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「Chappie Don't Cry」の評判は?

ではフィッシュマンズ「Chappie Don't Cry」リリースした当初の評判はどうだったのだろうか?改めて「フィッシュマンズ全書」に載っている「Chappie Don't Cry」のレビューを見直すと興味深い。

ハカセが入ってかき回したい
情けない感じにしたい(サトウ)
可愛らしくて愛すべきアルバムにしたい(サトウ)

編集の小野島大さんもかなり吟味されたのだろう。
川崎大助さんの評伝「僕と魚のブルーズ」で書かれていたような「かわいいバンド」「ほのぼのとした音楽」みたいな記事やレビューは極力除外されそういった類のものは一切なかった。だが確かにそのような記事やレビューがけっこう多かった印象がある。というのは自分はFMラジオのプロモーションを担当していて番組ディレクターたちへの売り込みのための参考したいと思い、音楽誌の記事をけっこう読み漁ったがほとんど参考にならないぼんやりとした記事やレビューばかりだったかなという記憶がある。しかしながら「ROCK'N'ROLL NEWS MAKER」という今はなきビクターブックスから出していた雑誌に掲載されていた川本優佳さんの書いたインタビューとライブレビューは熱かった。さすがビクター(関係ないか)。

一方元ミュート・ビートのこだま和文さんプロデュースにフォーカスを当てた記事もあったような記憶もあるが、その方向で書かれたものは「こいつらの音楽にはレゲエの魂があまり感じられない」みたいな文言で従来のレゲエやワールドミュージック的なフォーマットに収まっていないフィッシュマンズの音楽を未熟であるとか、ミュート・ビートやじゃがたら、トマトスそしてRCサクセションらの諸先輩に比べてどうたらこうたら、気合が足りないとか、あまり肯定的ではない書き方だったような気がする。80年代からバンドシーンを見てきた方々からするとフィッシュマンズの音楽はふにゃふにゃしてとらえどころにないように映ったのかもしれない。

要はフィッシュマンズの「Chappie Don't Cry」を的確に表現してくれたメディアは残念ながら殆どなかったのだと思う。川崎大助さんが書いた「ROCKIN ON JAPAN」の記事ぐらいなものだったろうか。と言いながら自分もこのバンドの1stアルバムを自分の担当のFM番組ディレクターたちにどのように説明していたかあまり定かではなく「元ミュート・ビートのこだま和文さんの初プロデュースでRCサクセションとミュート・ビートを足したような〜」みたいなプロモーションを繰り広げていたような気がする。映画フィッシュマンズを見たことであの頃の気持や考えがかなり蘇ってきたものの、人間は自分が都合のいいように記憶を置き換えるところがあるから果たして正しいかどうか言い切れないものがある。

そんな中でデビュー時のフィッシュマンズに対して好意的なシンパシーを表明してくれた数少ないメディアの人もいた。当時毎週日曜日の夜にTOKYO FM系全国ネットでOAされていた「FMワンダーランド」のパーソナリティで評論家の萩原健太さんだ。健太さんは「元ミュート・ビートのこだま和文プロデュースによるデビューアルバム。ロックステディのビートと歌謡曲的なセンスをもったヴォーカル佐藤伸治が書くわかりやすいメロディが印象的なグループです」的な感じで全国ネットの番組で紹介してくれた。この「歌謡曲的なセンス」と言うのが自分にとっては重要で、最初にフィッシュマンズのデモテープをディレクターのY本君に聴かせてもらった時に感じた「なんだかよくわからないけどこのバンドは曲がいい」ということを分かりやすいワードで最初に示してくれたからだ。その後も萩原健太さんはフィッシュマンズの新曲が出ると必ず番組でOAしてくれたと記憶している。

そしてもう一人、「フィッシュマンズの資料をいただけませんか?」とわざわざ自分に連絡をくれた奇特な番組ディレクターがいた。それが後にフィッシュマンズのレギュラー番組「ヨコワケで決めて」「アザラシアワー・ニジマスナイト」のディレクターになる現音舎の横田太朗さんである。横田太朗さんとの出会いは後にフィッシュマンズに大きな影響を残すことになるがそれはいずれきちんと書いておこうと思う。

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!