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【2019 J1 第16節】横浜F・マリノスvs松本山雅FC マッチレビュー

1.はじめに

 前節、勝ち越し後に10人となり、その後逆転されて敗北を喫したマリノス。試合の終わらせ方に課題を残した試合でした。今節の相手は松本山雅FC。ソリボールと称される硬い撤退守備からのカウンターが強烈なチーム。マリノスとしては苦手な部類に入りますが、連敗は避けたいところ。マルコスも三好も不在ですが、攻撃人の奮闘に期待です。相手の守備とその突破の仕方に主な焦点を当てて振り返ってみましょう。

2.スタメン

■横浜F・マリノス

・マルコスが前節退場のため今節出場停止
・マルコスの代わりに先発したのは康太
・三好は引き続きコパアメリカ日本代表のため離脱中

■松本山雅FC

・いつもの3-4-2-1ではなく、3-5-2の布陣
・レアンドロ・ペレイラがベンチ入りもせず不在
・前田大然はコパアメリカ日本代表のため離脱中

3.松本山雅の守り方

・守備時は5-3-2の布陣
・2トップは必ず喜田をマークして中央の封鎖を強く意識
・片方が確実に喜田を見れるならもう片方のCFは相手CBに寄せる
・中盤の3人はボールサイドへスライド。こちらも中央の封鎖を強く意識
・前の5人でサイドへ追い込み、囲い込めそうなら包囲網を狭める
・中盤より後ろの5バックはそれぞれ5レーンを担当
・中盤の3人より前に入った選手に対しては5バックのレーン担当が前に出てマークする。こちらは人への意識強め
・出ていったあと残ったディフェンダーはボールサイドへスライド

 松本の守備時の布陣はWBを後方に下げた5-3-2の形でした。役割としては大雑把に2グループに分かれます。前方の5人は、ボールサイドへスライドして横方向にコンパクトにし、中央を封鎖しつつ前からボールを奪う後方の5人は5レーンを均等に埋め、中盤を越えてきた選手に対してマンツーマン気味に前へ出て対応する。全体としては縦横に圧縮したコンパクトな陣形を作り、マリノスのパスコースを消したり、ボールをキープするためのスペースを消してきました。

 前方の5人の役割を少し詳細に見てみます。前線にいる2トップは必ず片方がアンカーである喜田にマークにつきます。この状態が担保されてから、空いたもう片方のCFがボールを保持しているCBに寄せていきます。左右に振られてかわされた場合、寄せたCFはまず喜田へのマークに戻ってから、どちらかのCFが前に出ていく形を取り、とにかく中央へのパスコースを切ることを徹底していました。また、CBへの持ち上がりはミドルサードまでは許可。GKへバックパスしたら追わずに喜田までマークに戻っていました。CBやGKにはある程度ボールを保持されても構わないという割り切りのように思います。中盤の3人は横並びのラインを維持したままボールサイドへスライドして2トップと共に前方への圧力を強めます。2トップの限定がうまくいったときに、誘導したサイドを囲い込むように3人が前に出て守備をする意識が強く感じられました。3人が手を繋いで動いているような状態ですので、こちらも中央へのパスコースを消すことが強く意識されているように思います。また、後方への守備意識は2トップ、3人の中盤共に低く、基本的には後方の人間が前に出て対応するルールだったように感じました。1度突破するとしばらく自由にボールを持てました。

 次に後方の5人を見てみます。後方の5人は5レーンをそれぞれ1人ずつが担当。中盤の3人を越えてきた選手に対しては、自身が前に出てマンツーマン気味で対応します。空いた後方を埋めるため、最終ラインに残っている選手はボールサイドへスライドして横方向のコンパクトさを維持します。また、最終ラインを高めに設定することによって、中盤との間をなるべく狭めることもしていました。この2つのルールにより、前寄りにプレスにいく前線が空けるバイタルエリアを埋めていました。

 大雑把に言えば、松本の守備は中央をひたすら固め、なるべく相手を外側のU字へ誘導。そこでのパス回しは許容する守り方でした。相手のフォーメーションといい、中央を塞ぐことといい、やっていることは4節でのアウェイ大分戦と酷似していた印象です。大分との違いは、後方の5バックは中盤を越えてきた選手に対して前に出ていくため、局所的にディフェンスラインの後方が空くことでした。後述しますが、この日に挙げた得点はこの特性をうまく活かして崩したものでした。

4.マリノスのビルドアップ

 そんな中央封鎖の松本の守備。前半も後半も苦戦して基本的には外回りのパスが多かったですが、何回か中央から攻撃を開始できた場面がありますので、それぞれ取り上げたいと思います。

■前半のビルドアップ

 前半のマリノスはビルドアップ時に天野が中央の高い位置(本来のIHの位置)に固定でいることがほとんどでした。3人の相手中盤は基本的に中央を封鎖していますので、天野へのパスコースは3人のうち誰かが必ず見ることができます。また、天野自身に上下動がないため、マークを見失うことも少ないです。そのため、天野がボールに触る機会は少なく、天野がスペースを空けないため、他の人もいる場所が固定気味でした。この3人の中盤のラインを突破するために動いていたのは、主に喜田と康太だったように思います。

 こちらは前半12分ごろのシーンになります。

 左からパスを受けたチアゴ。山本のプレスが間に合わない状態でしたが、永井は喜田を見るためにチアゴからは少し外れた位置へ。自分にマークがくることがわかっている喜田は周りを確認し、永井と藤田の間へ侵入しながらバックステップを踏んで外側へ移動。そうすることにより、永井と藤田を外へ誘導し、相手中盤の間を広げることができました。コースが空いたタイミングでエジガルが素早く下りてきました。飯田も追いかけてきますが、これを背負ってボールを康太へ落とします。パウリーニョはエジガルの対応のため、康太は比較的空いていました。相手2トップと中盤の3枚が中央に寄っているため、サイドにはスペースがあります。大外にいる渓太へパスを繋ぐことができました。外回しで外に展開すると中盤がスライドして囲い込みやすいですが、一旦中央を挟んでからサイドへ展開することにより、相手中盤がサイドへ囲い込めない状況を作ることができます。相手がマークに強くくることを喜田がうまく利用した場面でした。

 こちらは前半33分ごろのシーンになります。

 チアゴがボールを保持すると、永井は喜田へのパスコースを切っているため、中央に出せない状態。一旦和田へパスをつけ、和田は喜田へ出すことによって永井の後方を取りました。喜田へは藤田がマークについていたため、そのまま前進できません。和田とワンツーすることにより、かわすことを試みます。うまくボールを受けることができましたが、藤田もマークについてきたため、外側へいる仲川へパス。この時藤田は中央の持ち場を離れているため、中央にいるティーラトンはフリーでした。リスクはありますが、切り返しをしたり、もう少し体勢よくパスを受けることができてティーラトンまでパスを送れれば、比較的相手が少ない逆サイドへ展開できたと思います。相手を大きくサイドに寄せてから素早く逆に出せれば、縦横に圧縮した相手を攻略する武器が増えますので、今後こういったことにもチャレンジしてほしいと感じた場面でした。

■後半のビルドアップ

 後半からは天野がボランチの位置に下がり、康太がトップ下へ入る4-2-1-3の形に(いうなればプリンスシステムでしょうか…)。天野のスタート位置が下がったことによって、後方のビルドアップが安定。また、動き出しの位置が後方のため、前に出ていくときに相手にマークにつかれにくい。喜田や康太との前後のポジションチェンジもでき、相手にマークを絞らせないこともできるようになりました。前半に比べれば多少ですが、中央からのビルドアップが増えたように思います。

 こちらは後半54分ごろのシーンになります。

 ボールを持っているティーラトンはパウリーニョが、天野には藤田が寄せようとする構え。そんな中、ティーラトンは天野へパス。この瞬間に低い位置にいた康太は相手中盤3人のラインを跨ぐように斜めにランニングして間へ顔を出しました。藤田は天野へ意識がいっている。後方の守備は5バックに任せているのか、宮阪は強く康太へついてこない。相手ディフェンスラインと中盤の間に入った康太へうまくパスが繋がりました。天野を下げてボランチを2人にしたことによって、相手中盤の選手が気にかける相手が増えたことと、前半あまりなかった相手のラインを越える上下動を行ったことが効果的でした。天野をボランチへ下げた旨味が出た場面だったと思います。

 こちらは後半57分ごろのシーンになります。

 外側にいる天野にはパウリーニョ。後方に下りたティーラトンには藤田がマークにきました。宮阪の視野には後方にいる康太は入っておらず、下がり目の和田を気にしていたのかもしれません。相手中盤のライン間が広がっていたため、康太は前方から藤田と宮阪の間に下りてきました。畠中は喜田へパス。喜田は下りてきてフリーな康太へパスを出しました。先ほどと同様、天野をボランチに下げたことと、上下動によってうまくボールを前進できた場面だったと思います。

5.理路整然とした先制点

 天野を下げることによって相手の第一ラインである2トップと3人の中盤を越えられるようになってきました。あとはその先の人数不足をどう解決して崩すかです。康太は主に中央付近で仕事をする選手。機動力が高いわけではないので、広範囲をカバーすることが難しく、相手最終ラインとの人数不足を補うことが難しい。「それなら機動力がある大津を入れればいいじゃない!」早い時間帯での大津への交代はこういった理由からではないでしょうか。パスを回して相手の前線を前後左右に走らせて疲弊もさせていたので効果抜群だったことでしょう。展開力と位置取りの上手さを持つ康太、でたらめな身体能力で機動力が抜群の大津。マルコスはこの2つを併せ持つ稀有な選手ですが、片方の特徴なら他の選手たちも(もしかしたらそれ以上のクオリティで)持っています。この先発と交代はまさにチームの総合力の表れだったと思います。

①畠中は外にいる渓太へパス
②渓太はハーフスペースを駆け上がった大津へパス
③今井と競り合った大津はなんとか中央へボールを送る
④エッジターンで相手をかわしたエジガルがシュート

 こちらは先制点を挙げた後半79分ごろのシーンになります。

 畠中は渓太へパス。大外の担当は田中なので、渓太の対応に出ます。このときにティーラトンはハーフスペースを走って右CBの今井を釣り、そのまま大外に出て外側まで引っ張って完全にハーフスペース空けました。これを見逃さなかった大津は、横に移動すると見せかけて縦にスプリント。このパラレラによって藤田を振り切ってハーフスペースへ侵入しました。これが見えていた渓太は大津へパス。ティーラトンについていた今井は体の向きを大津がいる中へ変えて対応、しかしボールの内側を大津が取っていたため、競り合っても何とかボールを中央へ上げることができました。このクロスは意外だったのか、カバーにきた飯田もかわしてエジガルへ。エドゥアルドをエッジターンでかわしてシュートを決めました。相手5バックが担当レーンにきたらマンツーマン気味で対応することを利用して渓太とティーラトンが相手ディフェンダー2人を外に引っ張り出す。中盤の戻りが甘いこともあり、大津が空いたスペースへフリーで走り込む。相手の守備の仕方を逆手に取ったことと、こちらの選手が各レーンに走るデザインされた攻撃。これらがあわさった素晴らしい得点だと思います。

6.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

(左:横浜F・マリノス 右:松本山雅FC)

 ボール保持では優位に進めましたが、シュート数は似たような形。互いに枠から外したことも多かったため、どちらに転がってもおかしくなかった試合なのかもしれません。ロングボールの成功率やデュエル勝利数でも相手を上回っていたことから、カウンター時のロングボールも相手FWに競り負けていなかったことが伺えます。

■個人スタッツ

 守備に攻撃に大活躍だった畠中のスタッツになります。クリア回数6回、インターセプト回数6回。デュエル10/12勝利。守備面で相手に競り負けておらず、多く跳ね返していたことがわかります。また、成功パス数も114本。後方でのビルドアップ貢献が高かったことも数値から伺えます。

7.おわりに

 この試合、相手のやってきたことが大分と似ていたこともあって不安を感じていました。しかし、この試合では最終ラインでのビルドアップ時にパスミスがほとんどないため、致命的な状態でのカウンターが少ない。カウンターを受けるとしても相手をある程度押し込んでからだったので、ロングボールの競り合いに負けなければ裏を取られないし、セカンドボールも拾える。得点のチャンスは少なかったかもしれませんが、守備面も大きく崩れていなかった印象です。これが競り合いに強いレアンドロ・ペレイラだったり、スピードのある前田大然がいたらまた違った展開になっていたかもしれません。

 焦れて攻め急がず、じっくりとパスによって相手を前後左右に揺さぶってラインを開かせてチャンネルを作って攻める。うまくいかなければ下げてやり直し。慎重に試合を進められたのは前節の苦い試合を振り返り、チームとしてどうしていくかを話し合えたからなのかもしれません。また1つ大きくなったマリノス。リーグ折り返しの次節は暫定ではありますが天王山に。恐らくリーグで最も相性が悪いFC東京が相手ですが、昨季と違う姿のマリノス。味スタに乗り込んでぜひ、みんなでトリパラをまわしましょう!

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