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トラを悼む

大変な生きざまだったから
きちんと天国に送ってあげよう

火葬して遺骨を庭に埋めることにした

業者が来る前に
トラをお気に入りだった車庫の2階に
運んだ

朝の光がまぶしい
静かな陽だまり
そこだけ時間が止まったようだった
ぐじゅぐじゅをかきむしっていたのだろう
床にはたくさんのトラの毛

その陽だまりに
トラの亡骸を置いた

ここでは穏やかな時間を過ごせていたのかな

降り注ぐ日差しが
硬直したトラのカラダを緩めていく

トラがその空間に溶け込み

私の知らなかった
トラの
静かな
そして
穏やかな
日常に
包まれた

トラと過ごす最期のとき

気づけば
少し離れたところに
みーこがいた

この場所で、みーこを見たことはあったろうか

亡骸の入った段ボールを
みーこに近づけると
みーこは
トラの亡骸のにおいを嗅ぎ
そして
私の顔を見た

そして
トラに向き直り
2度鳴いた

そうだよね。
みーこがトラを連れて来たんだよね
トラは放っておけない、みーこの友だち

みーこがトラに
さよならを言えてよかった

玄関先でお別れの会をして

トラは荼毘にふされた

庭に停めた業者の車の中
1000℃の高温で
火葬された

そして小さな骨を
家族で拾った

のどぼとけ
背骨
前脚、後ろ脚
肋骨

そして、頭蓋骨
トラの骨はしっかりしていた

しっぽの先端は
魚の骨のように細かった

ぐじゅぐじゅの左頬は
なんと頭蓋骨を変形させるまで
えぐれていた

何日も
食べることも飲むこともできず

頭をもたげることもできないほど衰弱し
朦朧とした意識の中でも
最期まで生き切ろうとしていたトラ

トラが教えてくれたこと

人間は、生きることに悩むたびに
自分が生まれてきた意味を見つけようとする
何のために生まれてきたのか
生まれてきたことに意味があるのか、ないのかと

意味がなければ
生きていてはいけないのか…

いや

与えられた生を
最期まで生き切る

どんな人生であっても
最期まで生き切る

そこに意味なんてなくていい

それが
生を授かった者の使命

それが
生を授かったことへの礼儀

トラの生きざまが
そう教えてくれた気がする


トラと病院に行ったあの日のことを
私は忘れないだろう

トラ
ありがとね

今までお疲れさま
安らかな毎日を過ごしてね

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