かばん 2018年12月号より

きくらげのひろがりゆくさま そねみには細くて長い耳と眼がある

遠野瑞香


白檀の香る家からこぼれ出た居間の光は氷のようで

高橋彩


壮年のこころ壊れてゆくことの傲れるものはキャラメルの味

小川ちとせ


もうすこし牛車のひびきを待っていよう雲の峰からなだれる光

井辻朱美


人形を愛でていた祖父は、戦時中、井戸にチェロを隠したそうだ

河野瑤


部屋隅のみえないものと話しゐるひとりあなたは泣いてゐたのか

久保茂樹


水道のにおいの雨がふっている私はだれの子なのでしょうか

木村友


レース糸にて人形の脳を編む暮らしに少し憧れてゐる

村本希理子


頭半分飛ばされた児の亡骸を天使は抱いて砂漠へ消えた

前田宏


夜乾く 端っこからぺろりとめくる 畳んで明日のハンカチとする

どうぶつとぶどう


密やかにかかわりを欲るこの人の語らざるかなしみを想いぬ

中沢直人


わたくしの食道と胃を切り取つてびいどろにかへて呉れはせんかね

飯島章友



不思議な、放っておけないような、後ろめたさを呼び覚ますような歌が気になってしるしをつけた。放っておけない、おきたくないわたしが生まれ、あなたへ近づこうとした途端にあなたは消える。または、放っておいてくれ、と全力で拒否しそう。

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