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コタロウのこと

年末に、大昔のことを思い出だし、
ここに、したためたいと思う。

うちの母は、田舎の生まれで、
男兄弟の中で、たった一人の娘、
たいそう可愛がられて育ったそうな。

そんな母が、子どものころ、
夜に、野良犬がヨタヨタとやってきた。

田舎なので、おおらかに飼うことにした。
名をコタロウとする。

犬は、オスの雑種で、母に一番なついて、
散歩もご飯も、母の役割だったようだ。

そんな母が22歳で、大阪に嫁いできた。
23歳で私を生んで、まわりに親戚のいない
格家庭。父は仕事人間。

母は、晩年まで、体を壊したりすると
父にお払い箱にされそうで怖かったという。
そんな恐怖がどこから湧いたのか。
父はめちゃくちゃ、母が好きだったのに。
たぶん、父の愛情表現が超下手だったのだろう。

母がいなくなった田舎で、
コタロウを愛情をもって面倒をみる人が
いなくなり、コタロウは荒れて、
郵便屋さんにかみついたり、
近所に迷惑をかけるようになった。

昭和の話。
田舎の実家では、コタロウを飼えなくなって
母の末弟が保健所に連れて行った。

末弟は、保健所に置き去りにした
コタロウのさみしそう目が
忘れられない、と男泣きしていたという。

その話を私たち姉妹は、母から
何度も聞かされていた。
だから、母は懺悔の意味で、ゴンちゃんを
飼い、16歳で、寿命を全うするまで
大切にした。

後に、結婚して、2児の母になった
私の妹(現在、猫2匹・犬1匹を飼っている)が
なぜ、母は、田舎まで、コタロウを
迎えにいく勇気がなかったのか、と
息巻いていたいたことがある。

私も、そう思った。

が、ダンナと友達感覚の妹夫婦と
うちの両親では、力関係が違う。

自分さえ、捨てられそうだと怖がっていた
母に、コタロウを迎えにいくことは
できなかっただろう。

昭和のおやじ、昭和の専業主婦、
昭和の都会の核家族。諸々の事情。

ここで、私はコタロウに、母に代わって
謝りたい。

コタロウ、君は、愛されていなかった
わけじゃない。
ただ、時代とタイミングが悪かったんだよ。

母を恨んでいるかどうか
わからないけど、若かった母の勇気のなさを
許してあげてね。

母は、君を愛していた。
これだけは伝えてあげたい。

私たち、娘も母の幼児虐待で
ひどい目にあったし、
許しがたいとこはある母だけど、
動物には、優しい人なんだ。

ごめんね、コタロウ。
母は、今でも君のことおぼえているはずだよ。

かわいいコタロウ、おいで。


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