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【建築】拝啓、フランク・ゲーリー様

拝啓、フランク・O・ゲーリー様

私が初めてあなたの建築に出会ってからもう15年が経ちました。
そうです。それは建築専門外の私が"建築"というものに興味を持つきっかけだったのです。

初めて見たゲーリーさんの建築はウォルト・ディズニー・コンサートホール。そのありえないウネウネの造形に衝撃を受けました。それ以来、他の誰にも真似できないその独特の造形に魅せられ、私はゲーリーさんの建築を巡礼してきました。
それらは"ゲーリー建築"としては必ずしも有名なものばかりではないかもしれませんが、そこは目を瞑って下さい。

以下、訪れた建築のメモです。




ヴィトラ・デザイン・ミュージアム(1989年)

今や世界中にゲーリー建築があるが、家具メーカー・ヴィトラ社のミュージアムはヨーロッパにおける初めての建築。


色合いは地味だが、その分カーブの利いた彫刻的な造形が引き立っている。


説明によれば「ロンシャンの礼拝堂の影響を受けている」とのことだった。納得すると同時に、コルビュジエからも影響を受けていることには意外に感じた。


こちらは隣にあるゲートハウス。


隣接する工場はシンプルな直方体だが、2箇所の出入口は思わず入ってみたくなるデザイン。



フライング・フィッシュ(1992年)

バルセロナ・オリンピックを記念したモニュメント。


"魚"が好きなゲーリーらしいオブジェ。



ワイズマン美術館(1993年)

ミネソタ大学にある美術館。
後にゲーリー建築の特徴となるウネウネの初期の建物。


レンガ張りの直方体の建物をベースとしているが、ミシシッピ川に面した一面のみウネウネのステンレスパネルで仕上げられている。


しかし少し遠慮がちというか実験的というか、まだ「ウネウネ造形に対する反応を様子見」といった印象を受けた。



ヴィトラ本社(1994年)

ヴィトラ社本社は"本社"というには小さな建物。これは周辺の住宅街のスケールに合わせているためらしい。


この建築も直方体の建物と複雑な造形の建物という組合せになっている。当時はショールームも兼ねていたので、特殊ではない普通の建物と家具との相性を確認出来るように、(普通の)直方体の建物も用意したそうだ。



EMRコミュニケーション&テクノロジーセンター(1995年)

この建築を見るためだけにドイツのBad Oeynhausenという街を訪れた。


エントランスのあるアトリウムを中心に、風車のようにオフィス、講堂、会議室といった建物が平面的に配置されている。


残念ながらオフィスビルなので建物内には入ることが出来ず、また曇天のせいか少々寂しげに見えてしまった。



ノイアー・ツォルホーフ(1999年)

ライン川沿いにあるオフィスやレストランの入った施設。周辺には高さ240mのラインタワーもあり、散歩には良いエリアだった。


3棟のビルのファサードはそれぞれ異なっており、赤はレンガ、

シルバーはステンレスパネル、

白はプラスターで仕上げられている。


どのビルも共通して工業的な大きなサッシの窓が荒々しく取り付けられており、形状も仕上げも異なるビル群なのに統一感があった。



ゲーリー・タワー(2001年)

ハノーファー交通サービスが所有する9階建てのオフィスビル。
第一印象はずんぐりむっくり。


狭い敷地という条件の中でも、ステンレスパネルで覆われた少しひねった形状はゲーリー建築らしさがちゃんと表現されていた。



ウォルト・ディズニー・コンサートホール(2003年)

ロサンジェルス・フィルハーモニックの本拠地であり、ゲーリー建築の代表作の一つ。そして冒頭に紹介したように、"建築"に興味を持つきっかけとなった建物でもある。


私がまだ未訪問のあのビルバオ・グッゲンハイム美術館(1997年)を思い起こさせるが、先のワイズマン美術館に比べて、ウネウネの造形はかなり洗練されてきているように思う。(偉そうにスミマセン…)



MITステイタ・センター(2004年)

マサチューセッツ工科大学の理工系やコンピュータ、AIなどのラボ、教室、カフェが入る施設は、積み木をひっくり返したようなぐちゃぐちゃのフォルム。でも個人的にはゲーリー建築の中では最高傑作だと思う。


竣工後に雨漏りで訴えられたという話も聞くが、それも納得できるほどガラス・レンガ・ステンレスなど様々な仕上げが不規則に重なり合って、所々その仕上げがそのまま内部にも続いている。


スチューデント・ストリートには天井から外光が入り、その横にはカラフルな掲示板やボードがあり、いかにも大学といった雰囲気がある。歩くだけでも楽しい。


何より建物そのものが遊び心に溢れて、「研究者は遊び心を忘れてはならない」というメッセージが込められているようにも感じた。



ジェイ・プリツカー・パビリオン(2004年)

プリツカー建築賞でもおなじみのプリツカー家(ハイアットホテルの創業者)の寄付による屋外コンサートホール。


プロセニアム・アーチは、例のウネウネのパネルで覆われている。


前方は固定席、後方は芝生席となっており、スチールパイプで組んだグリッドに取り付けられたスピーカーにより、後方でも音楽を楽しむことが出来る。(実際に演奏を聴いたわけではないので知らんけど)



マルタ・ヘルフォルト(2005年)

主要産業が家具であるドイツの街 Herfordの現代美術館。


マルタ(MARTa)とは、Möbel(家具)・ART(アート)・Ambiente(環境)を組み合わせた造語。


ロビーや受付のあるエリアがゲーリー建築にしては直角・直線的なのは、元からあったビルを取り込む形で建てられているから。そう、改修+増築なのだが、こういう建築も上手いんだよね。



IAC本社ビル(2007年)

マンハッタンにあるIAC(InterActiveCorp’s)の本社ビルはニューヨークにおける初めてのゲーリー建築。


ドット入りのシルクスクリーンをプリントしたガラスのカーテンウォールは帆船をイメージした造形となっている。


近隣には坂茂やジャン・ヌーヴェルの集合住宅もあって、建築ファンには楽しめるエリアでもある。



オンタリオ美術館(2008年)

御年79歳にしてついに故郷トロントに錦を飾った建築。元からある美術館を大幅に改修し、新館も増築してリニューアルされた。


正直に言えば、この美術館はデザイン面では少しおとなしめで、「もっとゲーリー建築を見たい」という人には少し不満かもしれない。"らしさ"があるとすれば螺旋階段だろうか。


でもゲーリー建築はこの美術館に限らず、実は内部空間もすごく良い。この美術館も多くの部屋が木で仕上げられていて、どこか温もりを感じさせてくれる。


何より「Galleria Italia」と呼ばれる木とガラスの回廊はとても居心地の良い空間で、多くのお客さんがくつろいでいた。


もっと評価されても良い建築だと思う。



ノバルティス・キャンパス(2008年)

製薬会社ノバルティスの本部キャンパスには著名建築家によるオフィスや研究センターが集まる。まるで建築博物館だがこれもその一つ。
しかし原則非公開なので敷地には入れず、柵越しに撮ったのがコレ。



プリンストン大学ルイス図書館(2008年)

プリンストン大学の図書館の一つだが、学部の図書館なので規模はそれほど大きくない。しかも学習スペースがメインで、本はあまり見当たらない。後で調べたところ、データサーバを含めて地下に収蔵されているそうだ。


アトリウムの壁はカラフルで遊び心に溢れている。ガラスやレンガなど色んな素材を使っていることを含めて、ちょっとMITステイタ・センターにも似ているな。


この建物に関する建築家ご本人のコメントによれば「アアルトの影響が表れている」そうだ。「どこに?」というのがそれに対する正直な感想だが、強いて言えば内部空間における光の取り入れ方だろうか?(いや、別にケチをつけているわけではありません。アアルトからの影響ということが意外に思っただけです)



8 スプルース・ストリート(2011年)

ニューヨークのロウアー・マンハッタンにある高層マンション。当初は「New York by Gehry」というキャッチコピーでも分譲されていたそう。建築家の名前で売り出されるなんて流石!


うねった波のようなステンレスパネルのファサードは、見る角度や陽の当たる方角によって表情を変える。
その複雑なファサードは建築費も高そうだが、ゲーリー・テクノロジーズ社の管理により、実は特注のパネルはわずか20%、残りの80%はメーカーの標準または規格のパネルだそうだ。ホントだろうか?



フォンダシオン ルイ・ヴィトン(2014年)

パリ・ブローニュの森にあるルイ・ヴィトン財団の現代美術館。


3,600枚のガラスから構成される12枚のベールは風を受けた帆船のようでもあり、雲や魚のようにも見える。


この建物(というかゲーリー建築の多く)は基本的にはハリボテ建築なのだが、ガラスのハリボテが庇の役割をして、上下左右に広がっている屋外テラスを心地良く散歩することが出来る。


訪れた日は晴天で、周囲の緑と紅葉の赤との配置が絵になっていた。



ところで我が日本にもゲーリー建築がある。いや、建築ではないか。

フィッシュ・ダンス(1987年)

神戸開港120年を記念して設置されたオブジェ。


亜鉛メッキ製の金網で出来ている。


この汚れ、というか錆は狙ったものなのか?
それともメンテナンスが行き届いていないだけなのか?



それにしても日本のゲーリー建築がコレだけというのは寂しい。あの造形では色々難しいということは分かるけど…。
どなたか勇気のある施主さんはいませんか?




以上、2024年2月現在で訪れている建築です。

ゲーリーさんの建築は見た目や外観が重視されているように思われますが、実は内部空間もとても良いのです。美術館や大学など限られた施設しか内部に入ることは出来ませんでしたが、自然光が取り入れられ、木もふんだんに使われ、遊び心もあって、空間としての居心地がとても快適なのです。


そしてもう一つ、ゲーリーさんが凄いと思うのは"お歳"です。
ゲーリーさんが建築家として一般に注目されたのはご自宅の改修「ゲーリー自邸」ですが、1929年生まれのゲーリーさんはこの時49歳。一般的な社会人で言えば既に折り返しています。しかし快進撃はココから始まるのです。

建築業界に大きな影響を与えたビルバオ・グッゲンハイム美術館は68歳、ウォルト・ディズニー・コンサートホールは74歳、フォンダシオン ルイ・ヴィトンは85歳の時の作品です。もちろん現在も計画・建設中の建物がたくさんあります。
ゲーリーさんの建築を見ていると、その旺盛な活力に「年齢なんて関係ない!」と改めて思わせてくれます。
私も励みになります。ありがとうございます!

これからもゲーリーさんの建築を見られることを楽しみにしています。

敬具

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