見出し画像

エスパー雀士ミハルの憂鬱〜第三話【全十三話】

 三

 翌朝、二日酔いのせいでだるい身体に鞭打って、会社へ向かった。アパートから外に出て見上げた空は厚い雲に覆われ、モノトーンのグラデーションを描いていた。雨は止んでいたが、風は冷たく、冬に逆戻りしたよう。
 スプリングコートの襟を立てて両手をポケットに突っ込み俯き加減で歩いた。強い向かい風が無数の棘となって寝ぼけ顔の俺を刺す。路上でカラスがスナック菓子の袋を嘴で突っついていた。俺の存在に気がついたのか顔をこちらに向けじっと俺を睨んでいる。やっとありついた朝食を横取りされるとでも思っているのだろうか。さらに近づくとカラスは大きくひとつないて飛び立っていった。酔っ払いに絡まれるのはごめんだという風に。
 社員通用口のドアノブは、ついさっき冷凍庫から取り出したばかりなんじゃないかと思うほどひんやりとしていた。
 入ってすぐ左手に受付カウンターがあり、その後方が警備室になっている。いつもミハルが立っている場所にいたのは、望月という警備責任者だった。
 「副店長、おはようございます」
 がっしりとした体格によく日に焼けた顔。吊り上がった眉毛に切れ長の眼。制服を着ていなければ、どこぞのやくざ者だと思われても仕方のないような風体だ。現実に警備責任者だというのに、路上で警官に職務質問されたこともあるという。
 「もっちゃん、おはよ。ミハルちゃん、今日は休みなのかな?」
 「都築は今日は夜勤です。夜九時出勤ですね」
 甲高い声が質問に答える。そのいかつい風体と、女性の声色を真似ているような高い声がアンバランスだった。凄腕の腹話術士も、彼の声を聞いたら恐れをなして逃げ出してしまうだろう。
 「あ、そうか、なるほど」
 よく考えたら、毎日、ここにミハルが立っているわけではない。ミハルの存在が、自分の中で知らぬ間に大きくなっていることに気がついた。それは、上質なウイスキーが少しずつ心地よい微酔をもたらすことに似ていた。どうにも仕事に集中できない。事務所でパソコンに向かっている時も、売場を巡回している時も、ミハルのどんぐり眼と、白く美しい指ばかり頭に浮かんでくる。
 一日の業務を終えて、店を後にしたのは午後八時だった。ミハルが出勤する九時まで店に残っていようかという不埒な考えを打ち消した。外に出ると雨が雪に変わっていた。津軽では四月の雪というのは珍しくもなんともない。冷たく乾いた風に身震いしながら、墨汁をぶちまけたような空に向かって大きなため息をついた。吐く息が白く濁る。
 街灯が、闇の中で風に吹かれて踊る雪を照らしている。ミハルの白く長い指を思い出す。明日は休日だ。ミハルの顔を見ることもできない。無性に麻雀が打ちたくなってきた。俺は流しのタクシーを停めて、雀荘「千春」に向かった。

 ※※※※※※※※

 「それ、ローン!おいおい、副店長さんよ。終盤でそんな甘い牌を切るかね」
 対面に座っているテルが手牌を倒した。岩木山の紅葉が尻込みしそうなほど真っ赤に染めた髪が、蛍光灯の光を浴びて燃えるように輝いている。テルはゲン担ぎだといって、しばらく前に頭髪を赤く染めた。なんでも、今月のラッキーカラーは赤だと麻雀雑誌の星占いで読んだとかなんとか。ゲン担ぎで麻雀に勝てるくらいなら、俺もアルバイトで占い師でもやっている。
 「うるせえよ。お前のそのチャラチャラした髪の毛、目障りなんだよ」
 「ヘッ。この色にしてから俺は無敵だぜ」
 テルは眉にかかりそうな前髪をかき上げながら、俺が放り投げた点棒を点箱に仕舞う。どうにも勝負に集中できない。麻雀の神様はどこかで見ている。闘牌に集中できない雀士はいち早く見捨てる。
 麻雀は確率の勝負でもなく、運の勝負でもない。目の前に積まれた牌山は、全自動卓の下でかき回され、ランダムに積まれているものではない。そこには神の意思が宿っている。牌山から持ってくる牌の種類を予測しながら、手牌を組み立てる。それは運や確率任せの作業ではなく、神との交信だ。神の声が聴こえない者は勝負から脱落せざるを得ない。今日の俺のように。
 人の心が読めてしまうミハルにとっては、相手三人の手牌はガラス張りだ。相手三人の手牌から牌山に残っている牌を予測し、自分の手牌を組み立てる。そして、相手三人の手牌から溢れる牌を予測し、討ち取る。それは神をも恐れぬ所業だ。
 背筋をピンと伸ばし、白くて長い指が牌を捌く。野球帽のツバの下に覗くどんぐり眼には、一体、何が見えているのだろうか。俺たちが見ている世界とは別のものが見えているに違いなかった。

 ※※※※※※

 酷い麻雀だった。頭を冷やすために「千春」から自宅まで三十分以上かかる道のりを歩くことにした。深夜二時。闇が最も深くなる時間帯だ。商店街を抜けると、夜の街を照らす灯はまばらになった。雪は止んでいたが、風はさらに冷たくなっていた。スプリングコートの襟を立てて、両手をスラックスのポケットに突っ込んで、俯き加減で歩く。すると、突然、スマートフォンが鳴った。こんな時間に一体、誰だろうと画面を見ると、店からだ。
 「はい」
 「副店長ですか?都築です」
 鼓動が速くなる。
 「あ、あれ、ミハルちゃん。こんな時間にどうしたの?」
 「実は、食品売場バックルームの冷蔵庫が高温異常で発報したんです。こんな時間に申し訳ありませんが、すぐに店の方に来てもらえますか」
 「あ、うん。わかった」
 店内の冷蔵庫が温度異常になれば、中に入っている商品や原料はすべてダメになってしまう。こういう事故は気温が高い夏場に起こりやすく、寒い時期に起こることは稀であった。いずれにしても冷機事故の対応責任者は副店長であり、例え午前二時だろうが現場に駆けつけなくてはならない。止んだはずの粉雪が再び舞い始めた。漆黒の闇に浮かぶ雪の何者にも侵されない純白さは、ミハルの白くて長い指を思い出させる。スプリングコートでは耐えきれない寒さのはずだが、胸のあたりがほんのりと暖かい。俺はコートのポケットに両手を突っ込み、歩道でタクシーが来るのをじっと待った。ほどなく一台のタクシーが空車の赤いランプを煌々と光らせてやってきた。右手をあげタクシーに乗り込む。
 「ラックスマートまでお願いします」
 「はあ、、こんな時間にですか?」
 バックミラーに映った、坊主頭で四角い顔をした運転手が眉を顰めている。
 「ええ、実は、あの店の責任者をしているものなんですが、冷機に異常があると連絡があったものですぐに行かなくてはならないです」
 「はあ、、」
 そうは言ってみたものの、運転手は依然怪訝そうな眼差しをバックミラーに映している。左右がくっつきそうな太い眉の下にちょこんとおさまった小ぶりで細い両眼のせいで、四角い顔がいっそう大きくみえる。人通りがほとんどない深夜の路地をこんな時間にふらふらと一人で彷徨っていたのだ。怪しい者だと思われても仕方ない。
 「実は、この先の雀荘で麻雀をしてまして、、、」
 「おお、そうだっきゃ」
 運転手の顔が急に綻んだ。四角い顔がまるで満月のように丸くなった。
 「麻雀の途中で会社に呼ばれるとは、お客さんもついてないっきゃね、、」
 「運転手さんも麻雀やられるんですか」
 「ええ、月二くらいで仲間うちでやってます。もっぱらサンマですけどね」
 「へえ、、サンマですか」
 サンマとは三人麻雀のことだ。四人麻雀よりもゲーム回しが早く、高い手が出来やすいサンマはギャンブル性が極めて高い。
 「サンマだと、結構、動くんじゃないですか」
 「ですなあ、ですなあ。下手したら一晩で十本【十万】くらい動くはんで」
 「へえ、そりゃすごい」
 運転手はずいぶん気を良くしたようで、一晩でひと月分の給料の三分の一を無くしたとか、逆に一晩で十五本買ったとかという武勇伝を延々と語り始めた。適当に相槌をうち、車窓から外にを眺める。雪はさらに勢いを増したようであった。

 ※※※※※※※※

 深夜の社員通用口というのは実に不気味だ。今この大きな建物の中にはミハルしかいない。扉の横に備え付けられているインターフォンの前に立って、意味もなく深呼吸をした。吐く息が白く濁って、吹雪の中に消えてゆく。インターフォンのボタンを押して数秒後、ミハルの声が答えた。
 「はい、都築です」
 「ミハルちゃん、大丈夫?」
 「あ、、副店長。今開けますね」
 ガチャリと扉を開錠する音がやけに大きく響いた。ドアノブを捻るミハルの白い手が覗き、ついでミハルのどんぐり眼と目があった。いつもながらその小さな顔には大きすぎる制帽を被っている。
 「あれ?副店長、なんでそんな格好してるんですか?」 
 スーツにスプリングコートコートを羽織った姿の俺に驚いたのか、ミハルは目を丸くした。
 「いやあ、仕事終わってから「千春」に行ってさ、ついさっきまで麻雀やってた」
 俺は頭をかきながらそう答えた。
 「あら、お楽しみの邪魔しちゃってすいません」
 「いや、酷い麻雀だったから早々に退散したんだよ。雀荘出て家に帰る途中だった」
 「そうだったんですね。あ、早く中に入ってください。寒いでしょ」
 俺は受付カウンターの後ろにある警備室に入り、コートを脱いでハンガーにかけた。警備室は暖房が嫌になる程効いていた。
 「それで、発報したのは何処の冷蔵庫なのかな」
 「精肉売場の冷蔵ケースみたいです」
 「じゃあちょっと現場を見に行こうか」
 俺たちは並んで、バックルームの通路を精肉売場に向かって歩き出した。非常灯の灯だけがぼんやりと灯る薄暗い店内はやはり不気味以外の何物でもない。バックルームの通路がやけに長く感じた。ほんのりシャンプーの匂いが漂ってくる。夜勤に入る前にお風呂に入ってきたのだろう。ミハルの一糸纏わぬ姿を想像した。透き通るような白い肌。張りのある乳房。ふと視線を感じて横を見ると、ミハルがちらちらとこちらを見ている。
「副店長?なんか、変なこと考えてませんか?」
「え?あ、、いや、そんなことないよ」
 恥ずかしさで顔が熱くなった。ミハルが人の心が読めることをつい忘れてしまう。迂闊に妄想もできやしない。スイングドアを抜けて売場に出た。発報した冷蔵ケースにミハルが手にしていた懐中電灯の光を照らす。懐中電灯を持つ左手の指が、薄暗がりのなかでぼんやりと白く浮かび上がる。それは幻想的と言っても良いほどの美しさだった。
 温度計のデジタルは十二度を表示していた。生肉の管理温度帯はマイナス二度から二度。食品売場に設置されている冷蔵・冷凍ケース、およびバックルームに設置されている冷蔵庫、冷凍庫の温度データは全て警備室に繋がっている。なんらかの理由で冷機がトラブルを起こし、高温異常が発生すると警備室にある冷気管理板が発報する仕組みになっている。当然のことながら冷蔵庫が夜間に事故を起こしたら、中に陳列されている商品は全て売り物にならなくなってしまう。そうならないための仕組だ。
 小売業において警備とは、お客様、あるいは従業員を守るための存在である。しかし、守るべきものは「人」だけではない。店内に設置されている様々な設備、あるいは陳列されている商品、つまり、店に存在する全てのものが警備されるべき対象となるのだ。
 幸い、高温異常が発生している冷蔵ケースは一台だけのようで、ケース内に陳列されている商品は大した量ではなかった。非常灯とミハルが照らしてくれる懐中電灯の灯りだけを頼りに、隣の冷蔵ケースに移動させた。
 「これでよし。警備室に戻ってから、山倉冷機に連絡しよう」
 「大したことなくて良かったですね」
 警備室に戻り、業者に連絡をした。一時間もあればこちらに到着するという。落ち着いたら疲れがどっと出てきた。警備室の中央には灰色の事務机があり、パイプ椅子が四脚置かれている。俺はパイプ椅子に腰を下ろし、大きく伸びをした。
 「副店長、お疲れ様です。コーヒー飲みます?」
 「お、いいね」
 ミハルが警備室の片隅に設置されている食器棚からコーヒーカップを二つ取り出し、俺の前に置いた。パイプ椅子の上に置いてあるえんじ色のリュックサックから黒い魔法瓶を取り出す。ミハルの白く長い指が魔法瓶の蓋を開ける。黒い魔法瓶にミハルの白い指が絡みつく様は、ピアノの鍵盤を連想させた。ミハルが幼い頃、ピアノ教師の家から裸足で逃げ出した話を思い出す。コーヒーカップに注がれた黒い液体から湯気が立ち上り、芳しい香りが鼻腔をくすぐる。コーヒーなのにまるでハーブのような香りがする。その香りは、一度体験すると、脳内に永久保存しれるほど個性的なものだった。ミハルが空のパイプ椅子を俺の隣に移動させた。二人並んでコーヒーカップを傾ける。
 「美味しいね、このコーヒー」
 「そうでしょ。ちゃんとコーヒーメーカー使って、豆から挽いてるの」
 「俺なんか缶コーヒーばかりだからね。ほんと、違う飲み物みたいだよ」
 「ダンナがコーヒーの味に煩くてね、、」
 「そうなんだ」
 胸の奥がチクリと痛んだ。年齢を考えれば、結婚しているというのも、当然と言えば当然だ。
 「きっとカッコ良い旦那さんなんだろうね」
 「でもね、五年前に離婚したのよ」
 「、、そうなんだね、、」
 「あ、今、副店長、喜んだでしょ」
 「あ、、バレたか」
 俺たちは顔を見合わせてクスクスと笑った。数秒の沈黙が流れる。その後、ミハルは真剣な顔で口を開き始めた。
 「あれは、中学ニ年の時。たしか数学の授業中だったわ。下腹部がなんとなく重くなって、、トイレに行こうと手を上げて先生に頼んだの」
 「うん」
 「数週間前からね、なんとなく胸が張ったような感じがして少し痛みもあった。いよいよ初潮ってものが来るんだな、って思ったの。周りの女の子はもう結構経験済で、私は遅いほうだった。だから、その時は不安よりむしろ安堵感の方が強かった。やっとみんなに追いついた、みたいなね」
 「うん」
 「数学の先生、女性だったから、なんとなく気配でわかったのかな。中学時代って、授業中にトイレに行くのってとっても恥ずかしいことだったでしょ」
 「たしかにそうだね。我慢できずにもらしちゃったやつとかいたり、、」
 「そうそう。でも先生は優しく『顔色が悪いわよ。具合が悪いんなら保健室で休んできたら』そう言ってくれた。私は頷いて教室を出た。そして、トイレに行く前に保健室に寄ったの」
 「うん」
 「保健室の先生、すごく綺麗な人で女生徒みんなの憧れの的だった。当時もう三十超えてたと思うんだけど、背が高くって、肩まで届く長い黒髪がいつも照明に反射してキラキラ輝いてた。赤いフレームの眼鏡をかけてて、眼は切長。いつも綺麗にクリーニングされたシワひとつない白衣を羽織っててね、妙にそれが色っぽくて、、、でも、今思えば、モデルというよりは、アダルトビデオに出てくる女医って感じかも」
 そう言ってミハルはまた俺の目を見てクスクスと笑った。素肌の上に白衣を羽織ったミハルを妄想してしまう。妄想したことを口に出すことは理性で抑えられても、妄想そのものを防ぐことは不可能だ。
 「それでね、そんな綺麗な人でも気さくな性格だったから『先生、あれがきたみたい』って言ったら、何も言わずににっこりと笑って、『おめでとう』って。それで、机の引き出しから生理用品が入ったポーチを取り出して渡してくれた。ドキドキしながら、授業中で静まり返った廊下をトイレに向かって歩いたのをよく覚えてる」
 そこまで話して、ミハルはコーヒカップを傾けた。どうやら話の核心はこの後やってくるらしい。ミハルにつられるように俺もコーヒーを一口啜った。黒い液体が食道をゆっくりと流れてゆく。壁にかけられた時計の針はちょうど三時を指していた。半日前に遅い昼食を社員食堂でとって以来、何も食べていない。双方、本来の業務を怠けているのか、食欲も睡魔も一向にやってこない。たとえ夢の中だとしても、食パンの一切れくらい口に入れても良さそうなものだ。
 「トイレの個室で自分の体内から排出された赤茶けた血を見た時、それは起こった。突然、頭の中で、ぐわんぐわんって意味不明な騒音が鳴り出したの。慌てて耳を塞いだけれど、もともと外から聞こえる騒音ではなかったから全く意味をなさなかった。そのうち気が動転してきて、個室の中で大声で叫んだ。このまま音に殺される気がしたの。そして数秒後、私はそのまま気を失った」
 「そ、それでどうしたの?」
 「どのくらい気を失っていたかわからないけど、目覚めたとき、保健室のベッドの上で仰向けになって寝ていた。保健室の先生が心配そうな顔で私を見ていた。脳内の騒音はすっかり収まっていて、生理の血で汚れてしまった下着は真新しいものに履き替えられていた。きっと先生が着替えさせてくれたのね、、」
 「そうか。なんでそんなことが、、」
 「そして、その日から私の脳内に、他人の心の声がきちんと言葉ににって届くようになった。それまでは、なんとなくだったんだけど、ピアノの先生から逃げ出した時もね。でも、初潮の日から人の心がよりクリアにわかるようになったの」
 「あの、その、初潮とミハルちゃんの特殊能力にどういう関係性があるんだろうか」
 「わからないけど、その代償はあまりにも大きかった。その日、帰宅したら母の姿が消えてなくなっていた」
 「ええっ!消えたって、、」
 「そう。もう自由になりたい。そんな殴り書きのような書き置き一枚残してね。多分どっか、男のところに行ったんでしょ」
 「そんな無責任な、、」
 「私の両親、どこかおかしいのよ。父はもうずいぶん前に母と三歳の私をおいて出て行った。母もそれに倣ったんでしょ」
 「探そうとはしなかったの?」
 「うーん、探しても無駄だってことが分かってたし、なんとなく気配でね。もうすぐいなくなるなってわかってたから」
 「ミハルちゃんて、淡白なんだねえ、、」
 「それでもいやいや初潮が来るまで育ててくれたんだから感謝してるわよ。そんなわけで、私は母を失うかわりに、他人の心の声が聞こえるという特殊能力を身につけることができた。流石にまだ中学生だから一人で暮らすわけにもいかず、隣町に住んでた祖母のところに転がり込んだ。そこで麻雀と出会ったの」
 そこまで一気に話すと、途端にミハルは黙り込んで下を向いた。長い台詞の途中で、その先を忘れてしまい、固まってしまった新人女優を思い浮かべた。数秒の沈黙ののち、ミハルは顔をあげ、決心したような表情で再び話し始めた。
 「副店長、隔世遺伝って知ってる?」
 「ああ、確か親じゃなく、祖父母とかそれ以上の年代から遺伝を受けることだよね」
 「そうそう。で、祖父母の家で暮らすようになって、私の特殊能力が隔世遺伝ってことがわかったのよ。祖母からのね」
 「おばあちゃんから?」
 「うん。おばあちゃんっても、すごく美人だったのよ。私がいうのもなんだけどね。まだ若い頃母を産んだから、並んで歩いてると、おばあちゃんと孫というよりは、母と娘に見えたみたいよ」
 「なるほど」
 そして、ミハルの長い話が始まった。

【第四話につづく】

第四話はこちら

https://note.com/hiroshi_4635/n/n115865efbcf2

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?