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かばん2018年9月号

メモ帳にガムシロップをこぼしたりぬぐったりしてから水を飲む

斎藤見咲子(そこここに)


「巣に帰る小鳥のようにわれわれは夢から現実へと逃避をするよ」

台風が近づいているよ、木々の葉を動かす雫を君に注ぐよ

青木俊介(夢)


真昼間にただれつづける風景の揺らぎのなかの顔のないひと

たたまれたハトロン紙越し赤い空おぼろに透けて休みの終わり

風野瑞人(夏の痕)


確かあの辺と指さす空き地 砂まじりの風がただ吹いているだけ

織部壮(手の中のハーモニカ)


「もう帰れ」大声出して1時間後にほうじ茶飲み込めなくなる

江口曜子(つめたい)


大輪の菊に溺れるなぜ理解してくれぬのか手が黒くなる

藤本玲未(私語)


なぜ今は震えてしまって舌さえもなめらかに求め得ずにいるのか

野川忍(真摯か否か)


打ち水はひと掬いずつ煌めいて ゆめは、ひとりで、みるもの

でしょう

小野田光(青空)


パラソルの影が背中にしみついた弟は住みたい町がある

走りだすひとり以外の全員が手に手にふといすすきを持って

木村友(オアシスについて)


ふるい火をふところに入れだれもかも移民であった いつかどこかで

佐藤弓生(火二首)


紙垂るる祠に至る 風ひとつなき祠にて紙垂揺れてゐる

中山とりこ(七月)


切れかけの蛍光管を目にしたりタルコフスキーの月命日に

人間のすることなんてしれたもの法人格の人身売買

雨谷忠彦(みはるかす単複同形いわしぐも)



青木俊介さんの「 」を杖とし楯としながら読んだもの。ある秩序、ある経験がここに記された言葉であるかぎりにおいて生存し、読むわたしにひたひたと関与してくるようだと感じたもの。数や事実性や因果、分別、区別、説明の効かない、ある現実が小さな石のように1個。

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