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電子政府ってなに?:電子政府案内 その1

はじめに
神長広樹と申します。現在エストニア、タリン工科大学電子政府学科修士2年生です。卒業も間近に控えたことからこの2年で学んだことをまとめてみたいと思いこのシリーズを始めました。形式は質問応答形式を採用し、なるべく引用元(多くは英語)をリンクまたは明記しますが、中には個人的な意見等も含まれる(その都度断ります)ことを留意ください。また各専門用語は英語中心となることをご了承ください。不備がある場合ご指摘いただけると幸いです。

電子政府ってなに?

電子政府(e-government)とはOECDの定義によれば「インターネットを始めとする情報通信技術(ICT)を用いることでより良い政府を実現すること」とあります。とりわけ難しい概念ではなく、「お申込みはwebで」、「ご質問はLINEにて」のように企業がやっている当たり前のことを行政や政府も当たり前にやりましょう、ということだと考えます。

e-governanceとはなにが違うの?

e-government(電子政府)の前にe-governance(電子統治)という形態が現れました。これは上記のように「行政サービスの提供にICTを用いることで効率化を図ろう」というものです。最初はwebやメールでの通知から始まりました。ただし一言「行政サービス」と言ってもgovernment-to-citizen(市民向け)、 government-to-business(ビジネス向け)、 government-to-government(省庁間などの政府内部)と様々な種類があります。それら様々な機構と連携を取り、整合性を合わせることでe-governanceだったものがe-governmentと構造改革されていったのです。(参考1)。

よくわからないのですが、具体的にどういうことですか?

例えばweb上にて「住民票をダウンロードする」ことを考えてみましょう。従来の方法ではまず役所に赴き、必要書類に記入した上で、本人確認をし、待機しなければなりません。は物理的な制約のため、は申請と交付の記録を残すため、は住民ごとに情報が異なるのでその選別(も同様)となりすましを防止するため、は役所でのリソース(機械や人の数等)が限られているために発生します。書類に不備があった場合は、書き直し再び待機させられますね。

これをweb上に実現させるとはネット環境さえ整っていればどこからでも、そしていつでもアクセス可能となります。また、人の代わりにサーバが申請を処理するため自動的に記録(ログ)が残り、電子通信の速度制限はあるものの大幅に待機時間を減らすことができます。加えて単純な不備の場合その場でシステムが間違いを指摘してくれます。さらに進化したサービスならば、名前や住所等はほとんど自動で記入され、間違いがないかのチェックで済みます。①②④の解消といいこと尽くめですが、の実現が困難でした。

③ってことは、いわゆるIDとパスワードのこと?それならGとかFとかAとか、このnoteでさえ当たり前にやっているじゃない。

そう。しかし、それらの企業はあくまでも申請者がいて、使いたい人だけにその都度交付し、企業側の負担や法的責任を減らすために利用同意書などに同意してから、パスワードを決めるというのが一般的。

それとは違って国家政府による行政サービスとなると、申請の有無に限らわず国民全員に、等しい権利として、アクセス権となるIDと(仮)パスワードの交付が必要となる。しかしながら、管理しているのは国民の情報だから、アクセス者はその人本人だけではなく、先程の住民票の受取側や行政職員、警察や医療従事者も関わってくる*。もしこのときにずさんなセキュリティ管理や閲覧記録管理で誰が自分の記録にアクセスしてきているのかわからないとなると、政府そのものに不信感が募り、国家そのものが転覆、通貨価値が暴落し、無法地帯となってしまう可能性が0ではない。

*余談だが、筆者は風邪の時に撮ったレントゲン写真を別の健康診断時に別の病院の医師が参照し、再度レントゲンを撮る必要がなくなった。このように、エストニアないしEUではデータは個人に帰するという原則がある。

なんだか怖いね。それなら電子政府なんて目指さないほうがいいんじゃないの?

でもね、そのセキュリティや閲覧記録管理がしっかりしていればその恩恵は計り知れない。先程のように忙しい人にとっては、いつでもどこでも瞬時にアクセスできることは魅力的だし、それまでにいろいろなところに散在していた個人情報がネット上で集約されることにより、例えば欧州のOnce Only Policyのように「同じ情報を政府は国民に要求しない」原則ができれば、省庁が異なるごとに同じ内容の、しかも違う形式の書類にわざわざ記入、送付する必要はなくなる。例えるなら、就職に必要なエントリーシートをある一箇所にだけ送り、企業はそれぞれその一箇所にあるエントリーシートを見れば良いとなる。他にもオープンデータといって、限られた政府・行政のリソースを市民にまで拡張しようという動きもあるが、これはまた次回以降にしよう。

ただ、セキュリティや閲覧記録管理と強調したが、e-govermentではない様態、つまり従来の紙での個人情報保管の場合、なにが起きるかを想像してみてほしい。クリックで済む“同意”にはんこが必要となり時間がかかる。そのはんこでさえ100均で買えるもの。本当に本人だと証明できるのか。ましてや、盗み見なんてことさら容易であることに違いない。店舗にて客のクレジットカードの番号を盗み見て不正利用のニュースだって1度や2度ではない。そういうことが行政で起きていないとは言い切れないだろう。というより実際に起きている。

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つまり、電子政府になれば“はんこ”より信頼できる本人確認が迅速ででき、かつデータの管理が強化されるってこと?

正確に言えば、電子政府というよりそれの基盤となるマイナンバーカード(日本)やeIDカード(エストニア)といった“カード”に付随する公開鍵暗号という技術によるものなんだが、長くなるのでその説明は次回に譲るとして、ひとまずはその認識でいい。

話を帰着させると、電子政府とは「住民票をダウンロードする」を可能とするためにセキュリティや必要技術を確保したり、法的整備(例えばマイナンバー法案や電子署名法)や関連省庁間での連携を強化(いわゆるサイロ(縦割り行政)を打破すること)したものなんだ。あくまで一具体例だけどね。

でもさ、そもそも住民票をダウンロードする必要ってあるの?提出先の機関や企業が、本人の承諾を得て、直接行政に頼んで必要な情報をダウンロードできれば良くない?

まじそれな。

オホン。いいところに気がついたね。それこそ序盤で出てきたgovernment-to-business(ビジネス向け)、 government-to-government(省庁間などの政府内部)と関係してくる。そして、実際に社会インフラとして実装している国が電子政府国家で有名な国の1つエストニアのX-tee(旧名X-Road)と呼ばれるものだ。

つづく。

次回

参考


1, Bose, S., & Rashel, M. R. (2007, December). Implementing e-governance using OECD model (modified) and Gartner model (modified) upon agriculture of Bangladesh. In Computer and information technology, 2007. iccit 2007. 10th international conference on (pp. 1-5). IEEE.

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