、最後のクロスやシュートの質、トラップの精度を欠いたことにより、大きなチャンスに中々繋がらなかったことはマリノスにとって救いでした。

4.ジュビロの守備の狙い

画像4

・2トップはボランチを消すことを強く意識し、CBは放置気味
・両サイドはSHがSB、SBがWGを見る
今野はほとんどマルコス番
・上原は今野の位置から逆算して中央のバランスを取る

 ジュビロの守り方は前節の仙台に似ていました。2トップはCBに激しく寄せず、ボランチをカバーシャドーで消して中央を塞ぐ意識が高い。両サイドはそれぞれほとんどマンツーマン。SHがSB、SBがWGを見ることにより、しっかり人を捕まえます。

 ただ、仙台と異なっていたのはボランチの守り方でした。今野が主にマルコス番としてどこまでもついていくマンツーマンで対応。マルコスの位置次第で今野のポジションが決まるため、中央が大きく空くことがあります。そのときにバランスを取るのが相方の上原。中央のスペースを埋めたり、後ろが大丈夫なら前に出て相手のボランチにプレッシャーをかけたりします。

 しかし、今野がマルコスに振り回されたり、上原が中央を整えるためハーフスペースを守る選手がいませんでした。こちらのWGが幅を取って相手SBを外に引っ張ると、CBとの間が大きく広がる。そこを埋める選手はCBしかいませんが、そこは中央を守ることが優先。仲川が何度もバックドアを決めていたように、このスペースは比較的使いやすかったように思います。

 そして、今野がサイドに引っ張り出される状況も容易に作り出されてしまうため、中央が空きやすいという問題もありました。

画像5

 こちらは前半19分ごろのシーンになります。

 マリノスのスローインから始まり、マルコスへボールが入ります。今野はマルコスについていくため、一緒にサイドに寄ります。上原が中央を埋めますが、ここを一人でカバーするのは難しく、広大なスペースが空く。そこへ扇原が入り込み、マテウスからの落としを受けます。その後前へドリブルしますが、上原に寄せられてパスコースがなくなり攻めが頓挫してしまいました。

 上原も横に引っ張ることができたため、喜田か松原がもう少し前に出て、逆サイドへ展開するための中継地点になれたらよかったように思います。それか扇原が前に出て上原を押し込み、後方に喜田が位置して仲川までサイドチェンジの長いボールをつけるのも面白かったかもしれません。この試合は今野の位置をサイドに引っ張り、中央を手薄にすることができていたので、もっと効果的に中を使えていたら、楽に試合を展開できたように思います。

5.マリノスの得点

 そんなジュビロの守備をうまく翻弄し、2得点を挙げることができました。それぞれ見ていきましょう。

■1点目 ~マンツーマンの利用とサイドの揺さぶり~

画像6

 こちらは先制点を挙げた前半29分ごろのシーンになります。

 まずは左サイドにボールを展開。マルコスが今野の背後を取り、相手の間で畠中からボールを受けます。そこで1歩引いてたティーラトンが落としを受けます。前節は高野が先にハーフスペース高めに位置していたため、このようにマルコスが入り込むスペースがありませんでした。スペースへ侵入するタイミングを心得ているティーラトン復帰の大きさを痛感します。

 今野がマルコスに引っ張られたため、上原は中央を埋めようと撤退。これにより喜田との間が開くため、落としを受けたティーラトンはそこへパス。スペースが十分にある喜田は悠々と松原へパス。ここまで素早く左から右へとパスが流れると、ジュビロのディフェンスラインはスライドが間に合いません宮崎と藤田の間が大きく開いた瞬間を松原は逃しませんでした。すかさずバックドアを決めたテル目がけてスルーパスを送る。抜け出した仲川は中央へ鋭いグラウンダーのクロスを出しました。これが藤田の足に当たりオウンゴールを誘発しました。

 味方のために自身の位置取りを考えるティーラトン。今野がついてくることを利用して中央を空けたマルコス。相手のスライドが間に合わないことを見逃さず、スルーパスを刺した松原。バックドアした仲川を含め、個の判断とスキルがチームの意思として統一された素晴らしい得点でした。

■2点目 ~サイドの上下ローテーション~

画像7

 こちらは追加点を挙げた後半86分ごろのシーンになります。

 ボールを受けた畠中へ猛然と迫ってくる松本。しっかりカバーシャドーでティーラトンを消してきました。それを見てか、ヘルプに下りてきた高野。畠中からボールを受けてティーラトンへ展開。見事なレイオフで松本のカバーシャドーを無効化しました。下がった高野に小川がついていったため、右サイドを藤田がカバー。これによって皓太へのパスコースが開門します。ティーラトンはそこへパス。このとき高野が大外をスプリントし、藤田の背後を取ります。今度は皓太の方を向いた藤田でしたが、その先にいる高野へパスを出されてしまいました。

 こうして藤田が振り回され、かつ右サイドに引っ張られたため、相手ディフェンスラインが大きくスライド。反対にいる仲川はドフリーな状態でボールを待ち受けることができます。そこをしっかり見ていた高野は逆サイドへ大きくボールを展開。余裕を持ってボールをコントロールできた仲川は1ステップで相手をかわしてシュート。ボールがゴールに突き刺さり、追加点を挙げることができました。

6.エリキのCF起用について

 この試合は仲川が右に周り、エリキが中央に入るという、今までとは異なる布陣で試合に臨みました。そのメリットとデメリットを1つずつ見ていきます。

■メリット ~ターンのうまさ~

画像8

 こちらは後半61分ごろのシーンになります。

 後方からのクリアボールをエリキが下がりながらコントロールして振り向きます。このとき大南もついてきていましたが、スピードを殺すことのないスムーズなターンに振り切られてしまいました。

 抜き去ったエリキはそのままドリブルで前進して仲川へパス。仲川はドリブルし、藤田の裏を取ったマルコスへパスを送りますが、これは惜しくもオフサイド。

 このとき以外にも、後半70分、81分、84分と、何度もターンによって相手CBを1発でかわしていました。相手ボランチが中央を空けて十分なスペースがあったことと、エリキがCBと1対1になっていたことによってうまくいった側面はあるかもしれませんが、このターンは大きな武器だと思います。中央の選手がこれをできると大きなチャンスに直結するため、今後もエリキのCF起用は効果的かもしれません。

■デメリット ~前向きすぎる守備~

画像9

 こちらは前半46分ごろのシーンになります。

 八田から大南にボールが入ったときにエリキが激しく寄せていきます。これに連動し、マルコスが上原にプレス。これに窮したのか、動きなおした大南に落としますが、マルコスはそのまま前進して二度追いします。追い詰められた大南は近くにいる藤田へパスをしますが、これを狙っていた仲川がカットします。

 このとき喜田が前に出て今野についていたことと、逆サイドまでは展開されないと踏んで仲川が藤田まで寄せていたことが効果的でした。

 このように相手陣地低めにボールがあるときのハイプレスは非常に効いていました。

画像10

 こちらは前半26分ごろのシーンになります。

 大南がボールを受けると、エリキがカバーシャドーで藤田を消しながら寄せました。これがスイッチとなり、マルコスも連動して今野を消しながら寄せます。しかし今野がうまく、マルコスの背後から横へススっと移動。喜田は後ろから上がってきたばかりなので今野を見るには距離が開いている状態。大南はフリーとなった今野へパスをすることができました。

 このように後ろが準備できていない状態でプレス開始のスイッチを押してしまうこともありました。これは自陣に近いときに多く発生。相手CBに寄せるか、それとも相手ボランチへのパスコースを消すことに注力するか、その判断をせずに、とにかく前へ特攻するように見受けられました。

 エリキをCF起用した場合、相手ボランチへパスが入りやすいことになると言えるでしょう。今回は今野に入ることが多く、そこまで致命的な状況にはなりませんでしたが、ボールの出所がボランチからのチームを相手にする場合は考えないといけないのかもしれません。

7.前後半のパス比較

 監督や選手コメントより、「前半は試合をコントロールできなかった」といったことが散見されました。見ていた自分も同じように感じたため、前後半のパスを比較し、その理由に迫ってみたいと思います。

■パスマップ

 まずはパスマップです。前半の飲水タイムまでがうまくいっていないように見えたことと、同じメンバーを比較したいため、前半0~20分と、後半45~62分までの成功パスを集計しました。上が前半、下が後半に集計したものです。

パスマップ_1st_half_num

パスマップ_2nd_half_num

パスマップ_all

(左:前半 パス数66 右:後半 パス数114)

 まずパス数に注目してみると、前半は66本、後半は114本でした。ほぼ同じ時間で集計したにも関わらず、後半のほうが約1.7倍も多いことになります。これは相手にパスの機会を奪われていた(相手が支配する時間が多かった)か、こちらが攻め急いで少ないパスで攻めていたかのどちらかになると思います。

 パスを出した相手を見ると、前半は後ろで回すことが少ないことがわかります。松原、扇原、チアゴで回していたり、扇原から左へ展開し、マテウスとティーラトンで回すことが多かったです。マルコスを含む前線4人のパス数が少ないことからも、前線の選手たちがシュートしたことや、仕掛けて相手に取られたことが伺えます。

 翻って、後半は後方でのパス数が圧倒的に増えています。前半は極端に少なかった畠中のパス数が急増したことがそれを象徴しているでしょう。喜田と畠中のパス交換が多く、チアゴから松原へのパス数が多いことからも、試合をコントロールしようという意図が見えます。リードしている状況を利用し、後方で回すことによって相手の出方を伺う。あわよくば前から食いつかせ、疑似カウンターを狙うように振る舞っていたのは、前節からの反省を活かせたことだと思います。

■パススナー図

 そして今回は、併せてパスソナー図を見ていきます。パスソナー図とは、フィールド各所、または選手がどの方向にパスを出したかを図示したものになります。数が多いほど方向を指し示す図形が大きくなります。詳しくはfootballistaの記事や、Sports Analytics Labの記事をお読みください。

 こちらはパスマップとは異なり、数が多い方がわかりやすいので、前半と後半で分けて集計しました。

■フィールド別

画像14

(左:前半 パス数211 右:後半 パス数231)

■選手別

画像15

(左:前半 パス数211 右:後半 パス数231)

 前半は後方2行のパス数が極端に少ないことがわかります。また、サイド別に見ると、右は深い位置(一番右の上から2番目)から斜め後ろに下げるパスが多いことや、その後ろも下げたものが多いので、すぐに仕掛けず、様子を伺いながら攻めていたことが伺えます。反対に左は、斜め左や前に出すパスが多く、前方ではパス数が少ない。パスもゴール方向が多いことから、早めに仕掛けて攻めていたことように見えます。

 選手別で見ても、マルコスの前方向パスが多いことと、扇原の左斜め方向が多い。ティーラトンのパスも前方が多いことから、前に攻め急いでいたことがわかります。

 後半は後方2行と、中央3行のパス数が前半に比べて増加。パス方向を見ても後方は左右が多く、前方は左右でも少し後ろ寄りのものが多いです。後方で回して試合を落ち着かせようとしていたことが伺えます。また、右の前方でも前方向のパスが見られるようになりました。左がほとんどないことを見ても、コンビネーションで崩す右と個の力で突破する左ということがわかります。

 こちらも選手別で見ていきしょう。畠中とパギ、喜田のパス数が増加。畠中は前と右方向のパスが多く、パギは左前、喜田は左右が多いので、うまく散らしていたことがわかります。扇原も360度万遍なくパスを回していることから、後方でコントロールしようとする意図が伺えます。

 以上より、相手のテンポの高さに付き合って攻め急いだ前半と、試合を落ち着かせてコントロールしようとした後半という絵が見えました。パスから追うと、攻め方も見えて面白いですね。

8.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

9.おわりに

 相手に付き合ってしまった前半でしたが、後半に落ち着きを取り戻し、追加点を挙げて勝つことができました。試合の要所で危ないシーンもあり、失点していたらどうなったかわからない緊迫した試合だったと思います。

 仲川が右にずれ、エリキが中央へ移動したことの変化がうまくはまったことも勝因だったでしょう。昨シーズンのコンビである仲川-松原のホットライン。先制点のスルーパスに始まり、バックドアする仲川とそこへ抜群のタイミングでパスを送る松原はまさに阿吽の呼吸でした。ハーフスペースを埋める方法が確立していない相手には効果的だと思います。また、中央に入ったエリキはターンの他にもポストプレーを披露し、0トップ的にも振る舞えることがわかりました。マルコスを最前線で起用したときと同じ効果が得られるので、こカットインを多用する渓太が左WGに入った方が相性がいいように感じます。

 前節の反省を活かし、しっかりと試合を締めたのは成長です。ここまでシーズンが進んでも、無駄だった試合は今季ないと言っていいでしょう。FC東京が敗戦したことにより、上位との差も少し詰まりました。この勝利の勢いのまま、次節湘南戦は最高の雰囲気を三ッ沢で作り出して選手を鼓舞しましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?