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『バラガキ梁山泊』は何故書かれたか

 皆さんこんにちは。坂竹央です。

 実は私、特別区の福祉事務所で6年間勤務していました。

 コロナによる自粛に次ぐ自粛。政府も国民もみんな知恵を絞り、忍耐に忍耐を重ねています。
 そんな中、会社が潰れてしまったら当然に雇用が失われます。雇用が失われれば安定した収入を得ることが難しくなり、家計の見通しが立ちにくくなり家庭内に不和が走ります。

 家庭の平和を一戸でも守るため、政府は身を削って企業に対し「持続化給付金」を支給したり、融資にかかる利子の支払いのモラトリアムを支援したりして何とか会社が存続できるように努力しています。

 しかし、それでもジワリジワリと収入が先細ってくる家庭が増えてきます。そんな時にちらりと脳裏をよぎるのが「生活保護」という言葉です。

・誤解され続ける生活保護制度

 生活保護は日本国において日本人が受給できる、いわゆる最後のセーフティーネットです。

 しかし生活保護業務の現場で働いている公務員の方も含め、多くの方がこの制度について何らかの誤解を抱いています。

 まず生活保護というのは、皆さんのごく身近に存在します。
  多くの方にとって生活保護は「一生縁のないもの」「関わってはいけない社会の闇」、場合によっては「生活保護=犯罪」のような考えを抱く方もいらっしゃると思います。
 確かに私自身も福祉事務所に配属されるまではそれまでの人生でおよそ接したことのない層の人たちだったのは事実です。
 しかし統計上では決して珍しい人々ではありません。

 厚生労働省が令和2年10月時点における生活保護の統計「被保護者調査」を出しており、これに基づくと同年月時点の保護世帯数は約1,636,000世帯だそうです。
 そして同年月時点の総世帯数は国勢調査の結果で判明しており、約5,583万世帯となっております。
 これを母数として生活保護世帯の割合を算出すると約3%ということになります。私が所属していた区でも50世帯に1つ(つまり2%)は保護世帯があったのでほぼ実態と合致しています。
 これは小中学校のクラスで考えたら、2クラスの内1世帯くらいは生活保護の家庭が存在したことになります。皆さんの同級生の中にも今まさに保護を受けている人がいたって少しも不思議ではありません

 そして生活保護を受けているのは決して犯罪歴のある人や保護費を不正受給して私腹を肥やしている人ばかりではありません。
 たしかに保護受給者の内1%くらいは不逞な輩がいるのは事実です。しかし99%は善良な人たちです。
 5割くらいは年金が足りない、または医療費が嵩んでしまいその分だけ保護費で補っている高齢者層2割は心身に障害があって中々働くことができない人たちですし、1割は幼子を抱える母子家庭といった状態で、ほとんどが「やむにやまれぬ」理由で保護を受けている人たちです。
 もっと言えば誰でも保護を受ける可能性があります。明日に大きな事故に遭い半身不随になったり、癌が見つかって医療費が払えず親族からの援助も期待できないことになることだって十分にありえます。

 それでも世間の人たちは「生活保護は自分の人生には関係ない」と思って生きています。
 もちろん自分の人生をはなから諦めて自助努力もせずに保護に頼ろうとするのはいただけません。日本国憲法では幸福追求権が保障されており、自分の努力で豊かさや幸せをつかみ取る権利があります。
 それにも関わらず、生活保護を一回受けてしまったら二度と元の生活には戻れないだとか、お金持ちになれないだとか、保護を受ける人は人間として堕落していると言った極端な二元論が蔓延っているのを感じています。

・誤解を増長する支援団体

 その二元論を増長してしまっているのは支援団体です。

 中には是は是、非は非でしっかりと保護を受けるべき人々に手を差し伸べる素晴らしい団体もいますが、世間一般の皆さんから見て悪目立ちしているのは、やたらと保護受給者を盾にして訴訟を起こしたり、ホームレスがホームレス生活をする権利(言い換えれば公共のスペースを不法占拠することを容認する権利)を唱えて役所に圧力を加える団体だと思います。

 私から言わせれば、彼らこそ保護受給者の未来を奪っています
 彼らは「せっかく保護を受けることができたのだから一生保護を受け続ければいい」という主張を唱えているのと一緒です。

 我が国は職業選択の自由が保障されています。またしっかりと税さえ払えば1億でも1兆でも稼いだって誰にも文句を言われません。
 今、病気の治療などでやむを得ず保護を受けている方も体が元気になって仕事に恵まれれば豊かな生活が送れるはずなのです。その可能性を無視してずっと生活保護のままでいればいい、と聞こえるような主張は本当に生活保護を受けている人たちの人生を考えてあげているのでしょうか。
 私はそうは思いません。

 幸いにして私が福祉事務所で勤務していた時にはそのような「困った支援団体」に頭を悩ませたことはありませんでした。
 しかし日本各地にそのような団体が精力的に活動し、ますます先鋭化していっては現場の公務員たちに心労を与えています。

 一見して「善意」に見える行為が結果として公務員たちにストレスを与え、福祉事務所の仕事は「割に合わない嫌な仕事」というレッテルを貼らせてしまうことになっているのだと思います。

・対立ではなく共助を

 生活保護は悪い制度ではありません

 誰でも不況に陥ったり、病気をしたり、家庭環境に恵まれない時があります。人間ですから、365日赤ん坊から老人になるまで一切の苦労をせず順風満帆な人生などありえません。
 冬が来たら春が来るように、雨が降ったら虹が出るように、禍福を繰り返して成長していくのが人生だと思います。
 その不遇な時にどうしても家族の援助の手が届かないなら、座して死を選ぶのではなく保護を受けて再起を図ればいいのです。

 生活保護を受けることは犯罪でも何でもありません。風邪をひいたときに薬を飲んで体を一時的に休めるように、人生において貧困という名の風邪を引いてしまったならば豊かになるための処方箋を保護を受けている間に投薬すればいいのです。

 お笑い芸人の田村さんは中学生の時にホームレス生活をしましたが、その時の経験が彼を強くし、時に笑いを、時に勇気を与えてくれました。

 ダイソーの矢野社長も起業で失敗し家族を連れて夜逃げ生活をしたこともありました。

 ハリーポッターシリーズを世に出したJ・K・ローリングさんも母子家庭で生活保護を受けながら一日1杯のコーヒーを片手に一大ファンタジー小説を書きあげました。

 ここに書いたのは極端な成功例かもしれませんが、命一つ持って自分の人生を良くしようと挑戦すれば道は開けてきますし、少なくともそういう人を世間や役所の職員だって献身的に応援します

 生活保護を受けるような奴が悪い、生活保護をもっと充実させない政府が悪い、というような互いにいがみ合うのではなく、自分の人生を豊かにするために協力しあう世の中にするために、私は「バラガキ梁山泊」を書くことを決めました。

 バラガキシリーズは福祉事務所での経験を通して、人間の生き様や生々しい感情、そして逆境を乗り切る知恵と勇気をどのように養ったかを伝える記事です。

 今、逆境にいて止まない雨に苦しんでいる人たちにとって何かしらの勇気を与えることができたら、私の6年間の苦労も報われると思います。

 いいじゃないか三流で。熱い三流なら上等よ!

 ”ダメ”な生き方でも良いから貴方らしく生きましょう。

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令和4年1月24日
坂竹 央


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