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不思議と石川へ度々。浮かんだ「移住」の文字③福井&小松編

次の石川訪問は2021年夏。世間はコロナが流行っていた頃だった。不要不急とは何かというトピックに上がっていたけど、「当たり前」のことが許されない頃だった。
ワタシはといえば、仕事はリモートになり、同時並行の大学もフルリモートになり、部屋に話し相手はおらず、かなりキテいた。近所の川へ行き入水・・・するも息の根は止まらない。その名も浅川。この頃は川がリアルとのバランスを保つ場だった。

旅友達が海外から帰国して福井にいるというので、ひっそりと福井と小松へ行った。この友達、ナンちゃんは2017年に念願のチベット・ラサへ一緒に行ったバックパッカー4人のうちの一人。現地で当時、ギリギリで彼女も急遽一緒にツアーとして行くことになったのだ。成都から43時間鉄道に乗って。
旅仲間は休暇をとってきた私を除いてみんなそれぞれの旅の途上で、ナンちゃんは世界一周中だったため、西寧でお別れした。
ラサからの帰り、青蔵鉄道の中、自分が福井出身で家が寺だからチベットには親近感があって……と打ち合けてくれた。そして私はその時、彼女が福井に帰ったら私も福井に行くと決めていた。

実は私の爺さんは福井出身なのだ。子供の頃に遊びに行ったことはなかった。この福井トリップはふるさと発見の衝撃的な旅でもあったけど、これについては話が長くなるのでまた別途書こうと思う。

福井ではまず、一人駅前で目をつけていたコーヒー屋へ。男性のカウンター席のコーヒー屋は緊張した。旅だからできること。コロナの話になると「東京の情報にかなり左右されるのだ」という。東京から来たとはいえずに神奈川から、と小声で伝えた。

田舎探しは置いといて、ナンちゃんとは曹洞宗の大本山である「永平寺」や「東尋坊」などの観光名所へ。永平寺では入り口でセミの大合唱にジーーンとしたのを覚えてる。夏の蝉の音の中にある静けさ、というのか、あの鳴き声には何か遠く呼び覚ますものを感じる。特にひぐらし。あれがあるかないかで随分奥行きが違うと気づいたのは西洋圏に住んでからだった。

そして北陸で展開するチェーン店、石川のソウルフード「8番ラーメン」も楽しんだ。この8番ラーメン、元々国道8号線沿いの加賀に1967年にできたという。当時、一日1300杯を売る人気店だったらしい。チェーン店になった今もお味は普通に美味しかった。

福井で会っても世界一周の延長から海外暮らしを経て、コロナで帰国した彼女には鬱屈としたオーラがなく、変わらず溌剌とした陽気さ、健全さが眩しかった。

やはり自分のルーツが関係しているのか、北陸にいるとなぜかスーッとする。いわゆる“整う”感じ。土地にこだわりのある旅人として、(いずれも出かけては楽しいのは前提だけど)関西はワタシには色が濃い。憧れるのは東北だけど、なかなか入っていく機会がない(東北は狭くて深く切ない)。沖縄はほぼ外国、関東圏はトキメキに欠ける。そしてワタシにとって北陸は等身大な気がする。
昔、スピリチュアルの本場イギリスでセッションを受けたことがあるが、ヒーラーのおじさんは「あなたにはお祖父さんがついていて、あなたの人生を楽しませようとしている」と言われたことがある。北陸にいると後ろについている爺さんが喜んでいるのではないか、と思っている。

東尋坊からの夕日

彼女の住むエリアが石川との県境だったこともあり、私は小松に宿泊することにしていた。小松駅近くの商店街の中にある、古民家を改装したゲストハウス。数泊したけれど私の他にゲストはなく、宿主とまともに顔を合わしたのはチェックアウトの時だった気がする。

帰る前にせっかくだから小松を見てみようと思っていた。夕方の便まで半日。小松は本当に便利だ。空港も駅からバスで12分という近距離。飛行機に乗ったら1時間強で羽田に着く。

写真が全く残ってなくて残念だけど、小松はセンスの良い気になる店やスポットが結構あったのだ。
まず「小松マテーレ」という大きな自社工場を持つファブリックメーカーによる、これまでなたら廃棄扱いだった素材を利用したアップサイクル直営店がオープンしたので、そちらへ。
宿主はせっかくだから、と親切に能美市にあるこの店まで車で送ってくれた。

小松マテーレ、数年前に社名が変更されているけれど、国内外の有名ブランドに生地を提供するほど、世界的にもその技術が認められている。ワタシはPCやメガネを拭く布を買ったけれど、これがすごくよかった。店内にはバッグをはじめとしたカラフルなアイテムが並んでいた。

路線バスがないので、タクシーをお願いして次のところへ……と思ったら、先ほどの宿主が戻ってきた!
ワタシが、「小松色々見てみたいんですよね」と言っていたので、「気が変わった」と案内を申し出てくれたのだ。土地に関心を持つ、ということは地元の方にとっては嬉しいものなのだなぁと感じた。そしてありがたく車に乗って、次もオープンしたての「九谷セラミック・ラボラトリー」へ。

このセラボ、設計が隈研吾ということもあって話題になっていたところだ。九谷焼は加賀発の陶磁器。その特徴は色とりどりの絵付け。店内では陶器の販売からワークショップもできるスペースがスタイリッシュに配置されている。九谷焼ブランドの「ひょうたん」はじめ、デザインが可愛い。ワタシは小さなアマビエを購入。

福LUCKYのサイトより

九谷焼なんぞ地元は誰も買わない。体験があるおかげで職人が働く機会にもなっているという。働く場ができたのはいいことだ。

車中、話を聞くと、宿主は利他の精神でもって、リタイア後?私費を投げ打ってあの宿を開業させ、コロナで人が来ない辛い時期でも閉じないようにしていると語ってくれた。言うは易し行うは難し、楽なはずはない。地元愛と志を感じる。
そして「北陸(日本海側エリア)はかつて裏日本と言われていた」とどこかで聞いたことがあったので、失礼を承知でそれについて尋ねてみる。すると、「いや、真ん中だな」という。うーん、面白い!卑下しない、郷土愛を感じる彼の切り返しにワタシはカツーンと打たれた。

その後はご飯を食べに地元で人気の小松うどんのお店に連れて行ってもらった。空港に近くだったか、地理は全くわからないけど、お昼時でローカルの人で溢れかえっていた。このしれっと紛れる感じが旅の愉しみ。

これはまた別の日に食べた小松うどん。

まだもう少し時間があるから、と彼のお知り合いである、八十山さんという女性芸術家の個人美術館へ連れて行ってくれた。八十山さんというこの芸術家がまた強烈であった。竹林の絵画で海外でも活躍されたという。

お茶がてら「小松面白いですね」なんて話してたら「越してきちゃいなさいよ」と面白い方向へ。小松なら住みやすいかも。金沢も近いし少し行けば山もある。福井にも定期的に遊びに行ける。デジタル漬けに辟易した暮らしに、「移住」という二文字が浮かんできた福井・小松トリップであった。


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