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アラン・ホワイトさんへの個人的な追悼になったイエス来日公演

アラン・ホワイトさんにごく個人的な想いを記事にしたこともありイエスのアルバム『危機』リリース50周年記念来日公演・初日に行ってきました。

以前も書いたかもしれませんが、自分の中でのプログレッシブ・ロックのエントリーとしての3枚組大作「Yessongs」の影響の大きさに比べて、イエスのリアルライブ体験はイエスとしては2度目の来日公演となった1988年の「Big Generator」ツアー(代々木体育館)でガッカリし、ABWHのライブ(NHKホール)もまるでメンバーソロそれぞれの継ぎ合わせライブのような内容にガッカリし(その後の「UNION」ツアーのライブ映像はわりと楽しめましたが)、1996年から1997年にかけてリリースされた「キーズ・トゥ・アセンション」のスタジオ盤新曲の出来映えに感激したので1998年の「Open Your Eyes」ツアーの大阪公演(大阪厚生年金会館)に行ったもののオープニングの「シベリアン・カートゥル」でのハウ師匠の指のもつれにこれもけっこうガッカリした思い出があります。大傑作「イエス・ソングス」の印象が強すぎてイエスのライブは期待してはダメなのかなとも感じ、その後多数リリースされているライブ音源についても一つも聴いていない不真面目なファンだったと思います。

とは言うもののこのnoteでアラン・ホワイトさんの記事を3本も書いたところで自分の中でのイエス観もいい具合に整理出来た感じもあったので最後にもう一度だけ見ておこうと思いチケットを取りました。先月見たスティーヴ・ハケットの公演が素晴らしかったことから少しだけ期待しながら渋谷オーチャードホールに向かいました。

席は2階のバルコニー、初めてでしたがとても見やすい席でした。余談ですが、最初どこからバルコニー席に行くのか分からず、案内係の女の子に聞いたところ、席を案内してくれた女の子がホール反対側の場所から一緒に歩いて連れて行ってくれました。彼女がすごく親切だったのはイベンターがLIVE NATIONに変わったからでしょうか。たまたまその子が親切だっただけでしょうか。

さて定刻3分過ぎぐらいで客電も落ち前方のスクリーンに「世紀の曲り角(Turn Of The Century)」に乗せてアラン・ホワイトの追悼映像が流れます。すでに片山伸さんのライブレポートも出回っているのでネタバレ承知で書いていきます。

YES 参加メンバー
スティーヴ・ハウ(g, vo)、ジェフ・ダウンズ(kbd)、ビリー・シャーウッド(b, vo)、ジョン・デイヴィソン(vo)、ジェイ・シェレン(ds)

ジョン・ディヴィソンジェイ・シェレンは初めてのメンバーです。ジェイは調べたらワールド・トレードやダグ・アルドリッジがいたHR/HMバンド、ハリケーンのメンバーでもあったとこと。このところにイエスのライブにずっとサポートドラマーとして参加している人だそうです。ホントこのくらいの薄い知識ですみませんって感じです。

[セット・リスト 9月5日] も以下の通り
〜片山さんのレポートは邦題も活かしておいて流石です。
1.自由の翼(On The Silent Wings Of Freedom)『トーマト』
2.ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス(Yours Is No Disgrace)『サード・アルバム』
3.夢の出来事(Does It Really Happen?)『ドラマ』
4.スティーヴ・ハウ・ソロ/トゥ・ビー・オーヴァー(To Be Over)『リレイヤー』
5.不思議なお話を(Wonderous Stories)『究極』
6.ジ・アイス・ブリッジ(The Ice Bridge)『ザ・クエスト』
7.燃える朝やけ(Heart Of The Sunrise)『こわれもの』
8.危機(Close To The Edge)『危機』
9.同志(And You And I)『危機』
10.シベリアン・カートゥル(Siberian Khatru)『危機』
<アンコール>
11.ラウンドアバウト(Roundabout)『こわれもの』
12.スターシップ・トゥルーパー(Starship Trooper)『サード・アルバム』

結論を先に書きますね。最高でした!『危機』リリース50周年記念来日公演とアラン・ホワイト追悼という2大ミッションを見事にクリアしかつ楽しく生き生きとしたイエスのコンサートを4回目にして初めて体験することが出来ました!オープニングの「火の鳥」はお約束すぎて何も言えませんが一度他の曲だった時期があったことを聞いたような気がしましたが。そして1曲目はなんと「トーマト」「On The Silent Wings Of Freedom」、頭のベースソロは端折ってギターのイントロから入ったので一瞬、何の曲か分からなかったけど歌い出しで直ぐに判明、そしてジョン・ディヴィソンのヴォーカルのジョン・アンダーソンにそっくりなこと!噂には聞いていましたがここまでソックリとは。「トーマト」の頃のアンダーソンの少しラフな感じの歌いまわしまでそっくりでビビります。そしてビリー・シャーウッドがフランジャーとワウを効かせたクリスのガリンガリンのベースをこれまたそっくりに弾いてます。そしてハウ師匠の速いパッセージフレーズもサラリと弾きこなしていました、アレっ?師匠、弾けるやん。私の個人的なイエス史観ではイエス最大の危機だった?ニューウェーブ期をアラン・ホワイトのドラムで乗り越えたというものですがそれを証明するかのような「自由の翼」が1曲目。これは良いコンサートになるに違いないと確信出来ました。

2曲目はお約束の「Yours Is No Disgrace」、サード・アルバムのバージョンです。ジェフ・ダウンズもトニー・ケイのドローバー全開ハモンド・オルガンをきっちりベタ弾きで再現、ウェイクマンが弾くアルペジオ奏法なんかやりません。ハウ師匠もスタジオ盤のチェットアトキンス風〜ファズトーン〜ジャズ・ノート風をきっちり再現しオリジナル作曲者としての意地を見せます。最後のグライドアップするところもギターで再現し、なんか心配されたハウ師匠の演奏が追いつかないのでは?問題は全く吹き飛びました。

MCと挨拶もハウ師匠が元気いっぱいにやります。「今日はイエスストーリーについて演奏していくよ」的なことを言っていたような。そして始まったのも「Does It Really Happen?」という「ドラマ」からマニアックな選曲。これもビリー・シャーウッドのゴリンゴリンのベースが引っ張っていくわけですがドラマーのジェイ・シェレンはアラン・ホワイトのオリジナル・ドラミングをきっちり再現していました。チューニングやキットのセッティングはアランに近い感じのパワフルなドラムです。あとこの曲はオリジナルのキーボードがジェフ・ダウンズということもあり後半のマリンバ音とかも再現していてドラマ期のジェフのニューウェーブ+プログレなアプローチが新鮮でした。

確かこの後、ハウ師匠からメンバー紹介がありハウ師匠のギター・ソロ・コーナーになります。演奏された曲はなんと「トゥ・ビー・オーヴァー」、あのイントロから歌メロ、パトリック・モラーツがシンセで弾いていたリフまでソロ・ギターで弾いていてこんなに美しい曲だったのかと感動しました。そしてハウ師匠は少し変わった形のギター(wikiによるとポルトガルギターらしい)に持ち替えて「不思議なお話を」を始めます。ジョン・ディヴィソンもアコギで一緒に歌い素敵な世界でした。この曲は過去に何度か見ている気がしますがこれほど美しい曲だと感じたのは初めてです。

「ジ・アイス・ブリッジ」は新作「クエスト」からの新曲。改めてちゃんと新作を聴こうと思いました。ちょっとエマーソン・レイク&パウエルの某曲を思い出した(笑)。そしてノリノリのまま「燃える朝焼け」に突入します。この曲はかなりリズムセクションに注目していたのですがブルーフォードのスタジオ版を基本にアラン・ホワイト・アプローチを絡めた感じでこれまでにないフィールだった。ハウ師匠が丁寧に弾いている姿がエモいです。そしてそのままアルバム「危機」再現パートに続く。

「Open Your Eyes」ツアーの時は何のためにいるのかよくわからない人だったビリー・シャーウッドだがもうすっかりクリス・スクワイアのイエス・ベース芸を伝承しブルーフォードとアラン・ホワイトのスタイルを巧みに使い分けるジェイ・シェレンとのコンビネーションはバッチリです。ハウ師匠のスタンドにセッティングされたエレクトリックシタールやスティールギターとの弾き分けももはや名人芸。そして大事なところはきっちり再現しながら、他はいい意味で埋め尽くさないいい塩梅のキーボードなジェフ・ダウンズが昔のエイジアの25台のキーボードを並べていた頃とは大きく変わっていて新鮮だった。「危機」「同志」「シベリアン・カートゥル」とアルバム順に丁寧に演奏されていき、片山さんのレポートにもあるように本当にバンドの団結力を感じたライブでした。

会場は感動で総立ちの中でのアンコール、お約束の「ラウンドアバウト」だがイントロのアコースティックギターとフェイドインするリバースピアノの箇所にハウ師匠の意地を見た気がします。何度も聴いた「ラウンドアバウト」ですがあちこちのスティーヴ・ハウならではのフレーズをきっちり丁寧に弾くことでオリジナル作曲者のプライド、そしてこの曲の北米でのヒットがイエスを50年以上に渡る生命力を与えているんだというハウ師匠の真髄を見えたかのよう。ジョン・アンダーソンやクリス・スクワイアが居なくなってもイエスの看板は俺が守ると宣言しているかのような演奏でありバンドのメンバー全員がハウ師匠の意思に共に全力で取り組んでいることが伝わる素晴らしいライブでした。ラストの「スターシップ・トゥルーパー」もサード・アルバムに忠実な再現で、1970年にハウ師匠が初めてイエスの音楽に取り組んだ日々を再現しているかのようです。素晴らしいライブはこれで終了、ハウ師匠は「また明日!」とても嬉しそうでした。

単に自分がイエスのライブに行っていない、知らなかっただけでイエスはいつも素晴らしいライブを繰り広げていたのかもしれませんが、アラン・ホワイトさんの逝去をきっかけにこんな素敵な体験を出来たことになるめぐり合わせとアランへの追悼の意を記しておくと共にハウ師匠が来日前に受けたインタビュー記事も上げておきます。ビル・ブルーフォードとアラン・ホワイトの二人のドラマーへの想いにとてもシンパシーを感じられて個人的に嬉しかったです。


最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!