見出し画像

北朝鮮ウォッチング

 平成19年から24年にかけて、中国東北部によく行った。
 目的は国境ウォッチング。ここには中国、北朝鮮、ロシアの国境がある。陸地での国境線を持たない日本国の人民として、日本にないものに興味を覚える。
 その中で一番よく行ったのは、中国の丹東と北朝鮮の新義州の国境。当時の主な行き方としては、中国の大連に行き、そこから高速バスで国境に向かうというルート。残念ながらソウルとかからの直行ルートはない。
 バスターミナルの切符売り場で、行先と発車時刻と購入枚数を書いたメモを見せながら代金を渡すと、会話できなくても切符は購入できる。売り場の係員(大抵女性)の態度が少々よろしくないが、気にしないことだ。
 丹東までは約4時間。景色は単調。途中トイレ休憩が1回ある。バスの雰囲気は日本の高速バスと変わりない。ただし、携帯電話のマナーという、文明人が持ち合わせている感覚をあちらの方は持っていないらしく、変な着信音が鳴るたびに「ウェイ」とか「アァー」といったでかい中国語が車内に響き、不快な思いをするが、これも気にしないことである。隣でそれをやられて、聞こえよがしに舌打ちしても無駄である。
 高速道路は田舎に入ると、車の走行量がぐっと減る。居眠り運転をしてしまいそうだ。日本なら間違いなくレンホウ議員に事業仕分けされていただろう。
 一度、大連のバスターミナルで発車を待っていたら、前の席に若い女性と白人が座ってきた。英語で会話していたので、優秀な現地の大学生と留学生かと思っていたら、その女性がこちらに振り向いて中国語で何か話しかけてきた。英語ができる方なので「Sorry I’m Japanese」と言ったら、「Oh me too.私もです」と言われた。なんだ、日本人かと驚いた。
 丹東のバスターミナルから1キロくらいのところに大きな川があり、
その対岸が北朝鮮。ガイドブックなどで頭ではわかってはいたが、町中に国境があるのはなかなかすごい景色だ。だいたい木曽川ぐらいの川幅で、道路用と鉄道用を兼ねた橋が1本かかっている。川岸にはお土産の店や屋台があり、お金やキム親子バッジ、切手、たばこなど、マニアが喜びそうなガラクタ、もとい商品を売っている。なぜか南朝鮮関係の品物も扱っている。こんなもの誰が買うのか。当時の小泉首相が電撃的に訪朝したことを記念した切手も売っていた。
 またここには遊覧船があり、対岸にかなり近づいて、北朝鮮の様子を見ることができる。別名人間サファリパーク。中国人は、対岸の貧しい様子を見て、貧乏さを馬鹿にし、そしてこっち側の住民でよかったと満足するらしい。数十年前まではどっちもどっちだったのに、とても同じ共産党支配の国同士、朝鮮戦争を共に戦った、血で固めた同盟関係とは思えない。趣味の悪い観光である。
 その気になれば、川にドボンして泳ぎつくこともさほど困難なことではない。過去に日本人女性がチャレンジしたそうだが、追い返されてなかったことにされたらしい。
 遊覧船に乗っていたら、中国側と思われる巡視船とすれ違ったので、甲板上にいる我々外国人たちが手を振ったら、巡視船のスピーカーで怒られた。その後、遊覧船の船長らしき人物が甲板に上がってきて、ものすごい勢いでどじかられた。誰もが中国語はわからないという感じで聞き流した。あとで船長は国境警備当局に怒られるのかもしれない。
 向こう岸は主に作業場、煙突が見えるが、ここ数年煙は出ていないらしい。同じくぼろそうな観覧車もあるが、やはり稼動していないようだ。仮に稼動していても乗りたくない。
 作業している人たちは、基本的には中国側には無関心。たとえ対岸が繁栄していても革命精神がぶれない、思想の良い人たちばかりのようだ。一度だけ何か仕事をしながら、顔はこちら側に向けずに手だけ振ってくれた人がいた。こちらは「アンニョンハセヨ!」の大合唱。きっと彼はいい人なのだろう。
 時間にして約30分、十分に国境の雰囲気を堪能できる。
 北朝鮮が見える所としては板門店が有名だが、ここには一般の北朝鮮人民はいない。そこ以外に「統一展望台」という、北朝鮮をみることができる所がある。しかしながらここからは、高性能双眼鏡で人がとぼとぼ歩いているのが見える程度。しかもそこから見える農村は、いわゆる宣伝村で、人は実際には住んでいないらしい。もっとも別にそこに住みたくなるような景色ではないので、宣伝にもなっていない。
 今回お話した丹東という中朝国境という所は、北朝鮮の様子がよく見えるので、北朝鮮に関心のあるかたはぜひ一度行っていただきたい。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?