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少年の頃の思い出❷〜「ゼビウス」


🌹「ゼビウス」

 小学生の頃、駄菓子屋というところは実に怖い場所であった。なぜなら、駄菓子屋の中にゲーム筐体がひとつふたつ設置されていて、そこがいわゆる不良たちの溜まり場になっていたからである。

 僕がその溜まり場で初めてゲーム筐体に触れたのは「ブロック崩し」だった。上級生に連れて行かれていやいや行ってみたのだが、それが逆にテレビゲームにハマり込むきっかけになってしまった。

 当時は家庭用ゲーム機はまだ普及されておらず、テレビゲームをしたければ五十円玉を握りしめて、駄菓子屋に行くしかなかった。

 初めてゲーム機に触れた時思ったのは、ここが思ったより平和な場所だということだ。学校で不良と呼ばれ、恐れられていた上級生たちもこの場所では和気藹々と順番にテレビゲームを楽しんでいた。

 この駄菓子屋では定例にゲーム大会も開かれており、みんなが腕を競い合っていた。学校では怖いとしか思えたかった上級生たちも、なぜか駄菓子屋のおばちゃんには懐いていた。「おばちゃん、ジュース2本ね」そう言って100円玉を渡して、「おい、お前の分な」って、学校一おっかない上級生が笑顔で僕に瓶のコーラを渡してくれた。買い食いもテレビゲームも校則で禁止されていたが、この駄菓子屋が摘発されることはなかった。

 閉鎖的で決して褒められた場所ではないけれども、ここは確かにひとつのコミュニティだった。ここでは誰もが公平で誰もがお互いを思いやっていた。

 家庭用ゲーム機の普及により、ゲーム機を設置している駄菓子屋はもとより、ゲームセンター自体も激減した。オンラインゲームの普及が顔も声もわからない人たちとの浅く広いネットワークを生み出し、引きこもりや様々なトラブルの温床になってしまっている。

 あの平和な場所にあいつが設置された時は衝撃だった。

 今までのゲーム機とは一線を画した美麗なグラフィック、そして、おそらくゲーム機初であろうBGMの搭載。

 「ゼビウス」という名の歴史に残るテレビゲームは僕達を魅了した。しかしそれはテクノロジーの進化がゲームの歴史そのものを変えてしまう序章に過ぎなかった。

 「ゼビウス」がゲームセンターで設置台数を増やすことと並行して、家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター」の普及が加速してゆく。

 それは単にテレビゲームの進化だけにはとどまらず、僕たちの置かれている立ち位置そのものも激変させるきっかけとなった。

(了)

 

 

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