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分税制 中国経済用語

 中国の分税制(フェンシュイツー)改革(1994年)は、中央と地方の間で税を区分し、地方の収入源として大きかった付加価値税(増値税)を主として中央の収入とした。背景には地方政府による課税上の乱脈があったとされる。結果としてこの改革により課税権限の多くを中央に取られて、税収を抑えられた地方政府は、土地を徴用して民間に使用権を譲渡することを繰り返すこと(⇒徴用による住民との対立、しかしプラス面としては工場団地や都市の開発・再開発の促進)になったとされている。以下の引用は、中央と地方との関係を論じた有名な書物『大国諸侯』から取っている。この書物の文章は独特の勢いが読み応えがある。経済を論じた本ではあるが、中国を知るうえで是非読みたい本の一つといえるだろう。辛向陽《大國諸侯:中國中央與地方關係之結   第二版》中國社會出版社1996年。

 p.543  1978年以来、中国の農村改革、都市改革、経済体制改革、政治体制改革はすべて人を驚かせるほどの成果を上げた。
 ただ税財政改革のみは人々の思いに始終反していた。1979年以来の財政改革の最大の特徴は行政分権にあり、縦縦が中心の経済を横横が主であるものに変えるものであり、実質は変わっておらず、行政経済であった。この種の経済は社会の発展を促進した。しかしその最も主要な果実は、地方”諸侯”の勢力膨張、統一市場建設の阻害、中央のマクロ調整能力の低下、資源の際限のない自由移動であり、中国は最初から最後までタテとヨコに分割されたままで、一度緩められるとすぐに乱れ、引き締められると、すぐに死んでしまう環境のもとにあり続けるというものであった。
 (中略)
 しかし賛成反対を問わず、全ての人の共通の認識は財政の請負責任制(財政包干和承包制)にはかなり大きな副作用があり、地方保護主義を引き起こしており(滋生:繁殖させており)、改革する必要があるというものであった。
      p.560  1992年10月中共(中国共産党)は十四大会を招集開催し、江沢民書記は「改革開放と現代化建設の歩み(步伐)を早め、中国特色社会主義事業のより大きな勝利を奪取しよう」という報告の中で次のように指摘した。「国家、集団(集体)、個人の三者の利益をそれぞれ配慮して統一して計画し(統籌兼顧)、国家と企業、中央と地方の分配関係が順調になるよう整理して(理順)、利潤と税金の分流(利税分流)と分税制を段階的に実行しよう」。同時に「中央と省、自治区、直轄市の経済管理権限を合理的に区分し、中央と地方それぞれの積極性を充分発揮させること」を求めた。
 1993年に入ると分税制実行の歩みは多いに加速された。
 4月29日江沢民は国家税務局の税制改革に関する報告を聴取し、中央と地方の合理的分権、順調な整理を提起した。
 8月、ある責任のある同志が、最初の会議でつぎのように指摘した。財政改革については長年言われてきた分税制を来年は何が何でも実行する必要があると。
 分税制基本思想について、1993年8月以来、とくに9月中旬、分税制の総設計師朱鎔基は江沢民総書記、李鵬総理の委託を受けて、広東など十余りの省、市、自治区に赴き、省委員会、省政府とともにいかに分税制を実施するか、大量の行き届いた仕事を行った。自ら指導に当たった朱副総理は、3ケ月にわたる調査研究、欧州共同体の税制の参照、国際貨幣基金組織、韓国、台湾の法律原本の対照(借鋻)の末に、分税制を正式に定めた。

p.569   分税制の具体内容
1.中央と地方の事務権限に照らして、各クラスの財政支出範囲を区分する。中央財政は、国家安全、外交と中央国家の運営(運転)に必要とされる経費を負担し、国民経済メカニズムを調整し、区域の経済発展を適切にし(協調)、各方面の政策的支出、そして結果として中央が直接管理する事業発展支出を、マクロ的な調節を実施する。(以下略)
p.570
2.財政権限と事務権限を統一する原則にもとづき、中央と地方の収入を合理的に区分する。税制改革後の税種については、国家の権益を保護することとマクロ調節に必要な税種については中央税とする。地方経済と社会事業の発展に密接に関係し地方が管理することが適切な税種については地方税とする。経済発展に直接関係する主要な税種については、中央と地方共管(共享)税とする。この原則区分に従い、中央の固定収入には以下が含まれる。消費税、関税、税関代理徴収消費税と付加価値税、中央企業所得税、鉄道、銀行、保険など部門の納入収入(営業税、所得税および利潤)。地方の固定収入には以下が含まれる。営業税(銀行、鉄道、保険の本社が納入するものを含まない)、地方企業所得税(地方金融企業が中央に収める所得税を含む)、都市土地使用税、個人所得税、固定資産投資方向調整税、都市維持保護(維護)建設税、不動産税、車船使用免許税、印紙税、家畜屠殺税、農牧業税、耕地占用税、契約税、遺産税および贈与税、不動産取引付加価値税、国有資産有償譲渡収入など。今後、地方経済の発展と税源変化情況により、また地方税税種が不断に充実されることで、地方税収入は安定して成長する。中央と地方が共管する収入には、付加価値税、資源税、証券取引税を含む。付加価値税は中央が75%、地方が25%をとる。資源税は異なる資源の品種ごとに区分されてよいが、大部分の資源税は地方収入とされる。新たに徴収することになった証券取引税については、中央はまだ少数の都市の証券取引所を設立しただけであるので、中央と地方の割合は五分五分とする。
 財政体制改革後、中央税務機構と地方税務機構を分設する。中央税種と共管税は中央税務機構が徴収に責任をもつ。共管収入を比率に従い地方に分け与える。地方税種は地方税務機構は徴収する。

p.573
   分税制はおおよそ三段階に分けて実施される。
 第一は過渡段階である。この段階では古い分配のやり方(格局)と新たな分配関係が併存する。具体的にいえば、分税制と分成制が併存する。この段階はおおよそ成功した。1994年12月13日財政部長兼国家税務局局長の劉仲藜は、(中略)つぎのように言った「1年来の財税改革は、大きな変形(扭曲)を生むことなく、新たな財税の基本構造(框架)を確立した。」
p.574
   第二段階は新旧の体制が並行して進むもとで、分税制をさらに一歩完成することである。(中略) 
 第三段階は科学的、規範的分税制を推進することである。これは1997年以降実施される。
 
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