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【2019 J1 第12節】横浜F・マリノスvsヴィッセル神戸 マッチレビュー

1.はじめに

 前節3-0の完敗を喫したマリノス。「あそこが悪いんじゃないか?」、「けどあそこはよかったのではないか?」、「こうするともっとよくなるのでは?」などなど、様々な議論も巻き起こりました。

 そんな中迎えたヴィッセル神戸戦。相手はスター軍団ということもあり、チケットも事前に多くの枚数が売れている状態。4万人以上、オリジナルユニフォーム配布、ホーム、多くの連敗中の相手。これでもかというくらいフラグが立っている中、それをへし折ることができるのでしょうか。今回は新システムを基軸に振り返っていきます。

2.スタメン

■横浜F・マリノス

・前節とフォーメーションを変更し、4-2-1-3の形に
・両SBはティーラトンと和田拓也のコンビ
・トップ下はマルコスを起用
・前節途中出場のエジガルがCFで先発

■ヴィッセル神戸

・怪我で古橋を欠き、U20代表で郷家が不在のためか、4-4-2の形
・西をSHに上げ、後方には大崎を起用
・最前線はウェリントンとビジャ
・イニエスタは帯同しているもベンチ外

3.ヴィッセル神戸の攻め方

・SHは中へ絞り、SBが大外で高い位置を取る2-4-4のような形になる
・CFは裏抜けを狙うのが基本
・CBも大きく開き、左右目一杯に使う
・ボランチはあまり上がらずに中央をプロテクト
選手間の距離が全体的に広いため、中央や後方の人数が手薄になりがち

 ヴィッセル神戸は、両SHを中に絞らせてハーフスペースを主に使用する。大外が空くので、SBが大きく前に上がり幅を取る。CBは左右に大きく開き、目一杯コートの幅を使います。全体で見て、2-4-4のような形で攻撃を仕掛けてきました。CFは裏抜けを狙うことを基本とし、ボランチは中央の守備のためにあまり上がりません。

 両サイドのSBが上がっている状態で左右に大きく振られると、こちらのWGが守備にまわらなければいけないため、サイドを押し込まれるような場面や、SB、CBが順々に引きずり出されることもありました。相手の前からのプレスが強いこともあり、試合序盤は何度かピンチを招きましたが、パギのセーブを中心としてなんとか失点を防ぐことができました。

 この布陣、選手間の距離が大きく開くため、後方の人数が手薄なことと、SB裏が空くことが弱点としてあります。最初の得点は後方が手薄なことをうまく突けたカウンターでした。

 ヴィッセル神戸は両SBを高い位置に上げ、中央に4人を配置して人数をかけた攻撃を行おうとしました。しかし、宮からのロングボールはティーラトンにカットされてしまいます。そのまま渓太がボールを持ち上がると、その先は数的同数の状態。持ち上がって局所的に3対2を作り、エジガルのデコイランを見極めた渓太のいい目がマルコスへのパスを選択。正確なパスがマルコスに届き、そのままダイレクトでシュートを決めて先制できたシーンでした。

4.マリノスの新システム 4-2-1-3

 この日のマリノスは今までの4-3-3ではなく、ダブルボランチにトップ下を置く4-2-1-3のフォーメーションで臨みました。ビルドアップも今までと仕組みが変わったように思います。

 このフォーメーション、マリノスのビルドアップ時の形は両SBを内側に寄せた2-4-1-3のような形を取っていました。相手4-4-2とのかみ合わせを見てみましょう。後方は2CBに対して2トップの同数。中盤は両SB+両ボランチ+トップ下の5枚に対して相手は4枚で数的優位。前方は3トップに対して4バックで数的不利。ボールを前に送るために中継する中盤で数的優位を作れているため、比較的ボールの前進がしやすいことになります。

・ビルドアップ時の形は2-4-1-3が基本
マルコスの動きに合わせ、中盤の4枚のうち1枚が上がり2-3-2-3のような形を取る
・3枚の中盤と、その前の2枚は4-4-2のチャンネルに位置するように動く
・エジガルは中央からあまり動かないため、WGが幅を取れる

 こちらが前へのボールの進め方になります。ビルドアップ時は今まで通りSBは内側に絞ります。ボランチが2人いるため、横並びとなり、後ろから2-4-1-3のような形を取ります。最前線にいたときと同様、マルコスは縦横無尽にポジションを取ります。そのマルコスが動いた後に不足している位置を、後方の4人から1人が埋めるように上がります。(攻撃に特徴のあるティーラトンの上がる頻度が多かったように思います。)このように1枚上がることにより、全体の形としては2-3-2-3のようになります。マルコスが横に流れることと、それを後方の選手が埋めることにより、2人のIHが前線にいるような形に近いです。

 そして、前方の3トップの頂点はエジガルになりました。エジガルはマルコスと違い、基本的に中央から大きく動かない選手です。両WGは中央を埋める必要がないため、サイドに大きく開いて幅を取ることができ、相手の4バックを左右に大きく広げることができました。また、中盤にいる3-2の選手(両SB+両ボランチ+トップ下)たちは相手の間に入り込むように動きます。間に入られると、誰が誰を見ればいいのか、複数の選択肢が生まれ、迷うことになります。仕組み上、中盤後方の3枚と、前方の2枚がいるため、相手ボランチは気にしなければいけない箇所が特に多いです。相手SBやCBも中に入りIHのようになった選手か、3トップの誰かを見なければいけない状態になるため、ここのマークを悩ませることができます。

 後方からのビルドアップも人数が多いため、スムーズになります。相手2トップにボランチを切られ、反対のCBを塞がれたとしても、もう片方のボランチは空いたままです。このボランチにボールが入ったとき、もし相手ボランチ(山口)が詰めてくるならトップ下(マルコス)かもう片方のボランチ(扇原)が空きます。更に、それを気にしてもう片方の相手ボランチ(三田)がどちらかに寄せてもどちらか(マルコスか扇原)が空くことになり、中盤の数的優位を活かして1人ずつ相手をかわすことができます。

 また、相手SHはこちらの内側に絞ったSBにつくため、CBからWGへのパスコースも生まれます。このように外側を一気に進めることも、内側で数的優位活かして進めることもできるのが特徴の1つかと思います。

 ボランチの片方を落として3バック化したビルドアップの形もありました。この場合は、中盤は3枚をキープし、SBがSHを内側に引っ張ることは同じです。しかし、相手ボランチはこちらのトップ下と、アンカーを見るというはっきりした構図が生まれるため、前からボールを奪いたい神戸はダブルボランチが縦関係になっていることがありました。4枚が横並びになっていると間が狭いですが、ボランチが縦関係になったことによって、3枚が横並びになっているような状態でした。この形だと選手の間が広くなり、隙間にパスを通しやすくなります。恐らく、再び畠中の縦パスを見るようになったのはこのためだと思われます。

 これらの効果として、ビルドアップがうまくいったのが前半10分ごろのシーンになるかと思います。

 マルコスは山口と三田の間に下りてきました。マルコスが下りたため、扇原と和田は高い位置を取り、2-3-2-3(2-3-1-4)の形を作りました。間に下りたマルコスは瞬間的に空くため、ここへ畠中が鋭くパス。和田は相手SHの裏を取り、ディフェンスラインと中盤の間へ移動。それを見て仲川は大外へ移動して裏を取る。ターンしたマルコスは和田へパスをし、和田はエジガルの裏を狙ってパスをしましたが、長くなり相手GKに取られてしまいました。裏に抜けた和田に対して相手SBが対応にきたため、仲川はフリーな状態でした。そこに出しても面白かったかもしれません。

 また、この形は中盤で数的優位を作れているため、万が一ビルドアップ時にボールをロストしても、極端な人数不足になりにくいです。IHの位置まで上がったSBが戻る時間を稼ぎやすいため、今までよりリスクをある程度軽減できることもこの布陣の利点になるかと思います。

 この4-2-1-3の布陣は4-4-2殺しになりえるのではないのか、と思っています。しかし、マルコスの動きに合わせてバランスを取れる力と、飛び出すタイミングを心得ていること。大外へのパスコース創出や、相手の間を開かせるための位置取りをしなければいけないため、難度も高いと思います。その点、今節起用された扇原、喜田、和田は周りの選手の位置を見てバランスを取るのが抜群にうまい選手たちです。この3人がいることによって、マルコスが自由に動け、ティーラトンが高い位置を取れたのだと思います。守備に関しても上述の通り守りやすいため、守備に不安があるが攻撃力は抜群のティーラトンとの相性はすこぶるいいように感じます。このフォーメーションを実現するための最適な組み合わせの1つがこの日のスタメンだったように思います。大外が得意な渓太とティーラトンだと被ることもあるため、高い位置で中央寄りのポジションを取ることがうまい広瀬を起用しても面白いかもしれません。

 ただこの布陣、デメリットもあります。今までIHが2人いたのがトップ下の1人になったため、前線からプレスをかけにいった場合、人数不足を相手に利用され、スルスルかわされることがあります。

 こちらは後半53分ごろのシーンになります。エジガルとマルコスが山口に寄せ、出し先として宮を予測して仲川が寄せていきましたが、橋本へマークについている選手がいなく、そちらへパスをされて前に持ち上がられてしまいました。相手を追い込む方向を決め、その方向を囲い込むように中盤より後ろも連動しないと、このようにかわされる場面が増えるかと思います。このフォーメーションを継続するのなら、守り方の修正も見ていきたいです。

5.3種のマルコス(おまけ)

 今までの役割とまた変わったマルコス。WGのとき、CFのとき、トップ下のときで、下記数値を1試合平均値を求め、比較してみました。(引用元:sofascore

・1節~5節までと8節の6試合をWGとして計上
・6節、7節、9~11節の5試合をCFとして計上
・12節をトップ下として計上
※90分換算などはせず、そのままの数値を用いています。
・シュート数(枠内シュート+枠外シュート+ブロックされたシュート)
・キーパス数
・クロス回数
・ドリブル回数
・デュエル勝率(10におさまるように補正しています)
・成功パス数(10におさまるように補正しています)
・走行距離
・スプリント回数

 最前線でのCFのときと同じくらいのシュート数とキーパス数をトップ下のときでも記録していました。クロス数やドリブル回数などはWGのときが多いようです。これはサイドでドリブルを仕掛けて突破し、クロスを上げるポジションの性質によるものでしょう。成功パス数はトップ下のときが一番多かったことから、後方からのビルドアップ参加頻度が高かったことが伺えます。走行距離やデュエル勝率などは大まかに同じくらいでしたが、スプリント回数はCFのときが一番多いようです。これは最前線でプレスのスイッチのためのスプリント回数がかさんだためだと考えられます。

 チャンスメイクという意味ではCF時と似たような形になっていることと、後方ビルドアップもスムーズになり、自由に動ける環境もあるため、トップ下は彼にとって最適なポジションなのかもしれません。

6.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

 ボール保持率リーグで2位の神戸相手にボールを多く保持できました。エリア内シュート数も増えたことから、攻撃がある程度改善されたことが伺えます。また。GKセーブ数が5もあったことから、パギにまた救われた試合だったことがわかります。

■個人スタッツ

 覚醒したのでは!?というくらい、素晴らしいプレーをした渓太のスタッツになります。キーパス数が4本、ドリブルも3回中2回成功、デュエルも6回中4回勝利と、攻撃でいかに力を出したのかが数値からも伺えます。あとは得点だけでしょうか。今後に期待したいです。

7.おわりに

 新システムである4-2-1-3は想像以上に今の陣容と、4-4-2相手にハマったと思います。苦手な4-4-2相手に一発で回答を出した監督に脱帽です。今後より強度の高いFC東京などにどのくらいこれが通用するのか。新しい引出しの成長と共に楽しみです。

 また、ビルドアップ時に可変して2-3-2-3の形になること。(位置する選手の性質は変わりますが)これはいつもの4-3-3のときにSBが内側に絞って上がったときの形と全く一緒です。つまり、いつもの布陣でも本来はこのようにビルドアップできるということです。思い出してみれば、開幕当初のガンバ戦や仙台戦ではこの日の試合のように、畠中が縦パスを何度も通し、選手たちが流動的に動いて相手を崩せました。スタートのフォーメーションは変えましたが、監督としては「初心に帰ってまた始めよう」というメッセージだったのかもしれませんね。

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