彼の声がやぶれて、

彼の声がやぶれて、一瞬にして冷たく、遠くなり、近くなった。さわっていた古い実をそのへんに置き、わたしは膝に手をおいて聞く。聞くときはからだのうしろを毛羽立たせる。あなたは感覚の話をつづける。わたしがこのひとの話を聞くのが嫌なのは聞いていると自分の内がわにあるものがむくむくと膨らんできて自分を内から圧迫するからだ。

苦しい。話を聞くどころではなくなってしまう、こんなに耳をすまそうとしているのに。こんなときでさえ、こんなときほど、わたしは自分のことばかりなんだと、嫌になる。この嫌になるのが嫌。

自分の内がわにあるものは赤の他人なのだけれど、どこにも行き場がないのだという。どこにも行き場がないなどということは嘘だということに本人は気付いているのか気付いていないのか、わたしの内部が居心地がいいというわけではけしてなく、膨らむのに都合がいいから今はここにいるということも言っていた。

あなたの邪魔をしているわけじゃない、と彼女は言う。あなたにではなく、彼はわたしに語りかけているんだと言う。だから膨らむのだと。



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