【第14話】 夜の小さな商店🇮🇳
宿の向かいに小さな売店があった。昼に水を求めて寄った時はなんとも思わなかったが、夜になるとちょっと雰囲気がある店になる。帰宅途中の客を相手に忙しなく出入りする若い店主を見ていて、撮りたいなと思った。別の店で買ったケバブを頬張りながら眺めていると、しばらくして客が途絶えた。さぁチャンスが来た、声をかけてみよう。
「忙しいから無理だよ」と言われた。当然だ。仕事帰りの客が立ち寄る時間帯である。商売の邪魔になるのは間違いない。でも、こちらとしてはその忙しい様子を撮ってみたいのだ。
「邪魔はしないから頼むよ」と何度か粘ると、仕方ないな、勝手に撮れよという表情で首を横に振った。
知らない人に声をかけ、職場を撮らせてもらう。これがこんなに楽しいことだとは思わなかった。意を決して話しかける。説明をする。粘る。了承を得る。そして、撮る。それだけで良かった。仮に撮影ボタンを押し忘れたとしても、その体験だけで十分だったのかもしれない。こんなに充実した気持ちになるのは久しぶりだった。
インドでは、いやスリランカやネパールでもそうだったが、肯定の意を表す時、首を横に二、三度振ったりする。彼らの中にいるとこちらも自然に同じジェスチャーを身につけていく。こうやって次第に打ち解ける術も身についてくる。
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