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だらしないおじさんたちへ

育ててくれる人がいない若者の現状
「オススメのWebライティング参考書などあれば、教えていただけませんか?」

ちょうど先日、勤めているウェブメディア運用会社の若い子から、そう声をかけられました。
その日の朝、臨席のWebディレクターに「前に話した、タメになるWebライティング参考書だよ」ととある書籍を貸したことはもちろん、特に最近そのディレクターと「Webコンテンツを企画する際の基本設計」「ランクダウンした掲載記事の改善方法」について話すことが多く、それを耳にした冒頭の若者が「私にも教えて欲しい」とメッセージをくれたのです。

今年44歳になる私、10年以上紙媒体を中心にキャリアを積んできまして、バイクのWebメディアで経験を積んだのちにフリーランスとして独立しました。しかし「Webに詳しいライター」と見られながら「本当に自分はわかっているのか?」という強い疑問から、名高いWeb制作会社に就職、以降自社や他社のWebメディア運用に携わりながら経験を積み、現在に至ります。

Webコンテンツの設計について理論と手応えが合致し出したのはごく最近。紙媒体出身者ゆえか、なまじ経験があるから"自分の書き方"が固まってしまっており、紙媒体とは本質的に異なるWebコンテンツの設計やライティングに馴染むのにかなり苦労しました。

Web制作会社に勤めていた際、コンテンツ解析の基礎を教えてくれるマーケターと一緒に仕事ができたのが一番大きかったです。まったく新しいアプローチ法に対してアレルギー反応を示すことなく、馴染ませていった結果、今の自分流の論理ができたと思っています。

一方、2社続けてWebメディア運用の会社に勤めてきた私のまわりには大きく歳の離れた若者が多く、彼ら彼女らは何をおいても「どこに行っても戦えるスキルを身につけたい」というハートを持ち合わせていました。43歳になる私の目線から見ると、私が20代だった頃より「育ててくれる人」が減っているんだろうな、それゆえのハングリー精神か、とも見える次第です。

まだWebメディアが市場を席巻するほどに拡大していなかった20代の頃、私の今のキャリアに大きな影響を与えてくれた恩師がふたりいます。おひとりはすでに他界されましたが、もうおひとりとは同じ東京在住ということもあり、たまにお会いすることも。

もちろん媒体は紙(ひとつは業界新聞、もうひとつは旅行関連の冊子でした)。思い返すと、誤った方向に行こうとしたら鞭とともに修正をかけてくれ、進むべき方向で結果が出せたら手放しで褒めてくれるなど、不出来な僕に腰を据えて付き合ってくださいました。改めて感謝の念が湧いてくる次第です。

"良い上司に巡り合う"ことほど幸運なことはありません。しかし、育てられる人が少なくなってきていると、巡り合う確率も下がるのでは?とも。ひと回りも歳が下の若い人たちと一緒に仕事をしていると、そう感じることが多いです。

それじゃあ頼りにもされないよね
5年ほど前まで勤めていた会社が解散する、という一報を先々月耳にしました。私が担当していたハーレーダビッドソン専門ウェブマガジンを運営するバイク関連会社で、「雑誌事業からの撤退」と「それに伴う関連事業の閉鎖」から、解散という形になったそうです。一部の社員は親会社に引き取られて業務を継続するそうですが、聞けば9割ほどの社員の退職が決定、次の職場探しに奔走しているとか。

この会社のみならず、他にも休刊や自己破産などを余儀なくされた出版社、編プロが続出。おそらく書店のバイク雑誌コーナーから半分近い雑誌が消えることでしょう。

業界繋がりはもちろん、同僚とも繋がっているSNSでは、雑誌事業からの撤退を決定した親会社への呪詛の言葉や不安の声、どういう経路か雑誌発行を継続する人への応援の声などで溢れています。

嗚呼、情けない。

バイク業界の縮小傾向なんて、何年も前からわかっていたこと。2000年前期に空前のブームを生んだハーレーダビッドソンとて、当時と比べるべくもないほど市場規模を縮小させています。危機感を覚えたバイクメーカーもあの手この手で新規層の獲得に奔走、思うような結果が出なくても「もしかしたらキムタクのTW現象がまた起こせるかも」と信じて施策を講じています。

呪詛の言葉を吐いている人たちは、何かそういう"新しい取り組み"やりました? 新たなエンスージアストを創出する試み、やりました?

紙媒体にしがみついて、「もしかしたら何とかなるかも」「俺の年齢だったらギリギリ逃げ切れるかも」って、天に向かって祈っていただけじゃないですか?

「責任割合」という言い方をすれば、メディア事業を存続させるための策を講じなかった経営陣に大きな責任があると思います。次いで現場の編集部。せいぜい7:3ぐらいの割合でしょうか。

だからといって「メディアに理解がない経営陣の無能ぶりを呪う」のはお門違いでしょう。むしろ売り上げ(実売)を上げるためにあの手この手と策を出して、その姿勢も含めて経営陣を動かすことを現場主導でせねばならなかったんじゃないでしょうか。

現実問題、あらゆる情報が無料で手に入るこの時代に、バイクというニッチな世界で「お金払ってこの情報を買ってください。ええ、Amazonでも買えますが、お近くの本屋さんに行って、レジまでお持ちいただいたご購入を……あ、立ち読みはご勘弁ください」というのは、痛々しさしかありません。

出資者は精度の高い審美眼を持つべき
こないだもFacebookで「頑張って雑誌発行を継続します!」って宣言した編集長に「頑張れ!」「応援しています!」とコメントを寄せる投稿がシェアされてきました。

何かの宗教かな?

何のためにやってるの? それを後世に残さなきゃいけない理由は? ってか、それほどのクオリティを追求した内容になっているの本当に? こんなの美談でも何でもありません、ただ時代の変化に順応できなかった人たちが身を寄せ合っているだけだな、と。

"継続は力なり"は私も大事にしている言葉ですが、存続させるためには後に続く若い人たちを育てなければなりませんし、それが先駆者の責務だと思います。変化の早い世の中なので、「情報を発信する側=メディア」という観点から見れば、紙媒体とてあくまでツールのひとつ。今では他にWeb、動画、その他いろんな発信用ツールがあり、それをどう使い分けられるか。「文字しか扱えません」というのも、プロのメディアとしては言い訳足り得ないと思っています。

こうした人たちを"誤解"させたのは、他ならぬ出資者(クライアント、パトロン、谷町、何でも)でしょう。いや、お金を出す人が納得していれば、それがビジネスになるので問題とは思いません。今回の某バイク系取扱会社の解散は、出資元である親会社が「出資し続けるに値しない」と判断しただけのこと。

いかなるビジネスでも、一定の投資が必要にもなるでしょう。ただ、そこにあぐらをかいてロクに売り上げも上げず、かといって現状を改善するための施策を打ち出すわけでもない。

これで「金出せ」って方がおかしいですよね。

今やメーカーがオウンドメディアを作れる時代ですよ。

要は適正な数に落ち着いただけ
誤解なきよう述べますと、元々紙媒体出身者である私は、生粋のマガジンジャンキーです。「Sports Graphic Number」は中学生の頃から愛読していますし(最近はつまらなくなったので買っていません)、旅行雑誌「TRANSIT」(トランジット)は装丁やエディトリアルデザインの美しさ、深掘りされた企画から定期的に購入しています。大きな書店に立ち寄ると、数冊手にとってしまい数千円散財することも珍しくありません。

紙媒体へのリスペクトは持っていますし、完全にゼロになるとも思っていません。

ただ、今ほどの数はいらないと思うだけです。

「手に取ってもらえない」のは「時代に合っていない」から。だったら作り変えればいいんです。

何も新しいことをやらなかったから、なくなることになった。当たり前のことじゃないですか?

若い人たちがもがいているというのに、本来彼らを導くはずのおじさんたちがひと所にしがみついて世を呪う言葉をただただ吐いているだけ。こんなおじさんしかいないバイクに、若い人が興味持つわきゃないですよね。

私も今年44歳と立派なおじさんなわけですが、ここ最近のSNSを見ていて「こうはなりたくないな」と切に思った次第です。

自分がそうしてもらったように
「コンテンツマーケティング」という言葉にあるとおり、今やマーケティング理論に基づいた市場解析は必須事項になっています。ことWebに関してはGoogleアナリティクス(もしくはGAを可視化してくれるサービス)を活用してユーザー動向を探り、"どこへ導くか"までの設計を行わねばなりません。雑誌のように「売れたら終わり」ではなく、読み終えた後のアクションまで想定するのが今のコンテンツマーケティングです。

それに加えて、無味無臭な記事では人の心を揺さぶることなどできません。ましてや購買意欲を掻き立てることなど不可能です。そこで生きるのは、長らく続いてきた紙をはじめとするメディアに蓄積されるノウハウです。基本を知り、基本を学んで独自の流派へと昇華させていく。そこに初めてオリジナリティが生まれます。

冒頭の若者含め、最近特に「Webライティングについて教えて欲しい」という問い合わせやメッセージを多くいただきます。たかだか3年程度積み重ねたWebでの経験がどこまで役立つかは分かりませんが、紙媒体で培ったスキルも含めて、出来得る限り、自分より若い世代に多くフィードバックしていこうと思います。

自分がそうしてもらったように。

だらしないおじさんにならぬように。

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