決済の欲求

世田谷区のごみ収集アプリの、「今日は可燃ゴミの日です」という通知から、今日が金曜日であることを知る。早いもので渡航から1ヶ月が過ぎようとしている。

3週間の隔離生活が終了し、やっと番組のスタッフが用意してくれたホテルに移動することができた。
まだ行動範囲は制限されているものの、晴れて自由の身となったわけだ。

3週間、ほぼ一人きりで過ごし、完全防護服のスタッフとしかほぼ接することがなかった。
その為、普通の格好をした人たちと対面で喋ったり、早朝部屋のドアをけたたましくノックされて検温されるということがないというのが、逆に違和感に感じられる。

ようやく社会に解き放たれたというものの、これからもっと大変な生活が待っている。

「ショーシャンクの空に」で、やっと監獄から出れたのに社会に溶け込めず自殺した老人か、「イカゲーム」で一回デスゲームから解放されたのに外の世界の方が地獄であることに気づいて自ら志願してゲームに再び戻る人たちの気持ちが少しわかるくらい、外の世界も大変なのだ。

その証拠として、隔離が終わってからnoteを書く手がびっくりするほど止まってしまった。

前回の日記で、noteを書き続けて本を出版したいというビッグドリームを語っておきながら、いきなり更新が止まるという、あの健気なドリーム語りが綺麗な前フリだったと錯覚させる行動である。

文章は、ノリに乗っている時は1時間あれば1記事余裕で書けるが、全く思いつかない時は少しも筆が進まない。書きたいことはあるが、思考が整理できてない状態だと文章に落とし込めないのだ。無理矢理捻り出したとしても、全然面白くない代物が出来上がる。おもしろ例え大喜利を考える脳の容量が残っていない。

新しい環境と、いよいよ収録が目前に迫った緊張感とで、頭の中が混乱したまま1週間が経ってしまった。
正直、今現在も直面している問題がいくつかある。

その問題のうちの一つが、中国の決済サービスからなぜか拒絶されるという事件である。

中国はとんでもなくキャッシュレス社会だ。
支払いのほとんどがQRコードで行われる。

そのQRコード二代巨頭がWeChat payとAlipayというサービスである。
ミニモニでいうところの辻ちゃんとカゴちゃんぐらいの絶対的地位を築いており、使えない店はほとんどないと言っていいほどの普及率を誇る。

しかし、wechatpayの方は中国人以外で使用するにはハードルが高く、外国人はほとんどAlipayを使用することになる。

もちろん私もAlipayを使用するほかないのだが、なぜか決算界のカゴちゃんは、私に全く心を開いてくれない。
何度登録してもはじかれ、全く利用することができない。

中国でQRコード決済ができないと言うのは、この国で経済活動をするなといわれているようなものである。
現金やクレジットカードの決済ができるお店もあるが、通販やアプリのサービスはQRコード決済しか受け付けていない場合が多い。
中国でスマホを持っていない人はどうやって暮らしているのか甚だ疑問である。「マズローの欲求五段階説」に「決算の欲求」も加えてほしい。

このキャッシュレス社会では、海外旅行用の財布に現地のお金を入れるあのワクワク感と、小銭の区別がつかないので札ばかり使ってしまい、小銭の量がとんでもないことになる絶望感を味わうことはもうほとんどなくなっていくのかと思うと少し切ない。

まず登録に使用したクレジットカードを疑った。
ネットで調べたことによると、私の使っているクレジットカードの銘柄はAlipayと非常に相性が悪いらしい。
(有名なクレジットカードなのでそんなこと思いもよらなかった。)

どうやらカード会社に電話することにより制限を緩めてもらうことが可能で、それによって使用できるようになった人も多いようだ。

しかし、ここは中国である。日本のクレジットカード会社に直接電話するには国際電話をかけなければならない。通常、コレクトコールと言って、ホテルのフロントや公衆電話などから無料で国際電話をかけることができるので、早速フロントの方にお願いしに行った。

ところが、国際電話をかけることはできないと言われてしまった。番組スタッフの方も国際電話をかける方法を探してくれて、まさかのホテルの部屋の電話からできるかもという情報をくれたが、これも失敗に終わった。

絶望の中、最終手段として日本にいる母に代わりに電話してもらうか…と考えていると、ふと私の携帯プランでは国際通話が無料なことを思い出した。

日本にいるときはこんなん使わんやろと思っていた機能がここにきて大活躍を遂げ、電話をかけることに成功した。

これで、私もAlipayユーザーの仲間入りさ。と勝ち誇った表情で事情を説明するが、電話口から聞こえた回答は私の期待に反するものだった。

クレジットカード会社はなんの制限もかけていなかったのだ。

やっと繋がった国際電話。簡単に終わらせるわけにはいかない。どうにかそれ以上の情報を聞き出したい。
「もうこれ以上お前と話すことはない」というような雰囲気を出し始めるオペレーターを引き止め、でも、Alipayに登録できなくて…ネットでは相性が悪いって書いてたんですけど…と、詰問するも意味なし。(彼女が今夜家に帰って、「今日のコールセンターのバイト、めっちゃしつこい客に当たってまじサイアクだったし」と報告する姿が目に浮かんだ。)

さて、どうしよう。私はカード会社に濡れ衣を着せただけだった。

長時間の格闘にもう既にだいぶ疲れていたが、カゴちゃんに機嫌を直してもらわない限り今後の私の経済活動はお先真っ暗だ。もうこんなわがままな女はほっておきたいところだが、そうはいかない。

途方に暮れた私はAlipayのカスタマーサービスに連絡することにした。

Alipayはアプリ内でオペレーターとリアルタイムでチャットすることができる。
公式のサービスの割に「you」を「u」と打ってくるようなフランク具合に一瞬不安になったが、事情を説明するとアカウントにかけられた制限を解除してくれるという。

本人確認で確認事項が発生した場合このようなエラーになるらしい。
連絡した翌日には解除したとの連絡があった。

いや〜やっぱり困った時は、カスタマーサービスですわ!!カスタマーサービス最高!!と小躍りしつつ今度こそ私は勝利を確信した。

しかし、結果は変わらなかった。
制限解除ぐらいではカゴちゃんは振り向いてくれなかった。

その後も何度かカスタマーサービスに問い合わせるも、解決につながる回答は得られなかった。

ちなみにこの時点で、トータル30回以上は登録を試みている。
登録のためには、パスポート情報や住所・クレジットカードの番号など、なかなかたくさんの情報を入力する必要があるので、これが非常にめんどくさい。
最初はいちいち確認しながらやっていたが、もう完全に覚えてしまい、すごい速さで入力することができるというこれからの人生に特に必要ないスキルを手に入れてしまった。ホテルの郵便番号を暗唱できる宿泊者は私ぐらいだろう。
入力のスピードを競う大会があったら浙江省代表くらいは固い。

もう無理だ…これ以上カゴちゃんにアプローチをかけ続けても、絶対に振り向いてくれない。

カゴちゃんとの華のキャッシュレスライフを諦め、現金で細々生活する覚悟を決めかけたその時、解決に向かう糸口は突然現れた。

今まで私がトライしてきたのはツアーパスというAlipay内にある外国人用のミニアプリだったのだが、中国人が使う正規のルートで登録してみるとすんなり登録することができたのだ。

あまりに簡単にできたので拍子抜けした。

Alipayがエラーで使えない時の対処法にまつわるブログはたくさん読んだが、この方法でできるよ!!という記事はほぼなかったのでびっくりした。

このことについてめちゃくちゃ小さく記述している記事をその後2つだけ見つけたが、数年前は中国人用のルートには中国の銀行口座しか使えなかったが、どうやらここ数年で海外のカードを登録できるようになったらしい。(同じようにエラーに困っている方がいればぜひ試してみて欲しい)

試しにずっと飲みたかったカフェラテを恐る恐る購入。難なく購入することができた。
初めてのQRコード決済で手に入れたカフェラテはいつもより美味しく感じた。

いや〜嬉しい。これで経済活動に取り残されずに済む。
私がホテルの郵便番号を暗記したことも無駄でなかったと思える。

ちなみにツアーパスは依然として使えない。原因はいまだに謎だ。
カゴちゃんとは喧嘩したままだけどカゴちゃんの親とは仲良くなったという感じである。

とりあえず、よかった。
しかし、親もいつ裏切ってくるか分からないので油断は禁物だ。
これがぬか喜びにならないように気を引き締めていきたいところである。
また、ツアーパスが使えないとできない機能もあるのでぜひカゴちゃん本人の機嫌がいつか治ってくれることを祈るばかりだ。

みんながものの5分で完了している作業に1週間かかったと考えると非常に悔しいが、Alipayと国際電話にまつわる知識がやたらと増えたのでそれはそれで良かったとしよう。

今回、Alipayの問題にぶち当たった先人たちが書いたブログなどを沢山参考にさせてもらい、非常に助かった。

このような記事が読めるからネットがあって良かったと思う反面、ネットがなかったらアリペイも存在してないからそもそもこんなに困ってないか。というインターネットパラドックスに陥ったとことで今日の記事は終了にしようと思う。

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