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【東京島酒『嶋自慢』の飲俗學<10>】 〜友あり〜 世界初?!『嶋自慢の麦麹使用 焼酎麹発酵サラミ』誕生! 

本シリーズ制作中にまたまたBreaking Newsが飛び込んできた。発酵と熟成に『嶋自慢』の麦麹を使用したサラミが2024年4月29日に正式発売を迎えるというのである。

製造元は、東京都町田市にあるドイツハムとソーセージの製造販売にたずさわる『クロイツェル』さん。ラベルに記された商品名は『嶋自慢の麦麹使用 焼酎麹発酵サラミ』だ。

実は同店のオーナーである吉岡学氏と宮原社長は、東京農業大学時代に農学部醸造学科で同窓かつ親友というご縁があって、今回のコラボレーションによるサラミ製作が実現した。焼酎の麹を使ったサラミづくりはこれまでに類例が無いとのことで、日本初ということは世界初かと思われる。

さて本品について、事前のテスト販売として購入する機会を得たのでレポートしてみたい。また従来のサラミ製造と今回の焼酎麹利用についてどんな違いがあるのか、当事者にお話を伺ってみた。

『嶋自慢』麦麹を使用した『クロイツェル』製「焼酎麹発酵サラミ」

■買った!来た!喰った! 焼酎麹発酵サラミの1st Impression。

筆者はサラミ大好き人間なので、世界でも初めてではないかと思われる『焼酎麹発酵サラミ』に興味津々。新島酒蒸留所の銘柄を取り扱う酒販店さんに本発売前のテストとして少数入荷すると聞いて、さっそく注文して取り寄せてみた。

あらかじめお断りしておくと、筆者は生産者や業者さんから商品をタダでいただくことは一切しない主義。手間暇かけた成果物にはちゃんと対価を支払うべきだし、ブツをいただいてのステマは良しとせず。なぜかというと、”自分が書きたいように書けない”から。仕事ならともかく、趣味の愉しみで書くことが”義務”となれば楽しいものではないし。

emit, venit, comedit. というわけで、喰ってみる。

封を切ると、ほのかに芳ばしさが漂う。自然。メーカー品など一般商材だとやたらと薫香らしき匂いが鼻につく品もあったりするのだが(恥ずかしながら、ふだんはそんな類いを喰っているわけで)、本品は作為性が感じられない。袋に貼り付けられた一括表示を確かめると、納得だ。

とにかく、ここまで添加物が少ないサラミも珍しいのではなかろうか。

旨味を醸すために『嶋自慢』そのものも使用されているが、さらに注目されるのは香辛料として「新島産島唐辛子」が使われていること。この新島の唐辛子だが、以前に瓶入りの赤と青両方食べたことがあるが、スコブル辛味が効いて旨かった。

かように、『嶋自慢』の麦麹だけでなく、焼酎自体も、さらに唐辛子もと、新島の産品が随所に活かされているサラミなのである。

新島の島唐辛子(新島村農業協同組合サイトより

では、いただいてみる。

スライスすると、見た目、脂身の部分が多いように感じる。サラミにも色んなタイプあるようで、本品がなんというカテゴリーなのかは判らないが、この脂身が甘くて旨味が口中に広がる。

グワシグワシと噛んで脂の旨味を舌で転がした後に、赤身の味わいが含み香となって鼻から抜ける、そんな感じ。と、エラソーに書いてはいるが普段の食生活がお粗末な筆者のことゆえ、アテにはならない。

家内にもすすめてみた。家内は普段から塩分極控えめの健康第一主義者である。料理は岩塩BUKKAKE一筋で良い塩は体にもイイとプラス思考の筆者とは正反対の人物ゆえ、「塩分が強い」とのご感想。人生いろいろ、味覚もいろいろ。

一括表示のとおり、保存料を使っていないということもあるので効きが良いのだろうけど、筆者は塩分を甘く感じた(吉岡氏に確認したところ、ドイツの天然岩塩アルペンザルツを使用しているとのこと)。それだからこそ、酒のアテに最適と言えるわけで、今回はドライタイプのシェリー酒を当ててみたが、酒が進む進む。塩の塩梅が実に良い。

一枚のつもりが二枚、二枚のつもりが三枚、三枚が四枚、四枚が…………..。

ドイツにはソーセージにまつわる“Alles hat ein Ende, nur die Wurst hat zwei.”という有名なことわざがあるという。直訳は「全てには終わりがあるが、ソーセージには終わりが2つある」。後句は、諦観を勧めるきつい前句を和らげるためのジョークらしい。ソーセージの両側にある捻った繋ぎ目のことを意味しているのだろうか。

少なくとも『焼酎麹発酵サラミ』を食べ始めた筆者には終わりが訪れず、一気に60g完食してしまった。無粋は承知だが、サラミ好きとしてはついついやめられない止まらないわけで。まるで終わりのない春のように食べ続けたい気持ち。

■なぜ、焼酎麹なのか? 吉岡氏と宮原社長にお話を伺ってみた。

『クロイツェル』オーナー吉岡学氏(右)と宮原社長(左) 新島にて
宮原社長が東京農業大学に入学した際、最初に出逢った友人が吉岡氏だったという。

ーーまず、今回の協働による商品化が始まったきっかけは?

吉岡 新島酒蒸留所とクロイツェルのコラボ商品である『焼酎麹発酵サラミ』にご興味を持っていただきありがとうございます。

さて、きっかけなんですが、昨年の5月にトライアスロン大会(2023東京アイランドシリーズ 第32回新島トライアスロン大会)で新島を訪れたんです。

その際に、大学時代からの友人で株式会社宮原の社長をやっている宮原君に焼酎の酒蔵を見学させてもらいました。彼と話していて、焼酎の麹で肉を発酵させたら美味しいんじゃないかと話が盛り上がったんです。それが本当に実現したというわけです。

ーー本商品について、従来の製法と、今回の『嶋自慢』の麦麹を使った製法とはどういう違いがあるんでしょうか?

吉岡 従来の製法との違いについて説明させていただくと、一般的なサラミは肉由来、もしくは市販されているサラミ用の乳酸菌を使って発酵熟成させます。しかし、私たちが開発したこのサラミは乳酸菌の代わりに焼酎に使われる麹を使ったことです。

ーーはい。

吉岡 少し話が長くなりますが。サラミづくりになぜ乳酸菌を使用するのかといいますと、その理由は、まず最初に発酵の促進ですね。 乳酸菌は、サラミの製造過程で糖を分解して乳酸を生成します。この乳酸が発酵過程を促進し、サラミ固有の風味とテクスチャーを生み出すのに役立ちます。

2番目にpH値の低下です。乳酸の生成によりサラミのpH値が下がります。これは、不要な細菌の成長を抑制し、製品の保存性を高める効果があります。

3番目が安全性の向上です。pH値の低下によって、サルモネラやリステリアなどの病原性微生物の増殖が防げます。これにより、食品安全性が向上します。

4番目が風味の向上です。乳酸菌は風味を豊かにする酵素を持っており、サラミの成熟過程で特有の風味が発達します。乳酸菌による発酵は、風味や香りの面で重要な役割を果たしています。

ーー大きく4つの効果、作用があるというわけですね。

吉岡 焼酎に使う麹菌も同様の効果があるのではないかと思ったんですね。それで宮原君に協力をお願いして試作したところ、とても美味しかったので、さらに試行錯誤を重ねた末に販売することにしました。

ーーなるほど。焼酎の麹も麦もあれば米もあります。なぜ麦麹なのかという点はいかがでしょうか?

吉岡 そもそも論として、なぜ焼酎の麹にしたかというと、焼酎の麦麹はタンパク質分解酵素・プロテアーゼ活性が高いであろうという仮説から始まりました。

一般的に米麹はデンプンを分解するアミラーゼ活性が高いのですが、焼酎や醤油に使われる麦麹は大麦のタンパク質組成が米より複雑で、それを分解するプロテアーゼ活性が比較的高いと言われています。そこで肉のタンパク質もよく分解してアミノ酸を生成するのではないか考えて、サラミを作ることにしました。

ーーより旨味が醸される、ということですね。それで『嶋自慢』の焼酎麹を使う以前に、味噌麹でも作られたと伺いましたが。

吉岡 味噌・醤油麹も焼酎麹も、それらに求められる風味となるような麹菌を使い、作る際の温・湿度設定がなされます。

なぜサラミに焼酎麹を使ったかというと、サラミを作る際は雑菌の増殖を防ぐために早めに酸性にする必要があるからです。焼酎麹は味噌麹と違い、特に酸、クエン酸の生成が強いのでpHをより下げることができるんですね。


焼酎用の白麹や黒麹は、クエン酸を多く生成するので南九州など温暖な土地でも醪が腐造しにくい、というのはファンなら先刻ご承知のはず。

つまり焼酎の麦麹が、乳酸菌が持つ4つのチカラ「発酵の促進」「pH値の低下」「安全性の向上」「風味の向上」をパワーアップし、アミノ酸生成をさらに促して旨味を増す効果を与えてくれる、と言って良いだろうか。

以下からは吉岡氏と宮原社長の会話となる。


吉岡 乳酸菌単体で熟成させたらpHは下がり続けるんだけど、白カビ(ペニシリウム属)などで熟成させたら一旦pHは下がるんだけどその後は上がるんだよね。メカニズムは良くわかってないんだけど、カビのプロテアーゼでタンパク質が分解されてアミノ酸が増えるとややアルカリに傾くのと、カビによってはアンモニアを発生させるものがあるからみたい。面白いね! 宮原君、焼酎麹はアスペルギルス・オリゼーの他にアスペルギルス・ルテウス(黄麹菌)も使ってたっけ?。

宮原 黄麹はオリゼーだと思います。昔使ってた秋田今野の白はルチエンシスと書いてあった気がしますが、それは黒麹なのね、勘違いかな。

吉岡 ルチエンシスも色々な種類があるみたいだね。

宮原 白は突然変異株だというので、基本はルチエンシスなのかも。鑑定官も基本的にはそんなに種類はないと言ってました。

ということで、飲むだけ食べるだけの根っから文系人間の筆者にとっては、難易度が超高いお話であった。しかし、『嶋自慢の麦麹使用 焼酎麹発酵サラミ』の製品特徴、ポイントについてはご同輩でも把握していただけたものと思う。

■さあて実食! 『焼酎麹発酵サラミ』はどこで買える?

世界初ではないかと思われる”焼酎麹を使って発酵熟成させたサラミ”として4月29日に正式発売を迎える『嶋自慢の麦麹使用 焼酎麹発酵サラミ』。これを一度試してみたいとお思いの方は下記で購入が可能である。(生産数に限りがあるため、在庫および出荷時期について要確認)

ドイツ製法 手造りハム・ソーセージの専門店『クロイツェル』
 〒194-0043 東京都町田市成瀬台2-16-2

株式会社宮原 本社(酒屋の宮原)
 〒 100-0402 東京都新島村本村1-1-5

酒のこばやし
 〒134-0088 東京都江戸川区西葛西1-8-10

(以上は2024年5月4日時点でのリストです。)

焼酎づくりからさらに食全般へと拡がりを見せる『嶋自慢』の世界、その今後に期待大でありまする。

(「<11>我が良き友よ 『嶋自慢』庶民生活史・芋編」に続く)


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