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ここは天国か?!

私は関西人、と言いたいところですが、関西の人には「そこは関西やない」と言われるほど、兵庫県の西の端の方で育ちました。生まれは大阪ですが、2歳で引っ越したので全く記憶はございません。

関西人ではないかもしれませんが、関西文化圏で育ちました。
関西人と聞いて、みなさんが想像するように、面白いことを言えない人は、ヒエラルキーの最下位のランクに位置付けされます。
私は面白いことが全く言えなかったので、最下位ランクに入れられていました。

でもそこを抜け出す方法が一つだけあります。
一発逆転、下剋上です。
それは、ツッコミができる、ということ。

父は私に笑いの才能がないことをいち早く見抜き、私を最下位ランクから救い出そうと心に決めました。毎日毎日父親が発する、しょうもないギャグに、「なんでやねん!」と突っ込む訓練をしました。

それこそ、「なんでやねん!」ですが。

効果は絶大でした。私は見事最下位から脱出できたのです。
ありがたい。
しかし、いい薬にも必ず副作用があるように、私は常に誰かが発する些細なボケにもツッコミを入れないと気がすまなくなってしまいました。

常に神経を張り巡らせます。
『鬼滅の刃』でいう、『全集中常中』のようなものでしょうか。
しんどいです。はっきり言ってしんどいです。
私にとっては、ということでしょうが。

ヒエラルキーの最下位からは抜け出せましたが、面白いことを言い続け、それに間髪入れずにツッコミを入れるという生活は、私には無理でした。
その状況から脱する方法は、関西文化圏から抜け出すことでした。

だから東京にやってきました。

それまでは、日常生活で標準語というものを話したことはありませんでした。本を音読するときも、関西弁のアクセントです。なんなら英語も、関西弁訛りでした。
なので標準語のイントネーションをマスターするまで、関西弁を話してました。

私が東京にやってきたころ、ちょうどダウンタウンが東京に進出してきました。
『4時ですよ~だ』を毎日観ていた私としては、一緒に東京に来てくれたことで勇気づけられた気分でしたが、副産物もありました。
すでに明石家さんまさんが市民権を得てくれていたので、関西弁を話しても違和感なく迎え入れられましたが、ダウンタウンが東京に進出してきていたために、「関西人は面白い」、ということが刷り込まれたからなのか、面白いことを要求されたのです。

「え、関西人なの?面白いこと、言ってよ」

もし、もし私に笑いの才能があったとしても、この状況で人を笑わせることなどできるはずがありません。

「私、ヒエラルキーの最下位にいた人やから」

そこにいる誰にも理解できない言葉を吐いて、その場をやり過ごしていましたが、東京ではそれを許してくれます。関西文化圏なら、絶対許してもらえないことです。

ここは天国か?!

こんなに面白くない私を許してもらえるなんて、なんて素晴らしい所なのだろう、と思いました。

『人志松本の酒のツマミになる話』の初回放送で、松本人志さんが、
「『オチは?』とか『何が面白いねん』っていうの、もうしんどいねん」
と言っていました。
「20年前に言うて欲しかった」
千鳥の大悟さんはツッコんでいましたが、私は「やっと分かってくれましたよね」とほくそ笑みました。

東京はいちいち面白いことを言う必要はありません。面白いことを言ったとしても、誰もツッコんでくれないので、面白いことを考える必要もないのです。

年を取ってくると、普通に考えることも億劫になってきます。そのうえ面白いことを常に考えなければならないのは、本当にしんどいです。
松本さんがまだ関西に住んでいて、奥様が関西人であれば、きっと状況は変わったはずですが、プライベートでは全くお笑いのことを考えなくなっていったのではないかと思うのです。
面白いことをずっと考えなくて済むのですから、「東京ってラクでしょう~」と言えるなら松本さんに言いたい!

私の場合は面白いことを言うために脳を使ったとしても、最初から笑いのセンスがないので、面白いことは全く言えません。
しんどいから考えたくないとかそういうことではないのですが、面白いことを言えなくても許してくれる東京は、私にとって天国です。

関西人は面白い、とか、〇〇人は何とかだ、とか、おおむね合っていることがありますが、決めつけなくても“ええじゃないか”と思うのです。
私のように落ちこぼれもいるわけですから~。

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