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陸自小銃発射事件の衝撃

先日、岐阜市内にある自衛隊射場でおよそ前代未聞の事件が発生した。
 教育中の新隊員が、実弾射撃(たぶん小火器射撃検定)の最中に、指導役の自衛官に向けて発砲し、2名死亡、1名重症という凄惨なものである。

わたしは元自衛官として、その後も予備自衛官をやったりして、小銃の実弾射撃を十数回は経験してきたと思う。今回の事件の舞台となったような屋内射場だけでなく、屋外の射場でも撃ったことがある。
 小銃だけでなく、手榴弾の実弾も投げたことがあるし、機関銃やLAM(対戦車擲弾)も撃ったことがあった。まさかこんな事件が起きるなんて、想像すらしていなかった。

わたしの採用区分は、事件の犯人と同じで任期制自衛官だった。当時は自衛官候補生などという名称ではなく、一般2士とか2等陸海空士採用試験とよばれていた。
 新隊員前期教育は第117教育大隊(武山)で受けた。そのときの教育中隊長要望事項というものがあり、それがたしか「楽しくやろう」だった。
 こっちは、これから訓練ではどれだけしごかれるものかと戦々恐々としながら横須賀の地を踏んだのに、一方部隊の雰囲気はまったく落ち着いたもので、どこか拍子抜けしたのを憶えている。
 このように、陸上自衛隊というところは少々格式張ってはいるものの、どこか乗りが軽いようなところがあるのだ。
 前期教育修了後は、後期教育を通信科の部隊でうけ、陸士として部隊に勤務した。そうして2任期目に入った頃に、幹部候補生としてさらに教育をうけ、そして陸尉に昇任した。しかし、幹部になったのは必ずしも自分の意思ではなく、結局依願退職した。

事件発生日、わたしは休みのためネットを見ていたので、Twitterのトレンドからリアルタイムに状況を把握していた。
 一時はこの事件を、キューブリックの有名な映画「フルメタル・ジャケット」のなかの、新兵が練兵係軍曹を射殺する事件になぞらえる向きもあった。
 アメリカ海兵隊の新兵教育は非常に厳しく、平均して2割も脱落するときいたことがある。

一方、陸自はそこまでじゃない。教育中にやめるのは、せいぜい1割もいないんじゃなかろうか。
 ただし武器の管理には厳しく、また弾薬をべつの場所に保管しているので、こうした事件を滅多に起こせるものではない。(つまり、万が一駐屯地を襲撃されても、弾薬が近くにないために反撃することもできない、という別の問題もある…)
 事件は、射撃検定の当日に、しかも弾薬が交付されてそれを装填したそのタイミングで、犯人の男は同僚に向けて銃を発射したことになる。
 当初は、精神疾患のある隊員が乱射事件を起こしたのかなと思っていたのが、じつは明確な殺意のもとに犯行が行われたことも分かってきた。恐るべき大胆さと冷静さのもとで、凶行は行われたようだ。

射場では、射手のほかにも、射撃係とか安全係とか役割があてがわれているけど、とくに安全係は今回の凶行を未然に防ぐことができなかった。いったいどうすれば事件を防げたのだろうか。
 また、事件の現場にいた隊員たち(とくに新隊員)は、心に深い傷を負ったことと思うので、事件後の心のケアをしっかりと行ってほしいと思う。

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