今村昌平 「復讐するは我にあり」を42年ぶりに見直した。

42年前18歳で見た時には凄い映画だとは思っても楽しみ方が今一つわからず、そのことを編集の大永さんとも話したことがあった今村昌平監督「復讐するは我にあり」を配信で封切以来に見直したが、確かに犯人の出自からその人生を追って感動させるわけでもなく、ハラハラドキドキするようなサスペンスがあるわけでもなく、また、シリアルキラーを残酷に描くホラーでもないが、犯人の榎津巌の周りに巣くう人間模様が抜群に面白い。カトリック信仰に異常に拘る三国連太郎はもちろん、覗き趣味の清川虹子、エロ親父の北村和夫、年老いて死の水際あって、まだ女の意思で帰って来るミヤコ蝶々と言った初老の人々も、小川真由美も倍賞美津子も殺されるだけの加藤嘉も全ての登場人物が妖怪のように醜悪で不気味で人間妖怪図鑑のように映画を賑わせる。
そして、そのワンシーンワンシーンの演出がこれでもかという具合に工夫して見せてくる。リアリズムの今村昌平と評されがちだが、実に凝ったカメラワークと芝居の動線で「楽しませる」ことを意識した演出なのだ。例えば、小さなエピソードだが、駅の助役の金内喜久夫が最高だった。倍賞美津子との浮気を疑われた金内喜久夫が、駅で緒形拳に脅される場面。駅舎から線路を越えてホームまで、脅されながらもいつもの鉄道員の仕事は確りこなしていくところ実に軽妙で見事な芝居だった。しかも実際に入線、発射する列車を使いながらのダイナミックでコミカルな演出になっていた。
加藤嘉の死んでいるシーンも、殺害現場は見せず、緒形拳の背後でぎ~っと箪笥の扉が勝手に開くと、恐ろしい形相で死んでいる加藤嘉の死体が現れる。緒形拳が何度も何度も箪笥の扉を閉めても、まるで亡霊の加藤嘉が操っているかのように扉が開くのをワンショットで見せる演出。加藤嘉の死体顔の凄惨さも含め楽しませてくれる。
オープンもセットもロケセットも凡庸なショットがワンショットもない傑作だということを42年経って知ることが出来た。
同じ西口彰事件を扱った作品には牧口雄二の「戦後猟奇犯罪史」と言うオムニバス映画があって、こちらの榎津にあたる西口彰の役は室田日出男が演じていて、トラックの運転手を殺したり、旅館で詐欺~エロ~殺人事件まで同じようなエピソードを描いているが、室田日出男の暴力性が前面に出ていて、緒形拳の多面的なキャラを持った榎津と比べてみるのも面白い。

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