南東行き
遠いところでわれを褒めてる美しいけものらがあり昼寝をさせる
前川佐美雄『植物祭』
灰白の空の下わからなくなって迷い込みたる野の名を知らず
熱のなかさまようような文体の膝の熱さへ耳をあつる夜
ポケットのヘアピンの冷ゆ黒き眸を伏せつつ人が語りはじめて
ぎんなんを産んで疲れてしおれたる黄の色のままゆっくり老いる
秋冬をながながと頬杖に病むべし水とねむりに溺れ存え
うす青き血のほのあかりは信号にかぶさる銀杏の上の夕空
経験のひとつのように踏みしめる黄の葉散らせる心斎橋を
はぐれたるタイヤ、秋の日の太陽、湿潤を混ぜ冬の渚は
猫の眼の黄にうるめるバス停の辺りをはつか潮のにおい来
今日はよく脚を揉みあたたかくする人のあらゆる業調べつつ
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