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安いものが好き(エッセイ)

私が大学生くらいのとき、
新品のコートを着て
百貨店に行った。

昔から安物好きだったので、
たぶん¥5000もしないコート。

後ろにジャラジャラ、
チェーンみたいなのが付いていた。

そのチェーンが引っ張られて
振り向くと、
百貨店の人込みで
杖をついたおじいさんの杖に
ひっかかっていた。

おじいさんは恐縮して、

「これは、申し訳ない!」

と、おっしゃったが、私は
全然気にならなかった。

なんなら、そんなに謝ってくる
おじいさんが可哀そうになった。

不自由な体で、そんなに謝らないで、
と思った。

後で妹に言うと、びっくりされた。

「新品やったのに?」

と聞く妹に

「でも、杖ついたおじいさんやもん、
仕方ないやん」
と答えたもんだ。


それから十数年後。

同じような人込みを歩いていると
私のアクセサリーがおばさんが
来ているセーターにひっかかった。

ぴろーんと一本の毛糸がのびた。

私は恐縮して
「すみません」を
3回は連呼した。

が、おばさんは怒り心頭で

「信じられない」

「どうしてくれるの」

を繰り返す。
しまいには警察を呼びそうな勢いに
私はカチンときた。

そんな大切な服なら、後生大切に
家にしまっておけ!!
こんな人込みで、ひっかかるのは
わかってるやろ!!
だから高い服着てる奴はいらいなんや!!

もしかしたら、なんか大切な思い出が
あるセーターだったのかもしれないが
事情は同じだ。

そんな大切なら、
こんな人込みに着てくるな!!

結婚式の花嫁のドレスに
ひっかけたわけではないぞ。

私は警察を呼びかねないおばさんに
あきれて、何も言わずにその場を去った。

物欲って醜い。


#創作大賞2023    #エッセイ部門

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