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📕フィッツジェラルド「グレート・ギャッツビー」



 「すっかり夏になっていた。道筋の宿屋の屋上にも、赤い新型のガソリンポンプが照明を浴びている修理屋の正面にも、夏の色がある。ウエストエッグのわが家に着いて、車を車庫に入れてから、放ったらかしの芝生ローラーに腰をおろした。風が吹いたばかりで、まだ夜がざわめいている。木立に鳥の羽ばたく音がする。とめどなく湧きあがるオルガンのような音は、大地に生命の風を吹き込まれたカエルの群れが発している。猫がシルエットになって月明かりに揺れ動き、これを目で追った私は一人ではなかったことに気がついた。十五メートルほどの距離に立つ人影がある。隣の豪邸から出てきて、手をポケットに入れ、銀の粒を振りまいた星空をながめていた。身のこなしに余裕があり、しっかりと芝を踏む立ち方からしても、ギャッツビーなる人物に違いない。この土地の住人として、大きな夜空を見たくなって出たのだろう」

 〜フィッツジェラルド「グレートギャッツビー」小川高善訳光文社古典新訳文庫P40より抜粋

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 意外にも読み終わるのに時間がかかってしまいました。読み終わった本について書く時、だいたい、気に入った文章を転記するのだけれど、これがなかなか面倒くさい。でも、改めて転記することで、作品についての印象が強固になることは確かです。

 さて、今回の引用は、語り手であるニックが初めてギャッツビーと遭遇する場面。洒落た風景描写から登場するギャッツビーはこのワンシーンだけで強烈な印象を持って読み手に刷り込まれると思います。

 現実社会でも対人関係において第一印象が大切なように、小説世界でも、主要なキャラクターが初めて舞台に登場するシーンは極めて重要に思います。その点、フィッツジェラルドは見事です。

 今回、光文社古典新訳文庫で再読したのですが、なんていうのかな、古典をもっと楽しんでほしいという、意気込みみたいなものを感じました。その良い例が、グレートギャッツビーの登場人物一覧が記された栞の存在。

 文庫本の最初にこれを書くのではなく、栞として別に記すことで、栞を挟むときにいつでも登場人物を復習できるんですよね。芸が細かいなあ、と感心しました。

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