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対談Q水野良樹×Tehu 第1回:今、意外とニューノーマルが存在しない。

みんなちゃんと満員電車に乗り直している。

水野:さあ対談Qでございます。ひとつのテーマについて、ゲストの方と一緒に考えていこうというこのコーナー。今日のゲストは、技術者のTehuさんです。よろしくお願いします。

Tehu:よろしくお願いします。

<プロフィール>

Tehu(てふ)

1995年、兵庫県生まれ。技術者、デザイナー。株式会社EXx 取締役CTO、株式会社ドラマティコ 代表取締役。灘中学校・高等学校を経て、慶應義塾大学環境情報学部卒業。2009年に開発したiPhoneアプリ「健康計算機」が世界3位のダウンロード数を記録し、中学生プログラマーとして話題になる。「学習能力とコミュニケーション能力の最適化による文明のリデザイン」を目標に掲げてさまざまなプロダクトやサービスの開発を主導し、大学在学中から講談社ウェブメディアの技術責任者・クリエーティブディレクターや、アーティストプロデュース・イベント演出などを手掛けた。

水野:HIROBAではラジオに出ていただいたり、企画でインタビューに答えていただいたりしましたけど、対談Qでは初めてで。今日、来ていただきました。

Tehu:出たかったです!「対談Q」観ていました。すごいメンツの方々が出ていて。武部聡さんとかいらっしゃったじゃないですか。自分にはちょっとハードルが高いなぁ…と思っていた矢先に。ありがとうございます。

水野:いつかお呼びしたかったんですよ。僕の少ない交友関係のなか、プライベートで結構Tehuさんとは会っていて、ふたりでご飯に行ったこともある。そこでいろんなお話を伺っていて、改めて何を聞こうかなと。

Tehu:はい。

水野:ずいぶん前、ラジオに出ていただいたとき、舞台芸術とかエンタメについて深い見識や興味を持っていると聞いた気がしまして。そこであえてHIROBAの根幹に関わるところで、「今、まさにこの広場、野外の会場、もしくはオープンなところで、できるエンタメって何?」みたいなことを考えてみようと。

Tehu:難しい!

水野:コロナ禍になって、もう2~3年経っちゃっているのか。

Tehu:経ちましたね。早いですね。

水野:ライブが復活しそうになったり、またダメになったりが続いていますけれども。このエンタメ状況をTehuさんはどう見ていますか?

Tehu:いろいろ言っていても仕方がないフェーズが来ているとは思います。みんなが100%、「行けるね!」と言えることってもう二度とないのかなと。このウイルスがなくなることはないし、すごく怖いと思うひとは一生怖いんだろうし。いつまでも気を遣う側に話を進め続けてもどうしようもない。そういう意味では、もう復活させていくのはいいと思うんですけど。

水野:うんうん。

Tehu:ただ、僕の感想としては、意外と元通りになりつつあるのはおもしろいところで。正直、これだけ大きな社会的な変化、衝撃、当たり前が当たり前じゃなくなることがあったら、さすがにいろいろ変わるだろうと思っていたんですよ。

水野:はいはいはい。

Tehu:復活するときも、少し違った形で戻ってくる。たとえば、テレワークとか。さすがにもう満員電車に戻ることはないだろうと。明らかに家で仕事をするほうが快適なわけじゃないですか。でも意外とみんなちゃんと満員電車に乗り直している。それはいい意味では、レジリエンスというか、復元力がある。その一方で、保守的だなぁとは感じますよね。とくに仕事の在り方はそうだし、もしかしたらエンタメもそうなのかもしれない。

水野:あー。

Tehu:今、意外とニューノーマルが存在しないというか。「そういえば、あれどうなったんだっけ?」と思うことが結構ありますね。オンライン飲み会とかも。

水野:逆に、「もっと変われたはずじゃん」みたいな気持ちはありますか? 「この機会に乗じて、このポイントはこうなったはずじゃない?」って。

Tehu:ありますよ。オフィスワークはもっと減らしてよかったと思うし。単に満員電車とか、個人の快適というより、社会全体の生産性を考えたとき、絶対そのほうが幸せになると僕は思っているので。プライベートに割ける時間も。今、都心で働いているひとの平均通勤時間って、往復2時間を超えていて。その時間をプライベートに使えるだけでどれだけ幸せか。とか考えると正直、そうなってほしかったなって思いますけど。

水野:うん。

Tehu:ただ一方で、そうならなかったのには理由があるというか。別に誰かが悪だくみをしてそうなったわけじゃない。多分、みんながいろんなことを考えた結果、「結局は前の形がいちばんやりやすいよね」ってなったと思うので。たとえば僕はテクノロジーを仕事にしていますけど、テクノロジーが最後の最後で使いづらかったとか。

水野:あぁー。

Tehu:今でも日本の企業の大半って、zoomで会議しましょうってなったら結構、揉めるんですよ。

水野:そうなんですか。

Tehu:直前に、「すみません、環境が整ってなくて」とか。ある一定のラインにデジタルの力が達していないひとたちからすると、「こんなややこしいものを使うくらいなら、戻したほうがいいだろう」と思うのは自然なことで。それを嘲笑するのは簡単なんですけど、道具を作る側の人間としては、このままじゃいけないなと。誰もが、「これならできる」と自信を持てるようなサービスを作っていかないと、って身につまされる思いはしますね。

30年前に描かれていた2022年がどんな世界だったか。

水野:たしかにライブでも、コロナ禍の初期、配信が盛んになったときがあったんだけど。

Tehu:ありましたね。僕も配信チケットいくつか買いましたもん。

水野:ただそこでの、「やっぱりリアルを超えられないんだな」って部分はたくさん出てきて。実は配信ってそんなに利益率も高くないし、うまくいかないよねって。それこそ技術がすごく発達するかと思いきや、そんなにそこは盛り上がらなかった。

Tehu:そうなんですよ。みなさん、過去を振り返るって重要で。これはSFとかでよくあるんですけど、30年前に描かれていた2022年がどんな世界だったか見てみると、滑稽だったりするじゃないですか。

水野:うんうんうん。

Tehu:この前、久しぶりに2014年の東京オリンピックの招致動画を見直したんです。で、街中のひとがみんなで選手を応援しているイメージシーンってよくあるじゃないですか。そのとき、女子高生か誰かが使っていたデバイスがスマートフォンじゃなくて。細い棒みたいなものがあって、指をシュッてやると、空間上に映像がファッと出てくるみたいな。

水野:出た!

Tehu:ホログラムみたいな。それが2014年に描いた2020年なんですよ。今見ると、「そんな未来にはなっていないです」と。そういう観点って大事かなって思いますね。

水野:その時点では、かなうと思っていたってこと?

Tehu:かなうと思っていたんですよね。そういうもの多いですよ。6~7年前に、日産自動車の視察に行った政治家のひとがいて。そこで政治家のひとに説明したのが、「東京オリンピックのときには、街中は自動運転車で溢れています」ということで。でもそんなことはないわけですね。

水野:ないですね。

Tehu:意外といろんなハードルがあって、物事って想像どおりに進まない。僕とかはやっぱり、「こういう技術があるから、こういう社会になるよね!」って夢を見るんですけど、世の中は最短経路でベストな形にはいかないところがあって。やればやるほど、もちろん夢を見られるところはたくさんあるんだけれども、現実にもぶち当たる。それは配信とかでもそうだったんだろうなと思います。

人間はそこまで高等な生物ではない。

水野:それは何ですかね。人間は結構、保守的というか。肉体的、物理的な問題が生活様式をそれほど劇的には変えないってことなのかな。

Tehu:僕が最近すごく感じるのは、「我々は自分たちが思っているほど、優秀、高等な生物ではない」ということで。高等な生物って、どんな環境にでも適応する。そして人間には知能があるので、本来は今この世の中がどうなっているのかを正確に察知して、それに最も適する形に自分をトランスフォームさせるのがよい戦略だと思うんですけど。それができないってことは、人間がそこまで社会に適応できるような能力を実は持っていない。だからこそ今まで、みんなでひとつになることによって何とか生き抜いてきたんだろうなと思うので。正直、そんなに悲観することでもないかなって。それが現実であるとわかった上で、少なくとも立ち止まっているんじゃなくて、一歩前に踏み出すにはどうすればいいかってことをやっていくしかないんだろうなと。

水野:うん。

Tehu:政府も、2030年にこうなりたいとか、2050年にこうなりたいとか、ムーンショットとか、今言っているじゃないですか。あれも、「ムーンショットでこうなります」みたいなところだけ取り沙汰されるんですけど、あんまりそこで期待しちゃうと。絶対そうはならないので。

水野:なるほど。

Tehu:思っていたのとは違うものになる。でもそこを見据えた上で、一歩進むことのほうが大事だから。何もかもチャレンジすることをやめるんじゃなくて、学んだことを活かして、新しいチャレンジをできればいいんじゃないかなとは思います。

水野:基礎環境は案外、大きく変わらないんだってことはコロナ禍を経て思って。ライブも、エンドステージで、不特定多数のひとに曲を届けるという構造自体はそんなに変わらなかった。もっと劇的に変わってもおかしくなかったんだけど。

Tehu:はいはいはい。

水野:たとえば、配信とかを使って、一対一の関係性でライブを作って、それを個々のパーソナルなスペースに届けるみたいなことが起きたりしないかなとか。でも結局、戻っていった。それはライブという小さな分野の話だけど、Tehuさんがおっしゃるように生活すべての分野において、そんなに変わってない。だから、広場という空間があって、そこでひとが何かをやって、届けるって構造自体も、数千年前から変わってない。そこは抜け出せないんだってところは、このコロナ禍での大きな発見だったのかなと思います。

Tehu:うんうん。

水野:そして、基礎環境が変わらないと考えたとき、「じゃあ、それに何をどうやって乗っけていくか」みたいな部分をテクノロジーが触っていくのかなと思いますね。

次回の更新は9月27日(火)になります。


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