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味覚はなぜ存在するのか


はじめに

 飲食して「美味しい」と感じられるのは、生命維持のための基本的欲求に加え、味覚による楽しみが関係しているからです。食事は単に栄養素の補給だけではなく、人々と共に美味しいものを楽しみながら飲食し、豊かな人生の喜びにもつながります。第2次大戦の戦後の困難な時期を考えれば、私たちが今日このように美味しい食事ができるのは、平和な国で多くの人々が働いているおかげだと実感します。
 また、苦み、酸味を感じるのは、食物が腐敗しているため食に適さないことを示すためにも必要とされています。ただし、無味で体によくないものもたくさん存在します。

 さて、「美味しい」は人によって感じ方が変わります。あとから述べますが、味覚細胞の数の違い、苦みを感じにくいなど受容体の働きかたが異なりるためです。以下、味覚について調べたことを書いてみます。

味覚とは

 味覚(みかく)は、動物の五感の一つであり、食する物質に応じて認識される感覚です。生理学的には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味が基本味に位置づけられています。基本味の受容体はヒトの場合おもに、舌にあります。

どこで感じるのか

 舌、咽頭部、軟口蓋にある味蕾
味蕾の中には味蕾細胞が縦に100~150存在し、寿命は10日です。
(嗅覚細胞の寿命は約1か月でしたが、さらに短いです)


味蕾 [3]脳科学辞典から

 味覚には5つの基本味があり、それぞれ異なる受容体によって検出されます。

  • 甘味:甘味受容体は、Gタンパク質共役受容体の一種で、甘味物質と結合することで味覚伝達経路を活性化します。

  • 酸味:酸味受容体 PKD2L1 が酸味を検出すると考えられていますが、完全には解明されていません。

  • 塩味:塩味は、味細胞の脱分極を引き起こすイオンチャネルを介して直接検出されます。

  • 苦味:TAS2R 受容体ファミリー(TAS2R38 など[4])が、bitter 化合物を認識します。

  • うま味:うま味物質のグルタミン酸は、うま味受容体(味細胞表面のG タンパク質共役受容体)に結合することで検出されます。

その他

  • カルシウム味:マウスを使った実験ではカルシウム感知受容体がマウスの舌に発見されていますが、ヒトにこれが当てはまるかは不明と言います。

  • 脂肪味:Gタンパク共役型受容体のGPR120が味蕾細胞に存在し、中、長鎖脂肪酸を受容しています。

  • コク味:グルタチオンがカルシウム受容体に働きかけることでコク味を感じると想定されています。

感覚刺激から来る味覚(化学受容体を使わない味覚)

  • 辛味:カプサイシンピペリンなどが、高温を痛みとして感じる受容体TRPV1を刺激することにより灼熱感を感じる辛味を感じさせる。わさびなどに含まれるアリルイソチオシアネートは冷刺激受容体TRPA1を刺激してツンとした辛味を与えると言われています。

  • 冷たい感覚:メントールなどが冷刺激受容体TRPM8を刺激することで舌や口内が冷たい感覚に感じられる。辛味(熱刺激)のTRPV1、冷感刺激のTRPA1、TRPM8はヒトの全身に分布しており舌に限って存在する受容体ではなく、体(特に粘膜)にカプサイシンメントールを塗りつけられても同じ感覚が発生します。これらは「味蕾で感じる味」ではなく「痛覚」や「刺激」であるとされています。

  • 渋み:タンニンなどで口内が収れん作用を起こすことが渋みとして感じられます。苦味に似ていますが別の味とされています。

 これらの味覚刺激の全てについて神経に伝達されるまでの機構が解明されたわけではないといいます。

神経による伝達

 味覚情報は12の脳神経のうちの次の3つの経路を介して伝えられます。

・舌の前2/3に存在する茸状乳頭の味覚受容体細胞→顔面神経(鼓索神経)
・舌の後ろ1/3に分布する葉状乳頭・有郭乳頭上の味覚→舌咽神経延髄
・咽頭あるいは食道部の味覚→迷走神経→延髄

化学的受容体に属さない味覚
三叉神経(食感、痛み、および温度を感受)を介します。

一次感覚ニューロンは延髄の束核を経て、視床の後内側腹側核(VPM核)を経由して広義の大脳皮質味覚野に伝達されます。

おわりに


 舌、咽頭にある味覚(細胞)が食物と化学反応を感知して味を感じ、神経が脳に伝え、脳の味覚野で美味しいと感じるわけです。この3セットがないと感じないことが分りました。

用語の説明はWikipediaのリンクを張らせて頂きました。

コラム

・昆布や鰹節から抽出したうまみは、以前は「デリシャス・テイスト」と表現されていたのですが、この「うまみ」が専門用語として採用され、現在では「Umami」が通用するらしいのです。

・新型コロナの初期症状として味覚障害が起きるのはなぜでしょうか?
https://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/smell_taste_disturbance/
味蕾や神経へのウイルスによる障害といいまますが、明確な理由はわからないと言います。
臭覚障害が原因との話もあります。ウイルスが直接神経組織を障害するというメカニズムと、ウイルスに対する免疫応答により炎症細胞浸潤が生じ、炎症細胞による組織障害因子で二次的に神経障害を生じるメカニズムが考えられています。

参考資料


[1]味覚 - Wikipedia

[2]Taste - Wikipedia

[3]味蕾 - 脳科学辞典 (neuroinf.jp)
[4]TAS2R38の遺伝子多型と食行動及びPTCの苦味感受性変化との関係 (jst.go.jp)

変更履歴

Rev.1 2024.4.25 初版

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