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【小説】群青色の夏 3

「由人、パーリー会議始まる」

僕にそう声をかけたのは芳香だった。パーリー会議とはパートリーダー会議の略である。

「もうそんな時間か、すぐ行く」
「明人にも声かけといてね。いつも遅刻されると困るの」
「わかったよ。必ず声かけてから行く」
 
僕はクラリネットの教室で窓に向かって練習をしている明人に声をかけた。

「おーい、明人パーリー会議始まるぞ!急がないと芳香にどやされる。急げ!」
 

そう言うと、明人は振り向き、急いでスワブをクラリネットに通すと、ちかくの机にクラリネットを丁寧に置いた。
 

「完全に忘れてたわ。ありがとう由人」
「芳香に頼まれたんだ。走るぞ明人」

僕たちはパーリー会議がある第二音楽室まで、全速力で走った。その間、後輩達の練習する音や、運動部の練習する声が流れていった。嗚呼夏が始まる。僕はそう思った。

「遅い!部長と副部長が遅刻するなんてあり得ない」

芳香が怒鳴った。それは当然のことで、僕たちはごめんごめんと言いながら、他のパートリーダーたちより一段高くなったステージに上がった。

「遅くなってごめん。では、早速だけれどまずは、今後のスケジュールについて確認していこうと思う」
 

僕はそう切り出して、会議を仕切っていく。隣で板書をしているのは芳香で、その横で机を出しノートに議事録をとっているのは明人だ。パートリーダーたちは様々な意見をぶつけてくる。

 

今年は五月だというのにまだ一年生のパートが決まっておらず、コンクールメンバーもしっかりとは決まっていない。何故ならパーカッションパートで今年は人数が足りず、一年生もコンクールに出ることになっているからだ。

今月の半ばにはパートが決まり、コンクールメンバーも確定すると小林先生は言っていた。と伝えると、パートリーダーたちに安堵の表情が浮かぶ。パーカッションのパートリーダーの万里子を除いて。

「今月の半ばから練習して間に合うの?パーカッションのメンバーに入る子たちは?先に決めてもらうことは出来ないのかな?」

「パート決めの時にオーディションもするって言われてたから、それは難しいとは思う。けれど、小林先生がここまで粘ってても大丈夫って思ってるんだったらきっと大丈夫だよ。信じよう」

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