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【小説】群青色の夏1

 嫉妬していた。僕は、明人に。それはごく自然なことだと思うし、だから僕はそれが悪いことだなんてこれっぽっちも思わない。けれど、もし明人に嫉妬せずにいられたら、僕はどんなにか楽だっただろうかと、夢想することはある。それはいけないことだろうか――

 僕、森永由人と明人は一卵性双生児だ。僕の方が少し早く生まれたので兄で、明人は弟だ。僕たち兄弟は傍目に見れば仲の良い双子だと思う。同じ学校に通い、同じ制服を着、同じ部活で活動している。

 クラスだけは、別々だけれどそれ以外はほとんど同じ。僕らは中学で吹奏楽部に入っている。僕らの通う中学は、吹奏楽の名門校だ。中学での名門といっても、私立の中学ではなく、公立校だ。僕らは、私立中学の受験に二人して失敗して、最寄りの公立校に通っている。たまたまそこが、外部から講師を招き長年コンクールで上位を守り続けている名門校だった。それだけの話だ。

 そして僕らはそこで、クラリネットを二人とも任されていた。パートリーダーが僕で、副パートリーダーが明人。部長が僕で、副部長が明人と芳香。僕らは三年間この部活にかけてきた。そしてそれも、この夏で終わりだ。

 もうすぐ僕らの最後の夏のコンクールがはじまる。

 僕らの夏は過酷だ。暑いクーラーのない音楽室や、普段は授業で使われる教室を借りて行うパート練習。全員が音楽室に集まってする合奏練習。そのどれもが、夏の暑さと共にあり、その暑さは集中力を削いでいく。

 外部講師の小林先生は柔和な顔立ちだが、音楽に関してはとても厳しい。パート練習にふらっと顔を出しては、厳しい指摘をし、パートリーダーたちは甘いと叱られる。僕は完璧主義過ぎて進みが遅いとよく怒られたが、甘いと叱られたことは一度もなかった。

 クラリネットパートのファーストパートでコンサートマスターの席に座るのは、僕ではなく明人だった。僕は明人の横でファーストパートの楽譜を吹く。それが悔しかった。僕はコンサートマスターになりたかったのだ。

 けれど、小林先生が選んだのは明人だった。僕ではなく明人。これに嫉妬することはいけない事だろうか。僕は、その場所を目指して吹奏楽部で頑張ってきたのに、僕はその場所に座れなかった。悔しくて、悔しくて、発表があった日は一人で悔し泣きをした。
             

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