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【小説】群青色の夏 2

 普通、クラリネットパートのパートリーダーはコンサートマスターがなるものだ。他の学校では違うかもしれないが、この学校では慣例的にそうなっていた。けれど、小林先生は「明人ではまとまらないだろうから」とパートリーダーには僕を指名した。

 部長に僕がなったのも、「由人のほうが多分向いている」と小林先生が呟いたからだった。部長は選挙で行われるが、僕と明人はほぼ横並びの票数だったが、小林先生の呟き一つで、最終投票で僕が部長になることになった。

 小林先生は何を考えているのか、よくわからない時がある。大人の小林先生と、中学三年の僕じゃ人生経験も違うのだから当然と言えば当然だけれど、慣例を破ってまで僕をパートリーダーにしたのは何故だったんだろう。きっと、明人でも上手くこなせたと思う。部長だってそうだ、僕は明人が器用にこなすだろうことが、はっきりと想像できる。

 けれど、先生は僕を選んでくれた。それは、それで嬉しかった。選ばれるってなんて嬉しんだろうってそう思った。けれど現実は、副部長より部長の方が叱られるし、パートリーダーになった方が自分の練習時間は削られる。

 もしかしたら、先生は明人に練習以外のことをさせたくなかったのかもしれない。今年のコンクールで勝つために。今年のコンクール、自由曲のソロはクラリネットだった。当然それを吹くのは明人だ。そんな明人に、余計な負担をかけてソロで失敗してほしくない。そんな先生の考えがあったのかもしれない。

 明人は意外と繊細だから、そんな繊細な明人を気遣った先生の優しさのために、僕は利用されたのかもしれない。選ばれたという喜びを感じてしまう、単純な僕の感情を――

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