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Queenとフットボールの奇妙な関係

イギリスの伝説的ロックバンドQueen、中でもリードボーカルであるフレディ・マーキュリーの人生を中心に描いた現在公開中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」。その劇中でも描かれているフットボール(サッカー)との縁あるポイントをいくつか見つけたので、紹介させていただきます。

1)LIVE AIDが開催されたウェンブリースタジアム

Queenの代表的なステージとして語られている「LIVE AID」。1985年に開催されたこのイベントは、アフリカ難民救済を目的とするチャリティーコンサートで、会場となったのはイギリスのウェンブリースタジアムとアメリカのJFKスタジアム。

そのウェンブリースタジアムは、イギリスで"サッカーの聖地"として知られる著名なサッカー専用スタジアムです。1923年に建てられたこのスタジアムは老朽化のため2003年に取り壊され、2007年ロンドンの別の場所に「ニューウェンブリースタジアム」として復活しています。

この旧ウェンブリースタジアムを"サッカーの聖地"たらしめたのは、1966年に開催されたイングランド開催のサッカー・ワールドカップで地元イングランドが優勝をおさめたことから。"疑惑のゴール"など物議を醸した判定などもありましたが、"サッカーの母国"を謳うイングランドがその誇りと名誉を世界に知らしめた出来事である、決勝戦の開催地であったウェンブリースタジアムが"聖地"となったのは言うまでもありません。

今回の「ボヘミアン・ラプソディ」で、最新CG技術を用いて蘇った旧ウェンブリースタジアム。オールドフットボールファンは違った興奮を覚えたことでしょう。

2)優勝国に許される名曲「We Are The Champions」合唱

Queenファンでなくとも耳にした「We Are The Champions」(邦訳:伝説のチャンピオン)。リリースは1977年で、直後からイギリスのフットボールシーンで歌われるようになったそうです。

象徴的なのは、サッカー・ワールドカップ決勝戦の後。公式ソングとしてなのか、優勝チームに優勝トロフィーが授与されたあとにこの「We Are The Champions」が流れ、スタジアムはもちろん優勝国でも大勢によって歌われるようになっています。

サッカーファンにとって、何より羨ましい瞬間です。優勝した国にだけ与えられた特権である「We Are The Champions」の大合唱。歌詞には「自分たちをチャンピオンだと歌っているのではなく、世界中の一人ひとりがチャンピオンなのだと歌っている」(ブライアン・メイ)という意味が込められていて意図するところと少し外れているかもしれませんが、それでもワールドカップの優勝という世界で7ヶ国にしか許されたことがないこのシーンは、優勝経験のない僕らにとって憧れ以外の何物でもないのです。

いつか日本が優勝して、この「We Are The Champions」を大合唱できる日が来るのでしょうか……。

3)イギリスという古来からの結びつきがある

「We Are The Champions」がイギリスのあらゆるサッカーシーンで歌われるようになった、というエピソードにもあるとおり、Queenが意図したかしていないかはともかく、フットボールが文化として根付くイギリスにおいて、Queenは相性が良いのでしょう。

イギリスは"サッカーの母国"として非常に高いプライドを持っています。日本サッカー協会だと「JFA」(Japan Football Association)、ブラジルサッカー連盟だと「CBF」(Confederação Brasileira de Futebol)と、どの国も国名入りの団体名になっているのですが、イギリスは「FA」(Football Association)。「俺たちはサッカーの母国なんだから、国名を入れる必要はない」ってんです。1930年に始まったワールドカップ(1904年に仏パリで発足したFIFA主催、開催国はウルグアイ)にも、1950年のブラジル大会まで参加しないという徹底ぶり。ほんと、イギリス人って頑固だわ(笑)。

「We Will Rock You」もFIFA(国際サッカー連盟)主催の大会で公式ソングとして使用されています。またサッカー日本代表の応援歌でも。確かに「ドンドン、ダン!」のステップは、ライブ会場という意味ではサッカースタジアムでの盛り上がりにもピッタリですからね。

4)イギリスという国にとって忘れ難い屈辱の年号「1985年」

「Live Aid」が開催された1985年は、イギリスという国にとって"世界から締め出された年"として歴史に刻まれています。ウェンブリースタジアムでの「Live Aid」が開催された7月13日に先駆けること約1ヶ月前の5月29日、イングランドという国はサッカーの国際舞台から締め出されたのです。

"ヘイゼルの悲劇"と呼ばれる、ベルギー・ブリュッセルで開催されたUEFAチャンピオンズカップ決勝戦で、ユベントス(イタリア)と戦ったリバプールFC(イングランド)のサポーターが小競り合いをキッカケに起こした暴動により、観客39名の死亡者を出す大事件が勃発。それまでにもイングランドではフーリガンによる事件が相次ぎ、ことを重大に捉えたUEFA(欧州サッカー連盟)が「リバプールFCに6年間、イングランドのサッカークラブに5年間のUEFA主催 国際大会への出場停止」という処分を科しました。そう、実は1990年までイングランドはヨーロッパのサッカー地図から抹消されていたのです。

その1ヶ月後に開催された「Live Aid」。当時の様子は知る由もありませんが、この大事件により世界におけるイングランドのイメージは「ならず者の集団」「暴力的」と根付いていたのは間違いありません。

にも関わらず、主催者の情熱で必死の思いで開催にこぎつけ、そこで母国を代表するロックバンドが伝説とも言えるパフォーマンスを披露したのです。Queenは間違いなく 暗く沈みつつあったイギリスに光を射した存在となったのでしょう。そうした側面を知った上でこの「Live Aid」再現映像を見ると、また違った印象を強めることと思います。

いかがでしたか。
まだ「ボヘミアン・ラプソディ」を観たことがない人には貴重な予備知識(雑学)が、すでに観た人には「もう一度観てみようかな」という気持ちにさせる豆知識となったのではないでしょうか。同作品を観る上での"違ったスパイス"となったら幸いです。

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