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それのどこがおもろいねん!

友人たちから私たち夫婦のことを、「仲いいね」とよく言われますが、私たちは似たもの同士だからなんじゃないかと思ったりするのです。

ある時、「フランス人と関西人は似ている」と、フランソワーズ・モレシャンさんは言いました。
彼女のライフパートナーは関西人です。

そういえば、そんな気がするかな、と。
あ、何度も言って恐縮ですが、関西人に言わせると、私は関西人ではないそうですが、今日はいろんなことをおいておいて、私を関西人だということにしておいてください。

フランス人と関西人の共通点は、いつも面白いことを考えている、というところです。
パリのブラッセリーやカフェで、顔見知りのウェイターやウェイトレスとの会話を標準語に翻訳すると、すっごく味気ないものになってしまいますが、関西弁に翻訳すると、その会話がとってもほっこりしたものになります。

関西人の挨拶で、一番初めに思いつくのって、こんな感じですよね。
「もうかりまっか?」
「ぼちぼちでんな~」
儲かっている人が「儲かってる」と正直に他人に言う人がいるわけもなく、そもそもこんな会話が今でもなされているのかは疑問ですが、対して東京の人の挨拶ってこんな感じでしょうか。

「お元気ですか?」
「おかげさまで」

相手が元気かどうか気にかけ、相手を気遣うとてもいい挨拶なのに、なんだか味気ない。「おかげさま」と言っているにもかかわらず、ですよ。
とはいうものの、「儲かってますか?」と聞かれたら、あなたにそんなこと答える必要はあります?と返してしまいそうですが。

ただ言葉のニュアンスかもしませんが、関西人もフランス人も、もう一歩懐に入った会話をし、それを面白おかしく笑いに変えていくのです。シリアスなことも、笑いに変えてしまえば“ええじゃないか”とでもいうように。

とにかく、フランス人も面白いことを言える人の方が良いとされています。

オヤジギャグというのが日本では存在しますが、フランスでは存在しません。
フランス語が複雑すぎて、似通った音の言葉を重ねるということが不可能に等しい。
なので、フランス人の夫が日本のオヤジギャグを初めて聞いたとき、
「日本人はなんて頭がいい人たちなんだ!」
と感動したそうです。
日本語の音節が少なすぎて、いろんな言葉が被ってるだけなのに。

日本語が分かるようになって、それを理解した夫は、それでもオヤジギャグが言いたくて、言えた時は誰よりもドヤ顔します。
その顔が憎たらしい!
大体、日本語の語彙数が少ない夫のオヤジギャグは、初歩中の初歩のものなので、笑えるわけもないのです。それをドヤ顔で言われても。
そのうえ、「笑って!」という顔をされても、笑えるわけがありません。
仕方がないので、とりあえず言えたことを褒めてあげることにしております。

もう一つ。関西人とフランス人で決定的に違うことがあります。
関西人は自分を落として笑いをとりますが、フランス人は相手を落として笑いを取ります。そうなんです、フランス人は人を馬鹿にして笑いを取ることが多いのです。
それが癪に障る!!

随分前の話ですが、パリのノートルダム寺院の裏を、夫と歩いていた時のことです。
その時もリュウマチがひどく、びっこひきながら歩いていました。
フランス人のあるある、もしかすると欧米では当たり前なのかもしれませんが、道路を歩いて渡るとき、信号などはすべて無視します。車が走っていないときはすべて道路を渡っていいものと認識しております。
二車線ある、その時の私にとって、まぁ渡るには少し時間がかかるような道路を、夫は私が早く歩けないことを忘れていたのか、すたすたと速足で渡り切ってしまいました。
渡り切ったところで、私が歩けないことを思い出したようで、心配そうに振り返ります。
優しんだか、優しくないんだか。
渡る前に気づけよ!と思った時でした。夫が大きな声で叫びます。
「カジモダちゃん、頑張って!」
全部日本語で言ったようですが、何を言っているのか分かりません。
必死に歩いているつもりですが、遅々として進まない歩みを思わず止めて、言いました。道の真ん中ですが、関係ありません。

「はぁ?!なんやねん、ガジモダって」

車が迫ってきています。そんなこともお構いなしに、大きな声で、しかも関西弁で聞いてやりました。
ちなみにそこはおしゃれな街、パリです。ノートルダム寺院があちらに見えます。
車が来ていて危ないので、夫は私を迎えに来てくれ、手を引いて道路を無事渡り終えました。
「カジモダちゃん」
夫は「君は何をしていたんだい」、という顔をして私を見ます。
だから、なんやねん、カジモダって!
夫はにっこり笑いながら、ノートルダム寺院を指さします。

あんたもしかして、ヴィクトル・ユーゴーの小説、『ノートルダムのせむし男』のカジモドのこと言ってる?!
ディズニーのアニメ『ノートルダムの鐘』にもなっているので、ご存じの方も多いでしょう。あのせむし男です。

実は私たち、パリ・オペラ座で、ローラン・プティ振付、衣装はイヴ・サン=ローラン、音楽をモーリス・ジャールという豪華メンバーのバレエを数日前に観たところでした。
カジモド役のダンサーが素晴らしく、私は彼の振りをまねしておりました。(ただ手をブラブラさせてただけですが・・・)
私が彼のまねをして、びっこひいてるとでも思ったのか?
だからあんたは私をあの男の名前で呼んだのか?!

「違うよ!君は女だから、カジモダちゃんなんだよ」

そしてドヤ顔です。その顔、知ってます。オヤジギャグを言えた時の顔です。
なんで今、その顔をするの?

ラテン系の人たちは、男の子と女の子で微妙に名前が違います。
例えば男の子はマリオで女の子はマリア。
イタリア系は男の子が「オ」で終わり、女の子は「ア」で終わることが多い。
私は女なので、「カジモド」ではなく「カジモダ」なのだ、と。
そしてまた「今僕、面白いこと言ったよね」のドヤ顔。

「それのどこがおもろいねん!」

そのあたりにいた人々が全員振り返るような大きな声で突っ込んでやりました。

フランス人特有の笑い。相手を落として笑うやり口。
びっこを引く私をあのせむし男と一緒にしてるなんて、失礼な!、と本来ならばその点を怒るところなのでしょうが、私は面白くないのにドヤ顔をしたことにキレてしまいました。

似たもの同士だからなのか、相性がいいだけなのか・・・。
とにかく、すべてを笑いに変えられるって、やっぱり“ええじゃないか”と思うのです。

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