見出し画像

【建築】昼寝には最適なロレックス・ラーニング・センター(SANAA)

滞在先のスイス・バーゼル。午前5時の中央駅は閑散としていた。当然か。

画像1


向かうはレマン湖ほとりのローザンヌ。目的地はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のロレックス・ラーニング・センターである。

画像2


こんな早朝に出発する訳も夕方まで建築探訪のスケジュールがパツパツに詰まっているためだが、さすがに眠い。まあ自分が組んだスケジュールなので仕方ない。



ロレックス・ラーニング・センターの設計は、妹島和世と西沢立衛の二人による建築家ユニット SANAA。2010年には建築界のノーベル賞とも呼ばれるプリツカー賞を受賞した世界的建築家である。ちなみに「さなあ」と読む。日本では金沢21世紀美術館が有名だ。

画像17


ガラスやアルミといった素材をファサードとして使い、軽やかなイメージの建物をつくることを得意としている。その作風は海外でも評価が高い。

画像6
画像7



EPFLに着いたのは8:00過ぎ。キャンパスには学生の姿もまだ疎らであった。

ロレックス・ラーニング・センターは、連邦政府やSwiss credit、Novartis、Logitech、Nestleなど多くのスイス企業からの出資により建設されている。その中で最も資金を提供したのはRolex。そのため施設にはRolexの名が付けられている。

建物は長方形の平屋だが、166.5m×121.5mと巨大だ。写真にも収まり切らない。

画像6


中には図書館や自習スペース、会議室、カフェ、レストランといった施設があり、学生でなくても大学関係者でなくても、誰でも利用できる。

所々地面から持ち上がり、うねる水面のような形状が特徴となっている。

画像7


こんな大きな建物があると向こう側に行くにも回り道をすることになって面倒だが、持ち上がったところは通り抜け出来るので、移動には問題はない。

画像11


持ち上げるということは、アーチ型の構造にするということ。つまり強度が高まり、柱の本数を減らすことができる。例えばこの広場もそれなりの広さであるが、柱は見当たらない。

画像37


あちこちに円形に繰り抜かれた大小の中庭がある。程よく快適そうな空間で、ここで爽やかに朝のコーヒーでも飲みたいところだ。

画像10
画像11


ただし屋根や床のコンクリートが少し"厚い"のは残念。正直な感想を言えば、SANAA建築にしては"重たい"。もちろん建築家としてはもっと薄くしたかったのであろう。後で調べて分かったのだが、厚くなった理由は、構造や施工の問題以外にも、厚い断熱材を入れなければならないということもあったようだ。

画像12


建物全体では何百枚ものガラスが使われているが、縦・横・曲線などそれぞれ微妙にサイズは異なっている。有名建築家にはありがちだが、施工者泣かせ・メーカー泣かせなんだよね。(←非難ではない)

画像13
画像14


東・南・西には外付けのブラインドが設置されている。ガラスのサイズが異なれば、ブラインドも各々サイズが異なる。これまた大変だ。(←非難ではない)

画像15
画像37


直射日光の当たらない北側にはブラインドはない。

画像17


エントランスは真ん中の中庭にある。建物を持ち上げている理由はここにもある。キャンパスのどの方向からでもアクセスできるようにしているためだ。

画像18
画像19


館内は壁が無い広いワンルームとなっている。その理由は、学生や講師、あるいは学外の様々な分野の人たちが出会い、集い、そして交流し易い施設を目指しているからだそうだ。確かに物理的にも壁があると、出会いの機会は減るだろう。

天井(屋根)も床に合わせたアーチ型構造なので、太い柱で支える必要がない。

画像20


そして照明は柱に付けたり自然光を取り入れることで、天井に付く設備を最小限にしている。これにより天井がスッキリして、さらに広く感じる。

画像37


床も大きくうねっている。平坦な場所は少ない。
傾斜が急なので、"丘"の向こうには何があるのか分からず、その先が見えないという感覚が面白い。どんどん歩いて行きたくなる。

画像22
画像23


ちょっと狭くなった通路も、その先に何かありそうで興味を引く。

画像24


この突き当りの窓からはレマン湖が見えた。(でもあまり美しくはないね)

画像25


館内にはクッションが置いてあり、学生はそれを持って好きな場所でくつろいでいるのだが、朝8:00過ぎから既に昼寝(朝寝?)している学生が何人もいた。家で寝たら?と思ってしまうが、この傾斜は寝るのに最適な角度なのかもしれない。しかもなぜか"丘"の上で寝る傾向にあるようだ。

画像37


こちらの"丘"の上は図書館。

画像26


自習室。

画像27
画像28


レストラン。

画像29


カフェ。

画像30


時計。もちろんロレックス!

画像45


ワンルームなのでどこもオープンな空間だが、クローズな環境を必要とする場所は囲っている。SANAA建築ではこの手法をよく見かける。

画像37


ミーティングルームもこの通りガラスで囲われている。この部屋で自習すれば360度から注目され、「勉強してるぜ」感が出せること間違いない!

画像32


バリアフリーにも対応している。
傾斜が急なエリアにはつづら折りのスロープがあり、

画像33

エレベータもある。

画像34


そういえば、天井にも壁にも床にもエアコンは見当たらない。
輻射空調と中庭からの自然換気による温度制御をしているらしい。

画像35


この建物にはたくさんの中庭があるが、それはより効率の良い自然換気を行い、より多くの自然光を取り入れることにつながる。つまり中庭がたくさんあることは、環境負荷の低減に貢献しているのだ。
それだけでなく、外付けブラインドも断熱材の入った厚い床や屋根も、全てがエネルギー効率の良い建物を実現することにつながっている。

スイスには「ミネルギー」という省エネルギーの品質基準があるが、こうした工夫によって、この建築もその基準を満たている。
実はとても環境にやさしい建物でもあったのだ。



ちなみに後日森山邸を見学したのだが、森山邸では”分棟”と”露地”により、プライバシーを確保しつつも何となく気配を感じるプランになっていた。
このロレックス・ラーニング・センターでは分棟の代わりに”丘”、露地の代わりに”中庭”により、何となく隣のエリアで行われていることを感じるプランになっている。そう、これも分棟形式の派生型の一つなのかもしれない。



さて見学を終えてもまだ10:00。これからまだまだ忙しい。
まずはベルンで途中下車して旧市街と(曇天の灰色の空が残念)、

画像38

レンゾ・ピアノによるパウル・クレー・センターを見学。

画像39


バーゼルに戻ったら、ヘルツォーク&ド・ムーロン祭り!

画像40
画像41
画像42
画像43
画像44


そしてピーター・ズントーも!

画像45



この日、ホテルに戻ったのは20:00過ぎ。歩いた距離は約20km。
とは言え、私の海外での建築探訪では普通のスケジュールと移動である。

そうか!
最近私が海外旅行誘っても、誰も一緒に来たがらない理由はコレか...




SANAA建築 グレイス・ファームズ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?