新春俳句バトルの句の鑑賞文を書いてみました

広瀬康と申します。趣味で俳句をやってます。

新春俳句バトルの句の中から個人的にいいなと思った句をピックアップして、鑑賞文を書きました。

見当違いの読みをしているかもしれません。

句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。

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いけ好かぬあいつの胸に赤い羽根   朝月沙都子

いけ好かぬという感情から始まるこの一句。作中主体もあいつも中高生ぐらいの子だろうと読みました。季語は「赤い羽根」ですから季節は秋。四月に出会ったあいつへの評価は「いけ好かぬ」で固まっているわけです。そんなとき、あいつの胸を見ると、「赤い羽根」がさしてある。あんなにいけ好かないあいつに募金をするような一面があったのかという気づき。思春期の頃って自分の見ている世界がすべてなので、相手にもいろんな面があるということになかなか気づけなかったりします(自分はそうでした)。あいつのことを少し見直すとともに、やっぱりいけ好かないという感情も湧いてくる。句のあいつと作中主体との関係性、人間の多面性、自分の学生時代のことなど、色々と考えることができて、すごく読み応えのある句でした。


卵黄と偽善ひとさじ卵酒   朝月沙都子

風邪のときなどに飲む卵酒。偽善という概念をまるで調味料のように扱っている点が面白いです。出来上がるのは明るいだけの卵酒ではなく、どこか影を帯びた卵酒かもしれない。ひとさじという分量も憎いです。


紫陽花や変はらぬ服を昨日今日   三島ちとせ

咲いているうちに花の色が変わりゆく紫陽花。一方で、自分は昨日も今日も同じ服を着て過ごす。昨日と同じ服を着て同じような日常を過ごしていても、いつしか変わってしまう人。とりあえずは同じ服でいいやという心地よいアンニュイがこの句にはあると思います。


息を吐くやうに雪踏む獣かな   三島ちとせ

本来であれば口から吐く息を、雪の上を踏み歩いてゆく獣の足に感じる。この感性がすごいです。最後の切れ字「かな」の詠嘆で、雪上の獣の一歩一歩をしみじみと感じることができます。


ごきぶりのごきげんなさんぽを壊す  FBI

ごきぶり、ごきげん。「ごき」という音を二回入れることで本当にごきげんな感じを出しておいて、最後の三音「壊す」で平和な世界をひっくり返す諧謔味。ユーモアと理不尽な暴力が同居している一句。


江戸切子とろり冷えたる芋焼酎   むゆき

グラスなどとせず、江戸切子という具体名を出したことで涼し気なガラス細工が見えてきます。舌で感覚したとろりという感触は芋焼酎だからこそなのでしょうね。(広瀬は下戸なのでお酒のことはよくわかりませんが)


推しドルにあだ名で呼ばれ風光る   鳥田政宗

握手会の帰りでしょうか。自分が推している(特に応援している)アイドルにあだ名で呼んでもらえたことに内心歓喜しながらの帰途。目に映る世界は光に満ち溢れ、祝福に満ちていることでしょう。風光るも納得。


ライダーの列なす蕎麦屋冬桜   Q&A

ツーリングの途中、昼休憩に蕎麦でも食べようとバイクを停めて、人気蕎麦屋の行列に加わるライダーたち。見上げると咲いているのは冬の桜。一枚の絵ハガキのように鮮やかな景が見えて素敵です。


裸木のかなり鍛へてある恥骨   土井探花

裸木という季語は葉を落としつくした木のこと。裸木という言葉自体すでに擬人化されているのですが、そこからさらに擬人化の解像度を上げて、この裸木には恥骨がある。それもそんじゃそこらの恥骨ではなく、「かなり鍛へてある」恥骨だと作者は言っているのです。ここまで擬人化がはまっている句はなかなか見ません。すごいです。


北風やピアノ壊れて白馬の香   土井探花

もう人が住んでいない、朽ちかけている家のピアノを想像しました。強い北風に吹かれ、壊れたピアノからは白馬の香りが。その詩的さ。かつては十指が鍵盤の上を、それこそ白馬が草原を駆けるように弾いていたのでしょう。


芽吹くだろうどうしたって順番に   青木健一

世の中に理屈は色々とあふれているけど、木々は芽吹くだろう。「どうしたって順番に」という言い方が理屈を超えて真理に到達していて素敵です。


100メートル先の工事や冬銀河   春名柊夜

100メートル先なんて冬銀河との対比でみれば目の前のことです。ちっぽけな人類は100メートル先の工事を繰り返して、今の文明を築きあげたのかもしれません。


巻貝を拾ふ波打ち際うらら   瑞香

とてもきれいな光景を描いた一句。春の光輝く波打ち際で、腰をかがめ、片手で髪を押さえながら巻貝を拾います。気持ちを一切書かずに描写に徹することによってのみ表現できる美しさだと思います。


蓮の葉やとろりてらりと玉の水   瑞香

この句の眼目はなんといっても「とろりてらり」というオリジナリティあふれるオノマトペでしょう。玉のような水滴の動きが見えてくるようです。


大切なことから忘れ花曇   坂西涼太

覚えておかないといけない大切なことから忘れてしまう。そんな人間の記憶の不完全さを示すかのように桜の花が咲くころの空は薄くぼんやりと曇っています。モヤモヤを抱えて生きていくしかないのです。


ソロパートに入る呼吸や水の秋   こっぺぱん

呼吸とあるから吹奏楽の管楽器を想像しました。呼吸から読み取れるのは緊張か、自信か、両方か。水の美しい秋は、ソリストの音のすべてを流麗に受け入れることでしょう。


塾は窓拭くところからクリスマス   チーム 魚ひろ

掃除も一生懸命できないと学力もあがらないという考えの塾でしょうか。クリスマスも勉強する子どもたち。受験戦争を勝ち抜くためには仕方がないのです。きっとサンタさんが素敵なプレゼントを持ってきてくれるはず。


春の宵濃く強く引くアイライン   ガイトさん

「濃く」「強く」「引く」の「く」の三音、畳みかけがすごいです。濃く強く引いたアイラインには春の宵の匂いや色も含まれているのだと思います。


樹氷林ホテルで呷るウヰスキー   藤 雪陽

樹氷林、ホテル、ウヰスキーとおしゃれな言葉が並ぶなかに動詞の「呷(あお)る」。ヤケ酒でしょうか。アルコール濃度の高いウイスキーがのどを焼く一方で樹氷林は冷たく研ぎ澄まされています。


しやぼんだま割れて亡びのはじまりぬ   水無月水有

しゃぼんだまが割れる。そんな些細なことがトリガーとなって「亡び」が始まる。急には滅ばないと我々が信じ切っているこの世界は、もしかしたらしゃぼん玉のように一瞬で儚いものなのかも。


遠火事や改造ROMのアルセウス   蹴衣

アルセウスはポケモンの名前。自分は子供の頃、タイヤモンド・パールのパールの方をプレイしていたのですが、アルセウスは入手できませんでした。ポケモンの名前を俳句に入れてる句は初めて見たかもしれません。斬新!


雨月のシーツに鮫肌の二人   蹴衣

触覚で味わう一句。満月が雨雲で隠れて見えない夜、二人は互いの粗いざらざらとした鮫肌を感じながら寄り添うようにして眠ります。雨月という季語と鮫肌という言葉の距離感が絶妙です。


失恋のための告白冬の虹   龍輪薫(MISA)

早くフラれて楽になりたい。そんな気持ちからの告白。フラれても、空には冬の虹が架かっています。フラれることで進める未来もあるはずです。失恋の悲しさだけでなく、冷気の中で感じる清々しさや希望も感じられる一句。


冬の星忍者も愛を伝え合う   Wassy

感情を押し殺して任務を遂行する忍者たち。そんな忍者たちが愛を伝え合うというのが面白い。あるいは、死の危険と隣り合わせだからこそ、愛は伝えられるときに伝えておくのかも。


嚔して我クラインの壺となる   ギル

クラインの壺という単語、恥ずかしながらこの句で知りました。メビウスの輪を円筒で作ったもの(?)みたいです(間違ってるかもしれません。興味ある方は調べてください)。くしゃみしたはずみで、一瞬、自分の顔がクラインの壺になったような気分になる。摩訶不思議で面白いです。


初空は女性名詞に決めました   ギル

フランス語は、名詞の一つ一つに性別があるそうです。愛(amour)は男性名詞、月(lune)は 女性名詞、などなど。作者は元日の朝の空を見て、初空を女性名詞だと決めました。明るさ、柔らかさ、静謐さなどからそう決めたのかもしれません。下五の「決めました」という率直な言い方がさわやかでいいです。

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以上となります。

お読みいただき、ありがとうございました。



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