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ポンコツとウェルビーイングは人々を救うか

2021年の2月から音声SNSのクラブハウスでトークルームを立ち上げて、毎週火曜日の18時から1時間のトークイベントを行なっている。
トークルームの題名は「みんなのウェルビーイングを話そう」

ウェルビーイングとは、肉体的・精神的・社会的に満たされた健康な状態のことを言う。

世界保健機関(WHO)憲章の前文では以下のように定義されている。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)“

ウェルビーイングが注目されている背景として、多様性社会において性別や国籍はもちろん、多様なバックグラウンドを持った人とチームを組んで働くには、個々人の多様な価値観を尊重することと、健康で生き生きと働ける環境への配慮が大切であり、とりわけ現代の企業経営においては、多様な人材を活かすことで大きな成果やイノベーションを起こすことが求められていることが大きい。

また、働き方改革や健康経営、エンゲージメント向上など、従業員の働きやすさや働く幸せの向上を図り、最高のパフォーマンスを発揮してもらうための人事戦略の文脈からも非常に重要なテーマとなっている。

個人的には、成熟社会で既存ビジネスの延長では継続的に事業成長させるのが困難な環境のなか、売上や生産数とは別軸の概念として注目している。自分たちはどういう状態を目指すのか、目標とする尺度に選択肢は多くあっていいと思う。

トークルームの参加者は学校の先生、庭師、ピアニスト、翻訳家、起業家と多岐にわたり、全国各地から参加いただいている。ありがたいことにロンドンやニュージーランドなど海外から参加される方もいる。聞くだけ専門の方もいるが、大半はトークの輪に入り、最近あったウェルビーイングな体験談をお話しいただいている。

基本的な進行の流れは、コーチングの専門家でウェルビーイングについても造詣が深い吉田忍さんと私がモデレーターとなり、最近のWellな体験談を聞いていろいろと質問する形をとっている。

このトークルームを始める当初の企画段階では、吉田さんにウェルビーイングの理論や組織に実装する際のポイントなどを解説してもらい、私が質問するという形を考えていたのだが、早々に方向転換し、参加者の話をみんなで聴くスタイルにシフトした。

なぜなら皆さんのお話が多種多様で面白く、そちらの方に俄然興味が湧いてしまったからだ。

コロナ禍でオンライン授業にシフトせざるを得なくなった学校の先生方のご苦労や、それでも生徒たちに学校生活を楽しんでもらおうと創意工夫をされている姿、学校教育を良くするには教師自身のウェルビーイングを高める必要があると考えて奮闘されている方々のお話をお聞きし、頭が下がる思いがした。

中には過去の失敗エピソードをネタに、ご自身のポンコツぶりを面白おかしく話してくださる育児中のお母さんもいた。
緊急事態宣言下で学校活動が制限されるなかでも、新しい教育の形に順応していく子どもたちをダイヤの原石と褒め称える一方で、失敗ばかりで中身がスカスカな自分はダイヤの原石に比べたら踵(かかと)の角質をとる軽石だとご自身を形容されていて、その言葉選びのセンスに脱帽した。

そのお母さんの話を聞いて、不思議と他人の失敗エピソードには場を和ませる特別な力があると思った。たとえ短い時間でも他人の自慢話など聞きたくないものだが、失敗エピソードならいくらでも聞いていられるから不思議だ。
もし自分に自信が持てなくて生きづらさを感じている人がそのお母さんのポンコツエピソードを聞いたら、いくらか気持ちが楽になるかもしれない。ポンコツは地球の危機を救えないかもしれないが、今この瞬間に辛い思いをしている多くの人を救う可能性を秘めている。

他人のウェルビーイングな話を聞いていたら、勝手に気分が高まっている自分がいて、気が付いたら一年近く続けていた。コロナ禍で他者との身体的接触が断たれるなか、週に一度、(音声だけなので)顔も知らない仲間の話を聞いて自分の話をシェアするという行為が、精神衛生を維持するペースメーカーになっている。

このトークルームでは、ルールという厳密なものではないが、自然ととても大切にされていることがある。それは全員の心理的安全性が確保され、この場ではどんなことを話してもみんな受けとめて聴いてくれることだ。文字にも記録にも残らない、ただのおしゃべりの場だが、そんな時間を大切にしたくて毎回参加してくださる方がいる。私もその一人だ。

100人いれば100通りのウェルビーイングがあっていい。ウェルビーイングは人それぞれ。他人から与えられるものではなく、自分が感じるものだ。

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