【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第五章「盲愛の寺」 72
「そんな馬鹿げた話があるか!」と、内蔵助は己の膝を怒気を含んでどんと叩く、「あれほど〝四国切り取り〟を約しておきながら、それを反故にするだけなく、三好や河野に肩入れするつもりか? あの〝うつけ〟が!」
安土中に響き渡りそうな大声だ。
刑部は、しっと人差し指を口元にもっていった。
「大殿のお膝元だ、あまりけったいなことを口にするな」
「これが黙っていられようか!」
「まこと内蔵助の申すとおりじゃ!」
伝五も、皺だらけの顔をますます皺々にして怒っている。
「ま