No. 1になってるマジシャンしか成功してません【ランチェスター戦略】

ランチェスター戦略・弱者の差別化戦略

 ランチェスター戦略とは、もともとは戦争に勝つための法則であったが、これを経営に応用したものである。その軍事的勝敗の予測モデルとして、原始的な戦いならば戦力は兵士の数に比例し、近代的な戦いならば兵士の数の二乗に比例する、と言われており、少しでも兵士が多ければ圧倒的に有利、という事情を数学的に証明した理論であるとも言える。経営に応用すれば、社員や資金や顧客が少しでも多い企業が、圧倒的にシェアを取りやすい、ということを意味しているし、一度シェアを取ってしまえば、より強固に1位の地盤を固めることができるとも言える。

 中小企業が大企業に立ち向かうにあたって、同じ戦略で戦っても勝ち目がないことはすぐに理解できることだろう。弱者は、強者とは異なる戦略で、経営を展開する必要がある。ここで言う強者とは業界で1位の企業のことであり、弱者とは2位以下のすべての企業や個人事業主のことである。1位の存在は、2位以下とは比べ物にならないほど多くの資金や資源を投入することができるのだから、資金や資源で劣る弱者が同様の方法で勝つことはあり得ない。
 また、1位と2位の間にどれほどの知名度の差が出るのか、の事例として、山の高さを考えてみよう。日本一高い山が富士山であることは誰でも知っているが、では2番目に高い山がどこなのか、それを知る人は多くはないだろう。これが1位と2位の知名度の差であり、強者と弱者の差である。

 このように、No.1であることが極めて重要なことであり、各社、各人、その方法を考えてやまないことだろうが、大企業ならばともかく、個人事業主がいきなり「日本でNo.1」を目指すのは困難を極めることであるだろう。まずは日本ではなく、県内1位を狙うべきで、それが難しいなら市内1位、町内1位というように、小さな領域で1位を目指すのがランチェスター戦略の中でも、弱者の差別化戦略である。
 これは商品や販売場所を絞り込んで、それだけは誰にも負けないという商品や販売エリアを確保し、一点突破する戦略で、とても狭い領域で、No.1を狙うという方法である。
 これに対して強者が取るべき戦略は、ミート戦略といって、弱者が差別化する領域において、同様の商品を提供し、差別化を薄めようとすることになる。
 というように、弱者である誰かが差別化戦略を始めると、業界の強者はミート戦略で応戦することになるわけだが、その追随を許さないほどのシェアを確保しておくことが弱者としては必要になるだろう。
 
 話をマジック業界に応用すると、たとえば「マジックの腕前では無理でも、マジックショップではNo.1を狙う」であったり「マジックショップでは負けてしまうので、ネットショップ限定でNo.1を狙う」であったり、「ネットショップでも負けるが、ステージ用具専門サイトであればNo.1と取れる」であったり、領域を狭くすればするほど、No.1を取りやすい領域が見つかることだろう。まずは、どんなに小さな領域であったとしても、No.1を確保することが重要である、というのがランチェスター的理論である。ひとつNo.1を取ることが、次への展開のための前提条件なのだ。

 手品家の場合は、マジックバーの店舗数でNo.1を狙う、初心者の来客のシェアでNo.1を狙う、という戦略を取っている。一方で、感動系、不思議系でのマジックでは他店に負けてしまうだろうと推察するので、そこでは勝負をしないようにもしている。勝てない領域は捨てて、勝てる領域で勝負をするというのが、弱者の差別化戦略である。(と、とりっと氏は言うが、15店舗を持つ手品家は、マジックバー業界において圧倒的に強者であると私、廣木は思う)

 また別の例では、「名古屋のイリュージョニスト」といえば田中大貴、というように、DAIKI氏は圧倒的な地域的シェアを取っている。実質的なシェアもそうであるだろうが、ブランディングによって、そういうイメージを形成していると言うこともできるだろう。
 「YouTubeのマジシャン」といえばポンチ、と言えるが、ポンチ氏も2位以下の追随を許さずにいる。
 と、このように、あるひとつの領域でNo.1であると認知されることが重要で、そして、その隣の領域でも1位、その隣でも1位、というふうに、No.1の領域を広げていくというのがランチェスター戦略的なサクセスストーリーである。
 ミュージカルといえば劇団四季、お笑いといえば吉本興業、イケメン事務所といえばジャニーズと、このように認識されることが、業界No.1の証であるだろう。

 No.1はNo.1としか手を組まない、という事情もある。ある業界のNo.1が別の業界に展開しようとしたときに、手を組むとすればその業界のNo.1であり、それ以外には情報も入って来ないのである。ひとつNo.1を持つだけで、情報が集まり、仕事も入りやすくなるものなのである。

 このテキストを見ているのは、おそらく全員が全員、弱者の立場であると思われるが、弱者であっても小さなNo.1を積み重ねていくことが、成功への秘訣である、というのが、ランチェスター戦略から導き出された答えであるだろう。


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