昭和音大と日本映画大学のコラボ授業 ヒッチコック「めまい」のバーナード・ハーマン

昭和音大と日本映画大学のコラボ授業『映画音楽概論』終わってほっとする。「めまい」で、キム・ノヴァックがホテルに来るところから、着替えて緑の照明の中に照らし出され、そのあとのキスシーンまで上映、一回は見て、2回目はハーマンとヒッチコックの音楽演出について検証しながら見た。
キム・ノヴァックが美容室から帰って来るところを待ってるジェームズ・スチュアート。通りを歩いて、ホテルに入るところのキム・ノヴァックは見せずに、緑色のネオンの光に照らされながら窓外を見つめるスチュアートの期待と不安が入り混じる表情だけで見せる。ここからハーマンのストリングスが、同じメロを繰り返し、スチュアートの不安と期待を表現していく。やがてスチュアートは廊下に出て、キム・ノヴァックが現れるのを待ち、廊下の奥を見つめていると、金髪に髪を染め上げたキム・ノヴァックがやってくる。しかし、ハーマンのストリングスは盛り上がらない。なぜなら、ノヴァックの髪は結いあがっておらず、スチュアートの期待していた髪型にはまだ至っていないからだ。つまりここではまだ勃起不全なのだ。やがて部屋に入り、スチュアートはノヴァックに髪を上げてくるように請う。命令ではなく請うところが変態ぽくていい。ここまでハーマンのストリングスは静かに奏でられている。ノヴァックがパウダルームに入り扉が閉まる。スチュアートは愈々期待が高まるが一方、不安で扉を見ていられずカメラに背を向けてしまう。曲が一旦静かになり、そこからカメラがトラックアップしていくと共に曲が盛り上がり始める。やがて、オフの効果音で扉が開く音がする、振り返るスチュアートの顔が興奮の頂点に達しようとするがしかし曲は最高潮まではいかない、そこでカットが変わり、あの伝説の緑の光の中のキム・ノヴァックのショットとなると同時に、曲は最高潮となる。そこから先はめくるめく快感の盛り上がり、2人は唇を重ね、カメラは2人の周りを円形ドリーでじわーーーっと捉える。ハーマンの曲はもう後戻りできない禁断の性に踏み込んだ2人を祝福するかのように音が厚くなっていく。この曲の盛り上がりと共に、キム・ノヴァックもすっかりスチュアートの変態趣味に同化していくが、面白かったのは、このキスシーンの最中に一瞬、スチュアートは顔を離し「え?」と言う表情になる。「これいいのか?」と言う自己への問いかけなのか、逡巡がある。明らかにつけられた芝居だが、ここまで手をかけて演出して盛り上げてきたキスシーンに「え?」と言う芝居が入るのが以外で面白かった。
音楽演出の為に見せたシーンだったが、あらゆる面で演出が凝っていて、それを一つ一つ検証していくのは、学生たちにとっても勉強になったのではないだろうか?映画を見せる前に、「めまい」を見たことがある人?と聞いた時に多くの学生が手を挙げていたし。
キム・ノヴァックは妖しい美しさだったが、僕は95年のゆうばりファンタスティック映画祭で、キム・ノヴァックやキン・フーと共にゲストで夕張を訪れたことがあった。この時、ゲスト御一行様と言う感じで、同じマイクロバスに乗り、炭鉱博物館見学とかも一緒に行ったが、一度だけ、キム・ノヴァックとその妹と僕だけがマイクロに乗り損ねて、一緒にゆうばりの商店街を歩いて、映画祭会場に向かったが、途中で、靴が滑るので、長靴が欲しいと言い出したキム・ノヴァックを古い鄙びた靴屋に案内して長靴を買うのを手伝ってあげたが、あの「めまい」のキム・ノヴァックの長靴を買うのを手伝ったのは、長い人生中で数少ない自慢話である。この時、60歳くらいだったのかな。綺麗なブロンド(染めていたのかもしれないが)のキム・ノヴァックはまだまだ美しく、天上の世界から舞い降りてきたように思えた。

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