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【第32話】 ヤギ肉をさばく男🇲🇲

「市場」には観光客向けのものもあれば、そうでないものもある。ヤギの精肉市場はどちらかというと後者だろう。ヤギの肉を買わない観光客はそこで働く者にとって異物でしかない。だから、まずそうな雰囲気であればすぐに出てしまうつもりだった。だが今回はいつもと違う言い訳ができる。「仕事の取材で来ている」と言えばいいのだ。「俺は観光客ではない」そう自分に言い聞かせて、グングンと奥へ進んで行った。

肉をさばいている男に声をかけられたところで立ち止まった。こちらを指さしている。「そのカメラ変わってるな」と言っているようだった。チャンス到来。逃してはならない。これを待っていたのだから。

「いいよ、撮れよ」と笑った
「なんだ?」とみんな振り向く
さばかれたばかりのヤギ
撮られていて少し嬉しそう
腕に刺青をしている
同僚と何か言って笑っていた

「ここで何やってる?」男の口調に嫌悪の色はない。優しい声だった。「実は日本の学生に見せる番組を作っています。この国の職場を紹介したくて。協力いただけませんか?」男はやや前のめりになって聞きながら、そうかそうかと頷いて同僚に笑いかけた。珍しい訪問者だ。「ちょっと相手してやろうか」とでも言ったのだろう。

男はカメラマンに追いかけられながら市場を回るのを楽しんでいるようだった。周囲の男たちが好奇の眼差しを向けてくる。楽しいなと思った。男、周囲の男たち、そして異国のカメラマンの新しい関係。自分にとってだけでなく、ここにいる誰にとっても新鮮に映ったのは明らかだと思えた。

ヤギの精肉の仕事だよ

肉をキレイにしたらホテルに持っていくだろ
そこで金をもらうんだ
清算だな

夜明けの5時半か6時にはここに来る
午後5時に市場が閉まって帰宅だな
それからお祈りに出る

お祈りが終わって家に戻るのが午後9時
それから夕飯をとって寝るんだ
それの繰り返しだよ

夜6時以降は仕事はないよ
家族だな 大切にしているものは家族

ああ仕事で?
メェーって わかるだろ
ヤギだよ

他に仕事で重要といえば
毎日ここに通って仕事をして金を稼ぐ
その金を家族に渡す
それが一番重要なことだよなぁ
この仕事しかできることないからねぇ

好きだよこの仕事
この仕事愛してるかって言われたらイエスだね

この仕事のどこが好きかって?
全部だよ
充実感かぁ 夜 仕事が終わって金を手にした時だよなぁ やっぱり

ちっちゃい方の子どもは5年生になったし長女は縫製の仕事
俺はヤギの精肉 嫁は家事をやって
満たされてるよ

Butcher in Rangoon MYANMAR summer 2018
Tricycle Driver in Yangon Myanmar

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