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2004年ウラジオストク旅行(船の中編)

 海外に行く手段として、大抵は飛行機を利用する。ところが、船に乗っていくと、いろんなタイプの旅行をする人に会う。自分が船の中で会った中で一番変わった例として、中古車を日本で買って富山港からウラジオストク行きのフェリーに積み込み、一人でユーラシア大陸をシベリア経由で車で横断して、ユーラシア大陸最西端のポルトガルのロカ岬で行われる知人の結婚式にこれから行くという人がいた。

 この人、たぶんソウルの日本人宿でも会っていると思う。ちなみに血液型はB型。仕事は自営業で、千葉県で金券チケット屋を経営している。というと誰もが疑問に思うことだが、仕事はどうするんですかと訊くと、店員にまかせてある、売り上げを確認した上で、旅行先から給料を振り込むからさぼることはできないとのこと(というようなことを言っていた気がする)。そもそもなんでそのような手段で行くのかと訊くと、その方が安いからとのこと。返す刀で、誰か私の車を盗んでくれませんかと言われた。原則売らないという前提で、税関で免税手続きをしているけれども、盗まれれば保険金が下りて、帰りの飛行機代の足しになるからとのこと。ちなみに車はランドクルーザーのようなRV車ではなくて、そこら辺りで走っている、全くごく普通の普通乗用車カルディナ、キャンピング改造もしていない。

 むしろ凄いのはフェリーの方で、岸壁に並んである大量の中古車を船に詰め込む作業をしているが、通常の船内の車庫には収まらなくて、車をクレーンでくくりつけて吊り上げて、直接甲板に降ろすという、物凄い荒業を使っていた。なんだか西部警察かなんかの悪役が、人間を車に閉じ込めて処刑するシーンを見ているようだ。きっと1年に1回は吊り上げるのに失敗して、吊り上げた車がバランスを崩して落としてお釈迦にしているのに違いない。

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 時々毎回同じ口調の女性船員の放送がロシア語で入るが、あれは「とっとと車を積み込まんかい」と言っているらしい。出港が遅れるわけだ。夕食の時間になっても出航できず、出航の様子を見ようとずっと甲板にいて、出航を見届けて船内のレストランに入ったら、夕食時間は終わっていて、仕方ないので売店でカップラーメンを食べている人が何人かいた。ちなみに食事代は3食ともチケット代に含まれている。味はそこそこハラショー。
 そのような荒業ぶりの割には仕事は丁寧で、甲板上のあらゆる場所に車が隙間なく器用に積まれている。フェリーにはプールもあるのだが、水は張ってなくて、車が2台その中に収まっている。また、車だけでなく、タイヤやドアなどの部品や自転車などもあちこちに積まれている。

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 日本発着の船にもかかわらず、船員に日本語ができる人はいなかった。そこらでぶらぶらしている真っ赤に日焼けした上半身裸のロシア人は、結構な割合で入墨が入ってありガラが悪い。とても堅気には見えない。これから乗り込む船はマフィアの巣窟の船の雰囲気だ。そうでなければ海賊船か。そもそも埠頭のフェンスの中に入ろうとした時、当局のパスポートチェックがあった。船に乗らない人は入れないらしい。なんだか難民収容キャンプに入るみたいだ。それだから余計ガラの悪い人しか目につかなくなる。埠頭にはフェリーターミナルもなく、ただ車の部品を扱う出張の売店しかなく、この異様な雰囲気の中、みなおそるおそる船に乗るしかなかった。もうとても日本にいるとは思えない。
 そんな猛者に交じって車を持ち込んだ場違いなその人、言葉は、ロシア語はできない、英語は片言とのこと。はたして無事に生きて帰ってこれるのかと誰しも思うが、体験記がHPに記載されているので、どうやら無事だったよう。でも相当怖い思いもしたらしい。遺書を書いたこともあったとのこと。

 ところで、この人以外にも個性的な方が乗船している中で、私もそれなりに変人的、じゃなくて個性的だったようで、私のことも旅で出会った人の一人としてHPにて紹介されている。曰く、名古屋の公務員、30歳ぐらい、相当の旅好きらしい、とのこと。日本人旅行者の大抵の方が、ウラジオストクを起点に、シベリア鉄道に乗って大旅行に出かけるのに対し、私の今回の旅行は優雅な船旅を満喫するのが目的で、ウラジオストクに到着した翌日に飛行機で日本に帰るという、訳のわからない小旅行ぶりが相当印象に残ったようだ。しかし、サラリーマンにとっては、これが標準的かつ精いっぱいの旅行である(どこが?)。

追伸:偉大なる旅行者さま、気を悪くしたらゴメンナサイ。あと、ミッション成功おめでとうございます。

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