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MUSE杯を終えて

Muse杯 受賞作品
色彩の海に還る/はる

僕の楽曲「彗星の尾っぽにつかまって」の性質上、ロマンチックな作風が多い中、とてもシンプルな人間物語でした。”行って帰る”オーソドックスなストーリーに僕が何を感じたのか。それは人間そのものだったのだと思います。この”色彩の海に還る”という短い小説を、僕は信用できました。そして、この信用できる作品を書いたクリエイターを信用できたのだと思います。だから僕は真っ直ぐに物語に入っていけました。難しい言い回しや思わせぶりな比喩もない。しかし、そこにははるさんの濃密な人生が書かれている。ノンフィクションということではない、はるさんそのもの。人生と向き合わなければ書けない、痛みから生還した優しい人でないと書けない、”痛み”という創作の根元をもう一度認識させてくれた作品です。もちろんロマンチックも良いし、そういう素晴らしい応募作品がたくさんありました。しかし、”色彩の海に還る”には、僕が今出会うべくして出会うものがありました。
僕は20年間ずっと歌詞を書いてきました。ポップスにおいて、メッセージなど言い尽くされています。おそらくソクラテスやプラトンの時代から、ポップス(みたいなもの)の内容は変わっていない。ではどうやって自分らしい、唯一無二な作品を生み出すのか。それは、”人間を描けるかどうか”ではないでしょうか。日本語には限りがあっても、人間はみんな違う。

「ただいま」
「おかえり」

”色彩の海に還る”の最後、藍と星司のセリフです。

この”誰でも使う言葉”が、とても特別な言葉に変わる。小説を読み終えた後に、ただの「ただいま」、今まで使ってきた「おかえり」とは違う匂い、奥行きを感じられる。もしかしたらもっとふさわしい言葉があるのではと思うぐらい、言葉の持つニュアンスが変わる。比喩や逆説、倒置を使って技巧的に面白く、新しくすることはできても、人間を描く時には、書き手の人間力が問われる。同じ語彙力があっても、僕には”色彩の海に還る”は書けません。

ソングライターとして20年かけて辿り着いた場所に、”色彩の海に還る”が置いてあった。

そんなニュアンス。19年目の場所にはこの作品は置かれていなかったと思います。つまり、今だからこそこの作品に惹かれたのだと思います。とても光栄です。MUSEが導く同じ場所で、書き手と読み手が出会うとは、なんと感動的なことでしょうか。

プリマドンナ賞 受賞作品
いつか朽ち果てる世界で あなただけは/マリナ油森

天才ですね。世界がねじ曲がったような、ちょっと怖いような、それぐらい、経験したことのない気持ちにさせてくれました。マリナさんの作品だけでなく、時間や空間の概念を壊されるような、そういう経験を多くの応募作品からさせてもらいました。

フェアリー賞という、小説や詩ではない作品に送られる賞も。自分の曲を元にして、写真や映像、ダンス、そしてカクテルだとかフェルトの造形が出来上がる。なんて素敵な”コンテスト”でしょうか。コンテストって、優劣を決めるものだと思っていました。もちろんそうなんだろうけど、MUSE杯は、受賞した人にも、そうでない人にも未来を見せてくれる、まさに創作の神様が開催したコンテストだと感じています。実際、僕も触発されて、自分のコンテストに応募したし。

とりあえずMUSE杯にこの詩を選ぶことはやめておきました(当たり前や)。

彗星の尾っぽにつかまって 公認MV/椎名トキ

こんな素敵なミュージックビデオも、このコンテストから生まれました。ほっこりやねぇ。優しい気持ちになる。公認MVとして、僕のYouTubeチャンネルでもアップさせてもらったんですよ。

運営には多くの方が関わってくださいました。なんてピュアなエネルギーでしょうか。皆様、ありがとうございました。こういう場所での人との出会いってあるんですね。今後ともよろしくお願いいたします。

そして、このコンテストを企画をして声をかけてくださった嶋津亮太くん。疎遠だった僕のMUSEとの仲を、もう一度取り成してくれました。そういう気持ちになった方は多いのではないでしょうか。

改めて、MUSE杯に乾杯!

♪♪♪

Night Songs Muse杯

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