見出し画像

色とりどりのメシの種【第一話】 #創作大賞2024

あらすじ

サトシとユイは二人きりの兄妹。
幼い頃に両親が行方知れずとなり、二人は祖父母の家に引き取られた。だが、祖父母の生活は苦しく、サトシが義務教育を終えると祖父から経済的な自立を要求されてしまう。

サトシが仕事をする決意を固めた時、マツダという男が現れた。自分は父の弟子で、サトシに仕事を頼みたいと言う。仕事の内容は「種を食べて人助けをする」という変わったもので、種を食べると案件を解決するのに必要な能力が使えるようになるのだった。

マツダの目的が何なのか分からないまま、生活のために案件を受け続けるサトシ。
依頼人の悩みに寄り添いながらもユイのために割り切って案件をこなすサトシを描くファンタジー小説。

【第一話】メシの種との出会い

腹が減ったら飯を食べる。至極当然のことだ。
その飯は誰が用意してくれるか。
未成年の子供の場合は、お母さん。お父さんが用意してくれる家も多いだろう。
でも、これは当たり前のことではないと知っている。

ウチの場合、ばあちゃんが飯を用意してくれていた。
俺達には両親がいない。生きているか死んでいるかも分からない。ある日、目の前からいなくなってしまったのだ。
だから、じいちゃんとばあちゃんが俺達兄妹を育ててくれた。ついさっきまで、だけど。

俺の中学の卒業式の日、晩飯を食べ終えると、じいちゃんが唐突に言ったのだ。

「サトシ。すまないが、今日からお前達の食べる分はお前が働いて稼いでくれないか。じいちゃんとばあちゃんはもういっぱいいっぱいなんだ。家にはいてもらって構わない。よろしく頼む」

「分かった」と言うしかなかった。
俺の分は分かる。小学生のユイの分くらい、何とかできるんじゃないのか。それを聞こうと思ってやめた。これ以上、じいちゃんを嫌いになりたくなかった。

これまでが良過ぎたのだ。
幸い身体は頑丈にできている。ユイにひもじい思いだけはさせたくない。できる仕事はなんでもやろう。
そう考えていた時にあの男が現れた。

「やあ、サトシ君?こんにちは。久しぶりだね。僕のこと、覚えてないかな?
10年ほど前にね、お父さんの研究室で会ったことあるんだけど。マツダと言います」

お父さんの研究室で?
記憶になかった。

「いや、覚えてない。何の用?」

「まあ、そんなに尖らないでくれ。いい話なんだ」

「兄ちゃん、他人にいい話を持ってくる人間にロクな奴はいないって、ばあちゃん言ってたよ」
ユイが鋭く言って、俺の背に隠れた。

「お、君がユイちゃんか。参ったなあ。おじさんは悪い人じゃないよ」

「自分で自分のことを……」

「ユイ、分かった。言わなくていい」
俺はユイに静かにしているように言い聞かせた。

「それでマツダさん、用事って何?」

「今日はね、君に仕事を持ってきたんだ。仕事を探しているんだろう?」

「なんで知ってるの?」

「おじいさんから連絡があったんだ。ま、僕がその時が来たら連絡するように頼んでおいたんだけどね」

どういうことだ?

「僕は便利屋をしていてね。何でもやるんだけど、特に人助けに重きを置いてるんだ。困った人を目の前にすると放っておけない性格なんだよ。立派だろう?」

ユイが何か言おうとしたので、右手でユイの口を押さえた。

「名刺を渡しておくね」

マツダ超能力研究所
所長
マツダ リュウイチ

超能力研究所?怪しすぎる。
便利屋じゃないのか?
名刺を裏返すと、こう書いてあった。

何でもヘルプ屋マツダ
代表
マツダ リュウイチ

便利屋の名前、センスゼロだな。

「困ったことがあったらここに連絡してくるといい」

するわけないだろ。

「……で、仕事というのは?」

「今回の仕事は、放火魔の両親からの依頼でね。これ以上、息子が放火しないように止めてほしいと言うんだよ」

何だそれは。

「そんなの、俺にできるわけないだろ」

「ま、そう思うよね!でも、僕は君ならできると思っているんだよ、サトシ君」

マツダはなぜか嬉しそうに言った。

「この種を食べればね」

マツダは胸ポケットから小さな瓶を取り出して、俺の目の前で左右に振った。瓶の中で赤い種が揺れている。

「そんな種、食べたくない。食べたからって放火魔を止められるわけないし」

「まあ最後まで話を聞いてくれ。他に仕事はないんだろ?
 この種を食べるとね、不思議な力が使えるようになるんだ。放火魔くらい簡単にやっつけられるよ。この種はね、君のお父さんの長年の研究の集大成なんだ」

「その種を食べたら、どんなことができるようになるんだよ?」

「それは、僕にも分からない。種を食べた人間じゃないと分からないんだ。ただ、君は幼い頃からお父さんの研究書を勝手に読んでいたそうだね。ある程度の素養はあるんじゃないかな」

適当な奴だな。
どんな効果があるかも分からない種を俺に食わせようとしているのか。

「成功したら報酬として三十万出すよ。どうする?やってみるかい?」

三十万!
それだけあればユイと二人、しばらく楽に暮らすことができる。
マツダは大人の汚らしい顔で俺を見た。

「兄ちゃん、そんな仕事やることないよ!私も働くから!」

ユイが大声で反対する。
ユイ、小学生のお前ができる仕事なんてないし、働かせたくもない。俺が働くしかないんだ。

「失敗したらどうなるんだ?」

「ナイスチャレンジということで半額渡すよ。でも、死んだら駄目だよ?」

「分かった。やるよ」

「オーケー。契約成立だ。じゃこれからは言葉遣いにも気をつけてくれよ。僕が雇い主になるわけなんだからさ」

「……はい、分かりました。
 マツダさん、これからよろしくお願いします」

「よろしい!こちらこそよろしく頼むよ、サトシ君。
じゃ早速で悪いけど放火魔の両親のところに行って依頼内容の詳細を確認して来てくれる?」

「はい、分かりました」

こうして俺はマツダの怪しい仕事を受けることになった。ユイとの生活を考えると受けない選択肢はなかった。

お父さんの研究の集大成という種。
食べるとどうなってしまうのか。
お父さんを信じたいけど、マツダのことは全く信じられない。
とりあえず、今の俺にできることはよく眠ることだけだ。


【第二話】赤い種

【第三話】オレンジ色の種

【第四話】黄色の種

【第五話】青色の種


【第六話】茶色の種

【第七話】最終回?
次週、更新予定

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?