あなた達には期待していません


時は高校三年生の冬。受験シーズンの真っ只中でした。私はちょっとしたいわゆる進学校と呼ばれるような高校に通っていたので、大学受験というのは、学校の一大イベントでしたし、それは私にとっても同様でした。

それは確か、本当に受験直前の学年集会だったような気がします。先生達が一人ずつ前で激励の言葉をかけていくという時間で、とある国語の先生が前に立ちこう言ったのです。

「あなた達には期待していません」

ここで少年時代の私は衝撃を受けました。確かにちょっと変わった先生だとは思っていたが、そんなことをいうことある?と。そんなことを思っていたら、間を開けた後にその先生はこう続けました。

「あなた達には期待していません。あなた達を信頼しています。これは◯◯先生が受験生によく送っていた言葉です。この言葉をみなさんに贈ります。」

ここで挙げられているという先生というのは同じく国語の先生で、うちの高校でレジェンドと言われているような先生でした。ここで私はもうこの言語センスに圧倒されてしまったというわけでした。

さて、ここでこの言葉についてもう少し深掘りしていきたいと思います。まず、「期待」「信頼」をそれぞれ手元にある辞書で調べてみたいと思います。

【期待】
そうなって欲しいと心の中で思っていること。

三省堂国語辞典 第八版

【信頼】
まちがいないと信じて、たよりにすること。

三省堂国語辞典 第八版

「あなた達には期待していません、信頼しています」という言葉は、単にそうあってほしい、合格してほしい、と願っているというよりも、これまで長い間共に過ごしてきた経験を通して、あなたたちは間違いなく成し遂げる確信があるというメッセージだと言えるでしょう。(国語の先生が発した言葉を言い換えるのはとてもプレッシャーですが・・・私が高校時代どれだけこの先生に文章問題の添削を出して減点されたことか)

この言葉が個人的に忘れられなくて、#忘れられないことば のお題を見たときに真っ先に思いついた言葉でした。

この言葉を聞いてから私は「期待」という言葉を使うときにとても慎重になります。例えば自分が他人に期待をする、自分が期待されている、あるいはその逆、色々あるかと思います。期待されること自体、それはそれでいいことだと思うのですが、期待されることってきっと目的ではないと思うのです。簡単なことではないけれど、私は周りの人のことを信頼できると嬉しいし、信頼されるような人であるといいなと思います。

自分が信頼されるような人になるのってとっても難しく、まだまだ全然だなと思いますが・・・。(それと同時に、実は信頼されることと同様に信頼することも難しいのではないかとも思います。)

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