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読む『対談Q』 水野良樹×高橋久美子 第2回:書くことで、自分が助けられている。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストは作家・作詞家の高橋久美子さん。

前回はこちら

東京再発見。


高橋:感染リスクとしては、都会のほうが高かったわけなんだけど…。地元に帰ったときのあの感じより、実は東京のほうがちょっと気が楽だったところはあったんですよ。

水野:いい加減なことは言えないけど、東京は他人と思えるひとが多いんだよね。駅に行って、ほとんどのひとが他人じゃん。

高橋:たしかにね。

水野:多分東京って、距離的には近いんだけど、(まわりのひとたちが)自分とは関係ないひとだって思える生活をしていて。本にも書かれているけど「東京の生きやすさ」って多少あるじゃない。

高橋:そうだね。ここでは、「風通しのよさ」って書いていて、それは上京してずっと思っていることかもしれないね。

水野:ご実家のほうに戻ったら、もうみんな知り合い?

高橋:そう。

水野:「高橋さんのところの」みたいな。

高橋:「あの子、帰ってたよね」ってなることが目に見えてる。それは薄々わかっていたけど、コロナ禍になってはじめて、ここまでか!って、思ったかな。みんなが知り合いだからこそ助け合えるとか、もちろんいい面もあるんだけどね。ちょっとジメッっとしたところも見えちゃったなって。

水野:うんうん。

高橋:まぁでも東京でもよく土を触ったりはしていて。今も白菜とか育てていて。なかなか外に出られないけど、土を触っていると落ち着いたり新しい発見があったり。それがまた詩とか小説になるという巡りもあったり。身近なところで新しいおもしろさを発見していくというか。

水野:書くものには何か変化ありました?テーマとか。

高橋:テーマはそうね。「東京もいいやん!」みたいなこと。

水野:逆にね。

高橋:逆に。2年間、東京に籠るようになったから。今までは、「地方万歳!地方のほうがおもしろいに決まってる!」って思ってたんやけど。自分の足元を見つめ直した感がある。私もそうなんやけど、地方から来ているひと、「東京のひとは冷たい」と思いがちなんやけど、全然そんなことない。

水野:東京は地方出身のひとばかりよね。

高橋:そういうことなんよ。

水野:みんな、「帰れない」って言ってたもん。つまり、”帰る”のは東京じゃない。だから、根無し草でも居られる場所というか。そういう意味では、優しいといえば優しい。

高橋:優しい。東京再発見ってあるなと思いました。

水野:なるほどね。東京、僕好きですもん。いい意味での無色透明感。凝り固まってないし、基本オープンだから。

高橋:土地は狭いし、地元に比べるとぎゅーってしているし、緑もなかなかない。だけど、風はずっと流れていて、澱まない感じ。東京ってもっと怖いところだと思っていたけど、意外とみんな優しくて、他人を認め合える。自分が女っていうのも意識せずにいられる。そういう面でも生きやすいです。

水野:コロナ禍においては、よくも悪くも適応しやすい街だったのかもしれないですね。地方のほうが、地域の繋がりだとかが、より悪いほうに出ちゃいがちな状態になっていたというか。

高橋:言い方悪いけど、監視し合うというか。そういう面もあったのかもしれないなって。

水野:普段だったら、助け合うほうにもっと寄っていて、みんなポジティブになっていた。それが、監視し合うという言葉のほうが似合っちゃう状態になっちゃうときがある。コロナでよりそれがね。


自分のために書いている。


高橋:今年の夏ぐらいやったかな、ミュージシャンの後輩から、「歌詞が書けないんです」って連絡がきて。「どう書いても嘘っぽく聞こえるし、みんなをどう励ましたらいいかわからないし、どうしたらいいかな久美子さん」ってメールが来て。私は、「書けないんだ」ってことを書けばいいんじゃないかって。

水野:うんうん。

高橋:それがあなたの思っているすべてなんだから、「どうしたらいいかわからない」ってことを書くのがいいのかもね、なんてことを言ったりしていて。水野くんはどうですか?歌詞すごく書いていたと思うんですけど。

水野:それが意外とね、歌詞を書いてないのよ。この1年ぐらい。

高橋:ええ、そうやったっけ?

水野:『OTOGIBANASHI』とか、歌詞をみんな作家さんに書いてもらっているし。実は2021年、詞先がめっちゃ多かったんですよ。それはそれで楽しかったんだけど、ちょっと逃げてるところがあった。

高橋:逃げてるのかなぁ。たまたまやんな?

水野:たまたまかなぁ。職業作家的に「こういう歌詞を書いてほしい」みたいなものに応えられるモードじゃなかったのは少しあったかもしれない。

高橋:それはやっぱり自分自身の心の疲れってこともあった?

水野:あったと思う。すごく贅沢な話なんだけど、自分が理由を見いだせないと、曲を書くという行為がしんどくて。

高橋:わかりますよー。めちゃめちゃわかるよ。

水野:書くという行為を乗り越えるための、掴む藁にできるような。もちろん時期によっては、自分の力で立てるときもあるんだけど、そういうモードじゃなかったかもしれないね。

高橋:すごい正直!

水野:うちはメンバーの山下が離れたりもして、グループにとっても動きがあった1年だったから。すごく幸せな形であいつは卒業していって。

高橋:この本(『犬は歌わないけれど』)のなかにあったね。なんだか泣けちゃったよ。バンドのこと。


『犬は歌わないけれど』


水野:自分のなかで整理しないと、乗り越えられないなーみたいな。すごく綺麗に書いているんだけど、綺麗に書く行為が自分を納得させるみたいな。

高橋:昇華させてくれるね。自分のために書いているよね。依頼されて書く歌詞もそうなんよな。

水野:そうでしょー?

高橋:書くことで、自分が前に進んだり、慰められたりしているんですよ。助けられているなって思います。依頼されたことであっても、自分が今何を考えていたのかとか、こういうことが悲しいんだとか、わかったりするよね。職業作家だとそういうことはない?

水野:いや、あるのよ。

高橋:あるのね。

水野:というか、一時期すっげー忙しくなって、だんだんヤバい状態になっていってさ。

高橋:Twitterで、「俺、明日までに何曲仕上げなきゃいけない」とかあったやん。水野くん大丈夫か?って思って。

水野:ありがたい話だけど、いろんなものが重なったりして。表に出ているだけじゃないからさ。スタッフさんも気にしてくれて、1週間か2週間ぐらい休みを取ってくれたのよ。いろいろ整理して。それで休んだとき、書かないじゃん2週間ぐらい。そしたら、ドン病み。

高橋:え、待って。2週間なんもせんかったらドン病みしたってこと?

水野:そう、逆に病み。俺、書くことで自分を維持していたんだなって。その瞬間は集中してるじゃない。自分を束ねていくというか。

高橋:本が1冊ずつ出来上がると、自分もまとまっていく感じするもんね。

水野:やっぱりそうなんだ。いっぱい書いていて。

高橋:今年4冊も出していて、2021年狂ったようにずっと書いていたから。でもやっぱり同じなんだと思う。しんどければしんどいほど、書いていたほうが救われることがあるんじゃないかな。仕事と思ってる?

水野:これがね、思ってないのよ。

高橋:思ってないよな!私も思ってないのよ。

水野:仕事って何?ってなる。

高橋:それって頼まれた仕事でさえも?

水野:もちろん社会人としての振る舞いはしようとしますよ。それは大前提としてありつつも、どっか本質的には、「仕事」という言葉でイメージするような義務であったり、きっちり感であったり、「これは立派なことである」みたいな感覚だったりは、非常に希薄ですね。

高橋:おんなじですね。安心しましたよ。まったくそのとおりで、仕事って思ったことがない。いつも相手のことも少し裏切りたいって思ってる。

水野:なるほどね!

高橋:だから、全部言われた感じにはしたくないっていうのもある。もちろん相談しながら、社会人としてやりますけれども。やっぱり好きやけんやりよるよな。でもそれを越えてしまうかどうかの線ってあるやん。2週間のお休みのときは、そこが危ぶまれたのかもしれんよね。

水野:結構、ずっと疑心暗鬼で。「自分は本当に音楽好きなのかな?」みたいなことを思っているタイプだったのね。だからそこらへんを経て、「あら、結構好きだったのかも」みたいな。好きだからやれていたんだなって改めて気づきましたね。


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