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坂本菜の花「菜の花の沖縄日記」書評

◆書名 菜の花の沖縄日記
◆著者 坂本 菜の花
◆販売 図書出版ヘウレーカ 1600円+税

 「普天間基地の危険除去は辺野古移設が唯一の解決策」―。
こんなにも貧しい言葉しかもたない政権が、この国の政治を担う現実が続いている。沖縄がおかれている状況に心を寄せるとはどういうことか。
本書は、多感な高校生が感じた思いを通じて、そのことを問いかける「日記」だ。

 舞台は沖縄県那覇市のフリースクール「珊瑚舎スコーレ」。
 「日記」が書かれた2015年から2018年は、翁長雄志・前沖縄県知事が、辺野古への新基地建設を食い止めるために、全力を尽くしていた頃と重なっている。
 著者である菜の花さんの出身地は石川県珠洲市。
 小さいころから人間関係に悩み、修学旅行で訪れた体験をきっかけに、高校生活を沖縄で過ごすことを決めたのだという。

 出会う人々、体験する事、触れ合うもの。綴られる「日記」から、そのすべてに新鮮な刺激を受けている様子が瑞々しい感性によって記される。
 それは10代特有の輝きに満ちていて、まぶしいかぎりだ。
 沖縄での生活のなかで沖縄戦、基地問題、人間の権利といったテーマが、机上の問題でなく、肌感覚として理解されていくことに、著者の感性の高さを感じる。

 今まで知らなかったことを「分かる」ことには、感性とともに、一定の知識が必要だ。戦後78年が経ち、かつての戦争体験や基地問題を「自分ごと」として、県外の若者たちがつかんでいくことのヒントを、沖縄への想像力と同時に、確かな知識が必要であることを、著者の学びの過程を通じて得ることができる。

 私と「日記」の出会いは実は映画だった。
 石川県の地元紙で連載された「日記」は、テレビ番組になり、それを基にドキュメンタリー映画となった。菜の花さんの思いはスクリーンを通じて、より深く知ることができると思う。

 菜の花さんという名前。ペンネームではなく本名。「何度踏まれても起き上がる」との願いを込め、付けられたそうだ。
 菜の花さんは、これからたくさんの理不尽やつらい現実にぶつかるだろうし、現に今もぶつかっているかもしれない。しかし、沖縄のたたかいが「不屈」であったように、菜の花さんの人生も「何度でも起き上がる」しなやかでたくましい人生であってほしい、そう願わずにはいられない。
 そして、「辺野古が唯一」政権と対峙する沖縄のたたかいも「何度でも立ち上がる」であろうとの思いをさらに強くする。 
 というか、そう願わざるをえない。

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