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従業員に混ざって並ぶ我らのCEO

色んなありがたいことが重なり、なんとかエストニアで職を得ることができた。修士の2年間、寮費込みの月500ユーロ貧乏生活ともやっとおさらばすることができ、ハレて文化的最低限度の生活が許されそうだ。

まだ働き、否、通い始めて2週間(まだ仕事と言えるようなことは1時間くらいしかしていない)なのだが、その間に社員全体研修がスパで行われた。ここ半期の業績や次の半期~の指針、及び社員による執行部への問答、新規プロダクトの説明や健康管理についてのレクチャーなどが2日間続いた。

1日目が終わると同時にほぼ全員がスパへと足早に駆け込む。スパは流れる温水プールに15mほどのウォータースライダー、25mプール、ジャグジー、そして、各種サウナが7種類ほど。これらをビールを片手に堪能する。

踊り場にバーカウンターがあるのだが、従業員全員が同じ時間帯に立ち寄るため、随時行列が長い。

私が並んでいると、向こうからCEOがテクテクと近づいてくる。Webの紹介用の写真では恐い…凛々しい印象がほとばしるが、顔立ちも体格も性格もよく、気さくで少しお茶目であることが研修初日で判明した。ニコニコとしている。

「いやー、参ったねー。こんなに並んでいるのか!早くビールが飲みたいのに」とCEO。

「そうですねぇ。でもCEOなんですから、鶴の一声で先頭に立てるんじゃないですか?」と言葉が脳を通過せずに出てしまった。

「そんなわけにはいかないよ。そんな権限もないしね。権威は羽衣に宿る。今の私は裸だよ、はっはっは!」

この時私は恥ずかしくなった。おわかりいただけるだろうか。

良いか悪いかは置いておいて、これがこちらのビジネスであり、プライベートであり、対等の精神なのだ。もっと言えば、なぜ社員研修がスパで行われているのかの1つの理由だろう。私の発言は「社長をたてた」と言えば聞こえが良いが、仮に私がCEOならば、傍若無人な振る舞いを平気でしていたことになる。

『おお、そうか』と私も順番を譲ることなくCEOと談笑にふけった。

CEOは、例えるなら、赤髪のシャンクスみたい。

いいところに来られたなと感じた。


コーヒーをご馳走してください! ありがとうございます!